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トランプ氏と旧NHK党の共通要素は苦情政治(Grievance Politics)

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Ian Bremmer氏が今回のトランプ大統領の起訴についてまとめている。この中に「Grievance Politics」という聞きなれない言葉が出てきた。日本語に訳すると「苦情政治」になるそうだ。苦情政治のためにトランプ氏の起訴はトランプ氏に不利に働かないだろうといっている。「苦情政治」の元ではこれまでの常識が逆転してしまうのである。そもそもこの苦情政治とはどんなものなのか。

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アメリカの政治報道は1日トランプ氏起訴のニュースで持ちきりだった。もともとはポルノ女優の口止め料の支払いというセンセーショナルな事件である。トランプ氏が関連する事件の中では最も軽微なものとされているため、支援者が「魔女狩り」「司法の武器化」という言葉を使って抵抗している。このため「悲劇の法廷被告人」という劇場性が人々を惹きつけるのではないかなど恐れられている。日本の常識とはあべこべになっている。つまり容疑者であるからこそトランプムーブメントが盛り上がるという図式である。ひろゆき氏は「露出しまくるので党内では1位になっちゃうと思う」と言っている。慧眼だろう。

Ian Bremmer氏によると共和党の90%、独立派(無党派層)の70%、民主党支持者の30%もこの起訴を政治的なものと考えていると伝えている。つまり今回の起訴劇は「政治的な闘争」と捉えられているそうだ。

では苦情政治とは何なのか。Google検索するとリゼントメント・ポリティクスというWikipediaのエントリーがヒットする。「ルサンチマン政治」という意味である。現状に満足していない人が問題解決を諦めて他者に対するルサンチマン(英語ではリゼントメント)を募らせて攻撃的になるのがPolitics of resentment(リゼントメント・ポリティクス)であるということになっている。

問題解決を諦めた人はふた通りの対応をとる。一つは社会に訴えかけることを諦めてひきこもるというアプローチだ。日本ではひきこもりが146万人に増加しているという内閣府の調査が出たばかりだ。そしてもう一つがこの他者を攻撃する政治である。この二つはおそらくコインの裏表だ。

では苦情政治が進行すると一体何が起こるのか。問題解決の意欲は失われ倫理観も喪失する。

小規模ながら日本でも同じような問題は起きている。成功例と失敗例を挙げてみよう。

一つは立花孝志氏と大津綾香氏をめぐる旧NHK党の問題だ。政党は「問題解決の手段」ではなく「政党助成金と供託金を使ったビジネススキームだ」と捉えられている。さらに、「11億円の借金をどう返済するのか」というビジネス倫理の問題も取り上げられているのだが「騙された人が悪い」という話で終わっている。この問題で政党の倫理的責任について語る人はいない。そんな話をするのは馬鹿馬鹿しいと思えるような事態が日々進行している。

政党はビジネススキームとして理解されているだけなく、政策論争も単なる当事者同士の口汚い罵り合いとなっている。そしてその罵り合いそのものが見せ物になっている。この見せ物を見せれば見せるほどお金が儲かるとすればここには大きな経済的価値がある。YouTubeでは既に苦情政治が始まっていると考えられる上に、苦情政治としては「成功した事例」である。

もう一つは小西洋之議員を中心とした放送法問題だ。高市早苗大臣と最初のバトルがあり現在では記者たちの間で不毛な闘争が続いている。本来は民主主義と放送のあり方という議論が行われるべきなのだが「プロレス」「異種格闘技」として議論されている。だがこれは苦情政治としては失敗した。

カウンター・アベ政治の次のムーブメントを探してた小西洋之さんは放送法の問題に目をつけた。だが立憲民主党は「リベラル」な政党であり苦情政治政党ではない。さらに小西さん自身が「元総務官僚である」として放送局に圧力をかけたと取られかねない言動を重ねた。苦情政治は既存政治へのアンチテーゼなのだからこれは失敗しても当然だった。小西さんは苦情政治家としては構造を理解していなかった残念な人と言える。

さらに興味深いのは東京大学を出て総務官僚になった小西洋之氏が立花孝志さんのような「苦情政治家」を目指してしまったという点である。苦情政治以外に彼を支えてくれる魅力的な運動体が日本には存在しないということがわかる、

日本の苦情政治の主戦場はTwitterやYouTubeなどのSNSメディアである。既存政党や新聞雑誌などがこれらの人々にリーチできないのはおそらく根底にマグマのような現状への怒りが渦巻いていることが実感できていないからだろう。

苦情政治の魅力は「苦情政治」で集金が可能になってしまうという点である。これは旧NHK党をみていればよくわかる。

トランプ支持者たちは「システムによって迫害されている」と感じているため同じように迫害されている人にシンパシーを感じる傾向にある。だからトランプ氏の起訴は彼にとってマイナスに働かないとIab Bremmer氏は考えるのだ。

トランプ氏も「私は起訴される」として献金を集め「魔女狩りと戦うため」として資金を集めようとした。政治のビジネス化とマネタイズは苦情政治の特徴のようだ。

小西洋之氏も同じような着想は持っていたようだ。NHKやフジテレビと戦うためにお金が必要なので寄付をしてくださいとTwitterで呼びかけている。だが小西さんはこのマネタイズに成功しなかった。小西さんはおそらく知らず知らずのうちに苦情政治に可能性を見出していたのだろうが立憲民主党も支持者たちもそれに乗らなかった。

だがおそらく「小西氏が気がつかなかった点」に気がつく人はきっと出てくるだろう。政治は自分達の役には立たないが、人々の不満に火をつければシステムから直接集金できてしまうということだ。小西氏のように運動体の維持に困っている人が多ければ多いほどチャレンジャーは増える。つまり確率の問題なのだから成功者が出てくるのは時間の問題だ。

問題解決型の政治を支えてくれる人は誰もいない。では、野党政治家は苦情政治を目指すべきなのか。確かに政治家として面白おかしい生活が送れる可能性は高い。だが、一旦苦情政治が蔓延すると二つの重要なものが脇に置かれる。

問題解決と倫理である。

人々がショーに夢中になると、もはや問題解決などどうでも良くなってしまうのである。

アメリカの状況を見ているともはや誰もこの劇場化を止めることができる人はいないようだ。政治家たちはこの問題に対処しなければならない。誰もがこの動きを利用してどううまく立ち回るべきかを考えて発言を繰り返している。当然問題解決は先送りされれ、全てが「バトル」の材料にしかならない。いったんCNNなりFOXをYouTubeで見始めるとアルゴリズムによって次々と同じような「ネタ」が流れてくる。

ついには「このごたごたが外交にどんな影響を与えるだろうか」と心配する人まで出てきた。アメリカの威信が根底から覆されるという危険性を多くの人たちが感じ始めているようだ。

アメリカの先行事例を見ていると「日本もこうなってはならない」と強く感じる。

だが、小西洋之議員とマスコミ記者たちが「バトル」をしている様子を見る限りにおいて報道記者たちには危機感が伝わっていないようである。おそらく放送局や新聞社の人たちはSNSの政治言論を「アマチュア政治」として軽視しているのではないかと思う。

だがアメリカの事例を見る限りこれは「次世代」の政治の姿である。早く何とかしたほうがいい。

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