ざっくり解説 時々深掘り

FBI長官が「新型コロナウイルスはやはり中国の研究所が流出させたんだろう」と主張。その狙いについて考える。

FBIが「新型コロナウイルスはやはり中国の研究所から流出したものだった」と主張している。今頃なんの狙いがあってそんな発表をしたのだろうか?と違和感を持ったのだが、FBI長官の経歴を調べて「なるほど」と感じた。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






このFBI長官発言自体はエネルギー省の文書に追随したものだ。機密文書指定が解除されて「このほど判明」したものである。つまりエネルギー省は当初から「研究所から流出した」と考えていたようだ。一方で「自然発生」したと考える機関も多くアメリカ政府の統一見解は出ていない。

発言内容から精査する。新型コロナ、中国研究所から流出「最も可能性大」 FBI長官となっている。

ポイントは二つある。可能性が高いと言っていて断定はしていない。中国が調査に応じていないから「真実がわからない」という趣旨になっていることから中国政府批判というニュアンスが強いものと見られる。

さらに背景を調べてみて「なるほど」と思った。政権内部でトランプ批判を強めていたコミー長官を解任し代わりに据えた人物である。トランプ氏は回顧録でコミー氏を「嫌な男」とこき下ろしていた。

新型コロナウイルスの拡大が始まった時にトランプ大統領はこれを中国批判に利用しようとしていた。盛んに「中国由来のウイルスである」と強調し中国が責任を取るべきだと主張していたのである。つまり中国を批判しつつ「やはりトランプ氏が正しかった」という主張になっているのだろう。

2024年を見据えたゲームと言ってよさそうだ。つまりこれもまた国内政局なのだ。

いずれにせよこの発言から、アメリカ内部に依然中国をライバル視する人が多いことがわかる。民主党にとっても共和党にとっても中国は最大の経済的脅威だ。ただし、この中国敵視政策は思ったほどうまく進んでいない。

世界情勢がトランプ時代から大きく変わってしまったからである。

現在、アメリカをはじめ西側諸国最大の脅威はロシアになっている。アメリカはなんとしてもNATO同盟国を防衛する責任がある。仮にロシアが無謀な軍事作戦で成果を出してしまうと、アメリカと同盟国にとっては「負け」になる。バイデン大統領は国内で大きな批判にさらされるだろう。

中国は興味深い戦略に出た。ロシアやロシアの同盟国に接近しつつ表向きは第三極として振る舞っている。ゲームの構造自体を変えようとしているのだ。

中国は「西側に勝たせないゲーム」を進行中だ。最近でもベラルーシの大統領と会談している。両国の核心的利益を擁護と言っている。つまり西側は他国の核心的利益を脅かしていると主張している。ただしロシアにも味方はしていない。こうしてアメリカが主張する「いいもの」と「わるもの」のゲーム構造を崩している。

つねに「いいもの」でいたいアメリカはこの第三極ゲームに慣れていない。民主党・共和党や民主主義国・専制主義国といった二項対立のゲームに最適化した戦略が得意な国だ。だからアメリカ合衆国はこのゲームを二極型に戻したい。

ただ、インド・ブラジル・アルゼンチン・トルコ・アフリカ諸国などは先進国が主導する大勢にうんざりしている。このため必ずしもゲームはアメリカの望む構図になっておらず、これが結果的に経済制裁の最大の障害になっているといえる。

では日本は西側陣営の一員としてどのように振る舞うべきなのだろうか。日本は第三極型のゲームに同調しそうな国をなんとか説得して「二極型ゲーム」に戻す必要があるのかもしれない。というより、すでに二極型ゲームに過度にコミットしてしまっているため、それ以外の戦略が取れない。

では実際に岸田総理と林外務大臣はどう行動しているのだろうか。

林外務大臣は「国会審議の都合」でG20外相会議をスキップした。これがインドの猛反発を招いている。政府が怒っているというよりメディアが激怒しているようである。時事通信が「信じられない決定」 林外相G20欠席に批判的―インド主要紙でまとめている。ただクアッドには参加することを決めたようだ。林外相、クアッド会合出席へ 与野党、予算委出席求めずという別の記事がある。

インドの人たちがこれをどう見るかを考えてみればいい。日本は国際協力には興味がなくインドを中国囲い込みの道具としてしか捉えていないと感じるはずだ。

日本はどちらかというと二極型のゲームにフリーライドしたい。もともと棚ぼたで二極型に乗って成功した国なのでそれを維持するためにコストを支払おうという気になれないのだろう。

インドメディアの疑念に対して「決してそんなことはない」と言えれば良いのだが、与野党共に「G20はともかくクアッドには出るべきだ」と言っている。つまり、「とにかくアメリカと一緒に行動してついてゆきさえすれば大丈夫だ」という気持ちを持った人たちが多いということには間違いなさそうだ。

あまり知識のない国民が東西冷戦型のマインドセットから抜け出せないのはまあ仕方ないと言えるが、大局観のある政治家が消えてしまったというのはやはり国益上大きな損失になるんだろうなと感じる。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です