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日本の林外務大臣がわざわざ中国を訪れ「脱中国化」しないと約束……と新華社

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日本では「スパイ問題」を協議するために中国を訪問したと宣伝されているのだが、どうやら中国政府はそうは受け止めなかったようである。

新華社の情報をAFPが伝えている。李強首相は日本をさとし「日本が中国に歩み寄り、条約締結45周年を契機に対話と協力を強め、意見の相違を適切にコントロールし、リスクと干渉を排除していくことを希望する」と語ったことになっている。

「単なる新華社のプロパガンダだ」と思いたいところだが、実はそうではない可能性がある。自民党の外交政策は実は一枚岩ではないからである。

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新華社の記事は李強首相の主張を伝えた後で林外務大臣のコメントも紹介している。

これに対して林芳正外務大臣は「昨年は日中国交正常化50周年に当たり、今年は日中平和友好条約締結45周年を迎えた。両国関係は正に重要な節目にある。日中は幅広い分野で協力の大きな潜在力を持っている。日本は対中協力の推進に力を入れ、「脱中国化」のやり方はとらない。」と言ったとされている。

つまり新華社を読む限り、中国は日本は態度を改めて中国に歩み寄るべきだと諭し、わざわざ中国を訪れた林外務大臣は「脱中国化はしない」と自ら誓ったことになる。

安倍政権下で自民党は中国に対して毅然とした態度で臨む政党だと考えている人も多いだろう。だが、もともと自民党には保守本流・保守傍流という外交姿勢が異なる2つの勢力がある。安倍総理の属する清和会は元々は保守傍流と呼ばれており対中姿勢は比較的強硬だ。一方の宏池会はアメリカだけでなくバランス良く中国や韓国とやってゆきましょうという政策である。

有権者は選挙を通じて自民党を選択することはできるのだが、自民党の総裁は党員と国会議員が決める。つまり、自民党の中の外交政策を直接決定することはできない。加えて、自民党の中にもそれなりに複雑な派閥力学がある。

宏池会の実力者だった古賀誠氏などは、清和会と協力姿勢を見せている岸田総理大臣と距離が離れていると言われている。代わりに、対中国にパイプを持つ林外務大臣こそが本来の後継者であると言っている。一部メディアでは実質的な後継指名宣言まで行われているため岸田総理は岸田派の領袖としての地位を維持している。下手に手放してしまうと林さんに「全部持ってゆかれてしまう」可能性もあるからだ。

日本と中国では報道のトーンが全く違うため「新華社は単なる中国のプロパガンダだろう」と思いたくなる。だが、自民党の中に力学を観察すれば実際には単なるプロパガンダでない可能性もある。本来「邦人の拉致」に抗議するだけならば駐日大使を呼びつけて抗議すればいい。

林さんがわざわざ中国を訪れた背景にはなんらかの別の事情があると見た方が良さそうだ。つまり対中穏健路線の維持は自民党の中の「主流」と呼ばれた人たちの本音であるともいえるのだ。

中国ビジネスに期待する人も多いのだから、林さんが慌てて中国に走ったことが国益を損なうとは言い切れない。

ただ、林外務大臣が関係悪化を恐れて慌てて北京に走ったことで、共産党と中国政府は「これはなんとかなる」と思ったのだろう。すでに報じられているように尖閣諸島の領海に80時間以上も船を停泊させてプレゼンスを誇示する一方でアメリカに追随して半導体の供給網を撹乱すれば「日本のためにならない」と仄めかしている。

新華社的な言い方をすれば次のようになる。あなた(日本)のためを思って指摘してあげているんですよと言いつつ、このままアメリカについてゆけば「こちらも日本側の害になるようなことをやらなければならなくなる」と宣言している。穏やかな表現で軽く恫喝しているのだ。

世界の半導体産業チェーン・サプライチェーン(供給網)の形成と発展は市場原理と企業の選択が共に働いた結果だ。経済・貿易と科学技術の問題を政治化、手段化、武器化し、世界の産業チェーン・サプライチェーンの安定を人為的に破壊することは他者を損なうだけでなく、自らも害することになるだけだ。

恫喝する側が悪いとは言えるが、相手側はおそらく日本がアメリカか中国か決めきれないことを見抜いているのだろう。つまり日本側にも原因がある。

中国に対してどう接するべきかは人によって意見が異なるだろうが、どちらの立場を取るにしてもさまざまな報道を総合的に判断しつつ状況を見極める必要がある。相手が何を主張しているのかも含めて注意を払う必要があるだろう。

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