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「Xデー想定」が予想よりも早まり米国短期Tビルへの不透明感が高まる

アメリカのXデーが想定より早まりそうだという予想が出ている。まず最初に「人々がアメリカの短期国債(Tビル)を持ちたがらなくなっている」という趣旨のロイターの記事を読む。その上でXデーとはなにか、アメリカの政治に何が起きているのかも確認する。細かい状況を読もうとするとかなり読み込みが難しいので「全体的に緊張が積み上がっている」と理解してもらえればいいのではないかと思う。

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米財務省短期証券(Tビル)の金利が上がっている

ロイターが「コラム:FRB利上げピークと米債務上限の複雑な関係」という記事を配信している。コラムなので個人の見解である。米財務省短期証券(Tビル)を投資家が持ちたがらなくなっているのではないかと書いている。単体での需要予測は難しいのでオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利と比較している。

本来ならばアメリカ財務省は最も確実な貸し手なのだから金利も最も低いはずである。ところがOISとの乖離が目立っているというのだ。アメリカで金融機関に対する懸念が広がっており「最も確実な」金融商品に資金を投資させたい人は多いはずだ。にもかかわらずTビルが敬遠されているという異常事態である。

とはいえ、やはりアメリカ政府がデフォルトするとは考えにくい。このため市場は態度を決めかねている。スポット的にリスクのある期間の短期証券だけが敬遠されているようだ。

数カ月後に満期を迎えるTビル利回りが上昇した要因の1つだ。ただ7─9月期の後半に満期を迎えるものになると利回りは急低下している。

現在は6月ごろになんらかの危機が起こる可能性があると考えられているからこそこの時期のTビルの金利だけが上がっている。これが後ろにずれれば投資家の思惑は外れることになる。とはいえTビルのような安全な金融商品へのニーズはあるため保有を考慮ないわけにもいかない。そんな入り混じった状況だ。コラムは「さまざまな要因の緊張が同時にピークを迎えている」と市場の危機感を伝える。

当時はFRBの金利パスは問題になっていなかった。今回は数多くの要因が頂点に達し、市場は非常に神経質になっている。逃げも隠れもできない状態だ

調べてみるとアメリカ国債の先行きについて不安視する記事はちらほら見つかる。日経新聞の言っている「保険料」とはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率なのだそうだ。Bloombergは「米国債の需要も高まっている」と言っている。つまり金融不安を受けて国債のニーズそのものは高まっている。中立が急減していることから「何か起こるだろう」ということにはなっているが、ではそれが何なのかが誰にもわからないという入り混じった状態である。金融不安が先に起これば国債の人気は高まる。だが政治的な問題が先に起これば事情は全く変わってくる。

Xデーとは何か?

ではなぜこんなことが起きているのだろうか。

ロイターは「アメリカのXデー」が想定より早まるかもしれないと言っている。

中間選挙で民主党は下院での支配権を失った。この時点ですでに膠着は予想されており、資金が尽きるのは「秋よりも前になるかもしれない」などと言われていた。

アメリカ合衆国が政府を運営するためには日々支払いが必要だ。アメリカの会計年度は10月から9月末なので本来ならば9月末までの資金繰りができている必要がある。ところがこれが早めに尽きそうだ。ゴールドマンサックスはこれまで8月半ばまで資金繰りは持つのではないかとしていたが4月の税収が落ち込んでいるため資金繰りが行き詰まる時期が早まるのではないかと予想を修正した。具体的には6月前半になるという予想になっている。

アメリカが資金繰りに窮したその日がXデーということになる。だから、共和党主導の下院が債務上限を引き上げてくれさえすればXデーは回避できる。

財務省は議会に対して早めに対応するように求めている。通告を行ったのは2023年1月20日だった。6月5日まで「債務発行停止期間」を設けて公的年金基金への投資を停止するとしている。

