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伊吹文明氏が「今は政権を失った前夜に似ている」と維新の躍進を警戒

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共同通信が伊吹文明氏の「維新の勢いはすごい。全国に及んでいく可能性もある。われわれが政権を失った時の前夜と非常によく似ている」という発言を紹介している。この言葉の意味を調べた上で、維新の躍進がどのような影響を与えているのかを観察して最後に分析を加える。政権を失った前夜に似ているどころではなく「戦前に似ている」という人までいる。

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共同通信が「伊吹氏「政権失った前夜と似る」と警戒」という短い記事を出している。

これだけではよくわからないのだが朝日新聞がもう少し長く紹介した記事を書いている。

  • 今の維新の勢いは2009年の民主党に似ている。
  • 事前活動をしていない地域に馴染みのない人が当選し、一生懸命地域活動をやっている人が落選した
  • 維新の主張をどう受け止めるか我々(自民党二階派)はよく考えなければならない。

伊吹文明氏は大蔵官僚から衆議院議員になった。地盤は京都1区だった。1983年12月から連続当選し続けているが、民主党が躍進した2009年だけは民主党の平智之さんに敗北し比例復活している。これまで京都1区は共産党が比較的強い地域として知られ穀田恵二さんが比例当選することが多かった。しかしながら徐々に日本維新の会が躍進し穀田さんを脅かしつつある。焦りを感じた共産党・京都で内紛があったのは記憶に新しいところだ。

維新は2022年の参議院選挙でも躍進を続けており、統一地方選挙の最初のクールでも奈良県知事を奪取した。大阪市・大阪府では単独過半数を獲得し公明党との協力関係を見直すと言っている。

さらに、国政レベルでも自信を深めている。小西洋之氏の暴走をきっかけに協力関係を見直すと主張している。表向きの理由は「小西さんが失礼だから」なのだが、おそらくは立憲民主党抜きでもやって行けると感じているのだろう。全国進出の足がかりを掴み「もう立憲民主党は用済み」なのかもしれない。

IRを巡っても維新の自信が表れている。政権は政府は選挙戦への影響を避けるために統一地方選挙とIR認定をずらしたかった。IRが争点化し維新の得点になるのを嫌ったものと思われる。

ところが精査に時間が必要となりギリギリまで決まらない。結局、維新が大勝してしまい「IR推進」が民意ということになると慌ててIRを認可した。これまで安倍総理・菅総理時代には「IRを推進するためには自民党の協力が欠かせない」などとしていた維新だが、今回は「選挙結果を受けて、すぐに認定したのだろう」と言っている。維新に媚びているのではないかと言わんばかりだ。

維新の躍進に最も慌てているのが公明党かもしれない。「平和の党」と「政権与党」という二つの立場の間で揺れている。憲法審査会(衆議院)で憲法第9条に始めて反対の意見表明をした。例外規定とされている「必要な自衛の措置をとることを妨げず」という項目が積極利用される懸念があるというのがその理由である。

連立の旨味と池田大作氏の掲げる「平和の党」のイメージの狭間で揺れてきた公明党だが、これまでは誰かが反対してくれるだろうとして連立の旨味を優先させてきた。しかしながら、憲法第9条改正への「加担」は古株の創価学会会員の造反につながりかねない。逆に立憲民主党は参議院の憲法審査会で公明党に「秋波」を送っているという報道もある。

この、護憲の揺れはかなり気になる変化だ。我が国の安全保障環境は次第に複雑化しているのだが、安全保障議論は単純化に向かっている。憲法を改正しさえすれば中国に打ち勝つことができると信じる人が増えているという実感がある。

実はこうした議論は2009年ごろにも起きていた。それが埋蔵金である。民主党のメッセージは「今の政権は汚職にまみれて増税を画策している。だが霞ヶ関には埋蔵金が埋まっているのだからそれを取り崩せば日本はもっと良くできる」というものだった。

2009年はオバマ政権時代で「YES We Can」という改革の意欲が盛り上がった時代だった。明るい選挙委員会が年齢別の投票率を出しているのだが普段は選挙にゆかない若者が多く動員されたことがわかっている。政治がわからないという人たちが単純なメッセージに突き動かされ民主党を支持したのである。

