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習近平外交は躍進するものの、中国の地方政府は借金をため込んでいる

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ここのところ習近平中国が続け様に外交成果を上げている。こうなると日本でも「独裁の方が効率がいいのでは?」と考える人が出てくるだろう。だが、その一方で地方政府が抱える債務が急速に増えているという報道がある。ついにGDPの50%に達したというのだ。ただ国家統計があまり信頼できないため内情はよくわからない。

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中国の地方政府は9兆ドルの債務を抱えているとロイターが伝えている。これはGDPの50%に達するそうだ。

実は中国ではロックダウンや移動規制の影響などで経済が落ち込んでいる。

国家レベルでも雇用の創出は重要な課題だ。大学を卒業した人たちが就職先を見つけられない状態が続いている。16才から24才の失業率は18.1%と過去最悪だった。李強首相は中国の最優先課題は「雇用創出」であると考えている。中央からの指示には絶対に従わなければならないため、貧しい地域での「国家ぐるみ」で若者を雇用する政策を続けるところも出てくるだろう。

ただ貧しい地域ではなかなか雇用先が確保できない。最も手っ取り早いのは地方政府が公務員を増やして雇用を確保するという方法である。さらに地域で高等教育を受けた人たちを他地域に流出させることも防ぎたい。つまりギリシャ化が進行している地域がある。

ギリシャはポピュリズム傾向のあった政権が政権を維持するためにこうした政策を推進していた。共産党の強い指導力が期待される中国ではそもそも政権交代が起こらないため、政府は経済政策を失敗させることができない。かといって民間活力に頼ることもできないのだから、自分達で雇用を作ってなんとかするしかないわけである。

失敗は隠蔽される。正直な統計は出てこない。本当はどうなっているのだろうか?とエコノミストたちは不安を感じているようだ。

結局ギリシャはこの路線で財政破綻した。この慣行は今でも続いており鉄道死亡事故では暴動が起きる騒ぎになっている。ギリシャの場合はEUが支援の条件としてギリシャに厳しい財政規律を押し付けたが、国民の政治監視のない中国にはEUのような存在はない。

ただし中国の危険はそれだけではない。

多くの地方政府はLGFV(地方融資平台)と呼ばれるスキームを作り債権市場から資金を調達し開発も行っている。ゆきすぎた開発や歪んだ融資を監視すべき立場の政府が当事者になっているという危ないスキームだ。日本でも地方自治体がバブルを背景に土地開発公団のようなものを作っていた。千葉市ではその一つが破綻し千葉市は3億5千万円の税金を投じて救済している。その後千葉市は長い間「財政緊急宣言」が出されていた。

IMFがLGVFが抱えている債務が57兆元から66兆元に膨らんだと報告したのが2月だったそうである。これが冒頭の「9兆ドル」の正体のようだ。つまり政府統計では負債内容がわからずIMFが精査して初めて分かったということになりそうだ。

一つのLGFVが破綻すればおそらくそれは連鎖反応を起こすのではないかと思える。おそらくは誰も状況を把握していないため連鎖反応が破壊的なものになるのかあるいは単独の崩壊で終わるのかは誰にもわからない。

2022年1月に鶴崗市が財政破綻した時にも「連鎖破綻」の懸念があったのだが。破壊的な動きは表面上は起きていない。そもそも土地の使用権を使ったスキームなので土地は値上がりするぞという期待が需要を膨らませるバブルの側面がある。つまり同じようなことはさまざまな地方都市で起きているはずである。にもかかわらず崩壊が起きていないのだから、おそらくは誰かが裏で「なんとかしている」可能性が高い。

ただし、この破綻が中国国内にとどまるならば、中国が勝手に潰れるだけの話である。問題は中国の債務国家化である。つまり新興国にも広がりかねない。

中国はアメリカが覇権を握っているのはドルによって世界を支配しているからだと考えている。アメリカに取って代わりたい中国はこの一部を元経済圏に置き換えようとしている。アメリカやIMFが経済的余力を失いつつあり実際に元経済圏は拡大しているようだ。途上国に対しては世界最大の債権国となっているそうである。

このスキームは途上国政府の財政悪化を粉飾するための隠れ蓑として利用されているという。

こうした放漫財政国家もいよいよ立ち行かなくなると「IMFになんとかしてください」と泣きついてくることがある。この時にやっと「実はこれくらい中国との借金がありました」などと説明してくる。そこでIMFは「中国に言って返済を有用してくれるように」と命じるわけだが中国はなかなか応じてくれない。ここで初めて実態と影響力の大きさが部分的にわかるという仕組みになっている。

中国国内のLGFVと途上国の脆弱な財政基盤という二つの問題を外から見えないように調整しているというのが今の中国の状況であり、IMF体制は間接的にその影響を受ける。経済破綻によって鉱物資源や農産物の輸出が滞れば消費者にも影響が及びかねない。

シリコン・バレー・バンクのような問題が起きると「誰かがなんとかすればいいのに」と思う。確かにその通りだ。だが、誰かがなんとかして辻褄を合わせているということは、誰にもどうにもできなくなった時には、本当に誰にもどうにもできなくなるということだ。

それがいつになるのかは誰にもわからない。そもそも実態を把握している人が誰もいないからだ。資本主義の金融市場にも固有の問題があり不良債権が定期的に蓄積するような回路が形成されている。だが中国はこれとはまた別個の危険因子となり世界経済にとって懸念すべき材料の一つになっている。

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