岸田総理(政府)、茂木幹事長(党)は共に、少子化の財源として保険料を考えていると強調している。鈴木財務大臣も国債発行には消極的だ。ただし地方選挙への悪影響を避けるためなのか「保険料の負担増」については口を濁す。国債に頼ってきた政府と自民党の選挙対策が限界を迎えつつある。
岸田総理は国会で「少子化対策は保険料で行きたい」と答弁している。ただし負担増の話はしていない。おそらく地方選挙への影響を懸念しているのであろう。ただ、鈴木財務大臣は国債には消極的なようだ。つまりどこかから財源を捻出してこなければならない。
茂木幹事長もBS日テレの番組で保険料について触れたそうだ。政府と自民党は共に保険料の負担増で決着させたいようだ。
茂木幹事長の発言は媒体によって表現が違う。まず時事通信は「さまざまな保険料の拠出」と言っている。拠出が増えるということは負担も増えるのだろうと自動的な類推ができる。だがNHKを読むとこの辺りがよくわからなくなる。
一方で「増税と国債は今、考えていない。さまざまな保険料については、値上げというより、拠出は検討していかなければならない」と指摘しました
ロイターははっきりと「保険料の負担増につながる可能性がある」と書いている。拠出が増えるのだから負担増が増えると考えるのは当たり前だ。そうでないならそうでないと言ってもらわなければ困る。誰が考えても当たり前のことがNHKには書けない。なぜ書けないのかを一度真剣に考えた方が良さそうだ。
そもそもなぜ政府・自民党は躍起になって国債を否定するのかを考えてみようと思ったのだが「そもそも誰が国債を主張しているのか」をいうことがわからなかった。検索をして出てきたのが世耕参院幹事長と立憲民主党の泉代表だった。お互いが呟きあっているだけで詳細にメリットとデメリットを確認しあったというような話が聞こえてこない。与野党論戦と言っても単に罵り合っているだけだし、そもそも自民党内部でどんな話が進行しているのかは全く伝わってこない。
安倍派・清和会では萩生田政調会長が「国債派」だったなと思ったのだが、実は防衛増税で話が止まっている。萩生田さんは防衛にこそ国債を使うべきだと考えているようだ。萩生田さんが少子化で国債発行を主張しているという話は見つからなかったが、そもそも防衛費についてもまだ話がまとまっていないのだ。
財源問題一つ取ってみても政府・自民党の発言は曖昧だが、全体の「たたき台」についてはさらに当惑が広がっている。
確かにメニューの一つひとつを取って街頭インタビューなどを撮ると「これはありがたいですよね」と思われることが多い。だが「では子供を作りたいですか?」と聞くと口籠もってしまう人が多い。そもそも子供を作ったり家庭を持つことが選択肢に入っていない人や「とてもそんなことを考える余裕などない」という人も増えている。まさに子供は贅沢品だ。
ではなぜこんなことになるのだろうか。さまざまな批判記事が溢れているがNewsweekに一つ記事を見つけた。
- たたき台と言っているがやけに具体的なところと曖昧な部分が混じり合っている
- メニューが総花的でどこに優先順位があるかわからない
というのが批判の内容である。
何かを決めるための作業をアジェンダセッティングというが今の政府はそれができなくなっているのだ。決められないというより考えがまとめられないということになる。さらにお互いが思惑を呟きあっている状態で、それぞれのメリットデメリットを話し合った形跡がない。
なぜそれができないかも明白である。少子化対策には二つの選択肢がある。一つは国が強いメッセージを出し国民に納得してもらうことだ。もう一つがお金を出してなんとかしてもらうという方法である。優先順位を決められない上に一般国民の感覚とはずれている今の政府には強いメッセージを出せる人がいない。このためこれまでお金でなんとかしてきたのだがその財源も怪しくなりつつある。となると、検討しても「結局何もできない」ことがわかるだけだ。
どうせ今回も掛け声で終わるのだろうと予想できることがもう一つあった。給食費の無償化である。
自民党の一部から給食無償化の話が出ているが、茂木幹事長は「地方にお金を配るからその範囲で地方が決めてくれ」との立場のようだ。結局、誰が何を決めているのかがよくわからないため、政府・自民党から画期的なアイディアが出ても「どうせ掛け声だけで終わるだろう」と予測がついてしまう。優先順位が決まっていないので「これだけはやり切ります」というものがない。
だから「どうせ次も掛け声で終わるんだろう」ということになる。
さまざまな点について検討してきたが、最後に残る印象は「この政府では将来の負担増が増すばかりだ」という漠然としたものにとどまった。レストランでメニューを散々見せられた挙句に「いやうちではこんなものは作れません」と言われているようなものである。もう誰もレストランには行かなくなるだろう。
こんな少子化対策ならそもそもやらない方が日本のためになるのではないかとすら思えてくる。