「今の政治家たちはとにかく要領が悪い」ので「世代交代さえすればさまざまな問題は一気に解決する」とか、「憲法第9条さえ変えれば中国を打ち破ることができるようになる」という単純化した議論が進めば、再びこれまで選挙に行かなかった人たちが選挙に向かうかもしれない。

ただし、今回はオバマ政権のようなわかりやすい改革の機運はない。代わりに挙げられそうなのがAIである。

47ニュース(共同通信)が「チャットGPTがたった30秒で作った「憲法改正案」、その中身とは? 政治分野で使う可能性とリスク」という記事を出している。

政治課題といえば「ご飯論法」と言われるようにとにかくわかりにくい。一方でChatGPTは単純明快に「自衛隊を憲法の中に位置付けるべきだ」との回答を出す。実はさまざまなネットの論文をまとめてプロセス抜きに提示しているだけなのだが、単純なメッセージに「神の存在」を見る人がいるというのもまた確かだろう。

さて、こうした単純化は思わぬ方向に向かっている。先日、岸田総理が和歌山の漁港で襲撃された。容疑者は「弁護士がつくまで黙秘します」と言っている。当初は何かを隠していると思われていたのだが、実は弁護士を探しているようだ。一時は権力と戦うというイメージの宇都宮健児弁護士にアプローチしていたようだ。おそらく木村隆二容疑者は「今の制度はなんとなくおかしい」と思ってはいるものの何がおかしいのかを自分でまとめきれなかったのだろう。そこで

  • 大きな事件を起こして総理大臣を脅かせば自分の主張を整理してくれる弁護士が見つかる

と考えていた可能性がある。こうした単純化は直接国会や総理大臣に向かいつつある。国会を爆破するというメールが送られ、岸田総理の命を脅かすというメールも送られたそうだ。

現在の困窮は失われた30年だが、この時の困窮は疲弊する農村だった。まず民間の血盟団事件起こり実際に犠牲者が出た。これが軍隊に受け継がれて起きたのが五・一五事件だった。

この五・一五事件には三つの記憶に残る出来事がある。一つは犬飼首相が「話せばわかる」と言ったにも関わらず「問答無用」と攻撃されたという議論の拒否である。もう一つは軍に恨まれていることを知った議会側の萎縮だ。結局単独で政権を担いたいという政権はなくなり「挙国一致」になる。要するに誰も政治の矢面に立ちたくなかったのである。

最後に重要な点は国民の支持である。裁判の経緯が報道されると同情を寄せる人は少なくなかった。つまり、テロにより被害者の主張が広がる一方で政治が萎縮してしまったということだ。

このため、前回の山上徹也被告と今回の木村隆二容疑者について研究する人の中には、これら一連のテロと今回の事件を重ね合わせる人がいる。失われた30年対策こそが重要であって襲撃の「動機」とされるものは単なるトリガーにすぎないという。

どうも日本の置かれた状況は、犬養毅首相が殺害された5・15事件や、高橋是清大蔵大臣らが殺害された2・26事件と似てきたようだ。

しかしマスコミ報道を見ていると、失われた30年対策が話し合われることはない。当初「テロに負けないようにこれまで通りの選挙運動を続けるべきだ」としていたマスコミも「時代は変わったのだから無党派層への浸透は諦めた方がいいのではないか」という論調に変わりつつある。

維新の躍進は維新が大阪を中心とした地方自治体で成果を上げていることの表れなのだろう。だがやはり変化の裏には有権者が「とにかく面倒な議論なしに状況がパッと改善しないものなのか」という願望があるものと思われる。つまり議会制民主主義の行き詰まりの表れなのだ。こうした単純化した願望は2009年にも見られたが状況が改善することなく今また台頭しつつある。

前回の例を参考にするならば、これまで選挙に行かなかった年齢の人たちが選挙に回帰するかが注目点になるのかもしれない。失われた30年で最も被害を受けている一方で政治に対する理解が必ずしも十分ではないという人たちである。

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