さらに3月11日には歳入委員会に対して「アメリカがデフォルトに陥れば経済・金融が崩壊する」と警告した上で議員に無条件の引き上げを求めた。シリコンバレーバンクが破綻した時の発言だが「共和党が協力しなければこんなものでは済まなくなる」と脅したことになる。

共和党はタダでは応じない構えだがバイデン政権も妥協しない考え

もちろん共和党もXデー回避のための提案を準備している。だが、バイデン大統領の再選に有利になる政策を人質に取っている。

共和党の一部の議員たちは「政府支払いよりも国債の支払いを優先させるべきだ」と提案する。つまり政府資金よりもデフォルトを先に回避すればいいではないかという主張である。だがイエレン財務長官は「優先支払いもデフォルトも同じことだ」と言っている。資金繰りに窮した政府が支払いの辻褄合わせを始めればおそらく市場はこれをデフォルトの始まりとみなすだろう。

マッカーシー下院議長はさらにあけすけにバイデン大統領に政策の一部を諦めるように主張している。連邦債務上限を引き上げる代わりに具体的に政府支出を削減するように求めている。

バイデン大統領の「人気取り」のための学生ローン免税を廃止し、意識高い系のグリーンエネルギー奨励策も廃止させたい。ただし自分達の票田になりそうな退職金や医療制度は温存したいと考えている。下院での採決はできそうだが、共和党は上院の過半数は持っていないため成立の見込みは低いと言われているようだ。

バイデン大統領にとってはこの取引は「負け」になってしまう。2024年の大統領選挙の出馬をほぼ決めているバイデン大統領は議会民主党と電話連絡し取引はしないとこの要求を突っぱねた。

何らかの理由で両サイドとも意地になっているようだが何が原因なのかは外から見ていてもよくわからない。

基軸通貨である米ドルを抱えるアメリカ合衆国がデフォルトすることなどあり得ない。前回オバマ大統領の時もギリギリのタイミングで危機は回避されており「今回も単なるチキンレースの類であろう」というのがもっぱらの評判である。仮に支払いが滞ったとしてもそれは一時的なものであり「国家破綻」にまではつながらないだろう。だがそれでもデフォルトはデフォルトである。

政治は感情的にこじれており「前回もなんとかなったのだし最後には誰かがなんとかするだろう」という安心感さえも逆作用する可能性がある。国債の「保険料率」が上がったり、短期国債の金利に歪な動きが見られるのはこのためである。

FRBの利上げと政治的駆け引きが複合汚染化

前回オバマ政権の時にも同じような駆け引きがあった。ただ、今回はFRBの金利引き上げによって金融機関が脆弱化しているという大きな違いがある。つまり政治状況を基点とする混乱とは別に金融市場で不足の事態が起きかねないという事態になっている。

例えば、シリコンバレーバンクが破綻した際にはアメリカ政府の持出なしに救済している。だが「次も同じだ」という保証はない。FRBのパウエル議長も呆れ気味に「アメリカ政府がデフォルトした場合にはFRBはアメリカ経済を救うことはできませんよ」と警告を発している。

実際にアメリカの金融機関はかなり傷んでいるようだ。FRBは次回5月で利上げはいったん打ち止めにしようとしている。イエレン財務長官は今後は金融機関が慎重に融資を審査することで「同等の」金融引き締め効果が得られるのではないかと示唆している。これは当然ながら「貸し渋り・貸し剥がし」を生み出すことになるだろう。

実際に金融機関はいくつかの地区で貸出を厳しく制限し始めており、おそらくリセッション(景気後退)は避けられないだろうと考えられている。アメリカの国家デフォルトは可能性としては低いが政治が作り出した先行き不透明感はFRBの足を引っ張り実際に景気後退を作り出そうとしている。

これまでのFRBの金利引き上げは金融機関にとって「嵐」と言われていた。だがそれでも構造は比較的単純だった。金利が上がれば株価が下がり円安・ドル高が進行すると言った具合だ。FRBの金融政策に加えてアメリカ政治の問題が発生したことで状況は今後かなり緊迫することが予想される。

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