チュニジアで総選挙が行われたが投票率はわずか8.8%だった。NHKは権威主義が復活する可能性があると警鐘を鳴らしている。だがNHKはチュニジアどうすればよかったのかについては書いていない。そもそもチュニジアには民主主義の土壌はなかった。同じような失敗は中南米でも起きている。民主主義が導入できなかった国の人たちが目指すのがヨーロッパやアメリカ合衆国といった民主主義の国だ。結果的に欧米の民主主義も危機にさらされることになる。
チュニジアで総選挙が行われた。投票率はわずか8.8%だった。NHKは「チュニジア議会選挙 投票率8.8% 権威主義的体制に戻るか懸念」と書いている。我が国は民主主義陣営にあり専制主義・権威主義の中国と対峙しているという前提がありチュニジアが「あっち側」にゆくことを心配しているのだろう。
チュニジアで革命が起きたのは2010年から2011年にかけてだった。西側諸国はアラブの春の成功事例としてチュニジアの新しい政治体制を賞賛し続けたが、チュニジアには民主主義は根付かなかった。全国的な政党や官僚システムのない国ではそれぞれの議員たちが地域利権の確保に執心する。このため議会は信任されずいつまで経っても政治体制が安定しないのである。
我が国を含めた西側先進国は政党システムや官僚システムを整備した後で議会制民主主義体制に移行している。こうした幸運を無視して「民主主義こそが至高の政治システムだ」と考えるるのは残念ながら単なる思考停止でしかない。
法学者・憲法学者だったサイード氏が大統領に当選したのは2019年だった。当初は議会に蔓延る縁故主義や汚職体質を批判していた。ところが議会との対立は収まらなかった。2021年7月には首相を解任し議会を停止した。ペルーと同じクーデターを起こしたのだ。
ペルーは大統領が軍や警察といった実力部隊を掌握しなかったためにクーデターは未遂に終わった。だが、チュニジアの試みは成功する。2022年には警察を使って司法を掌握し徐々に権力を大統領に集中させていった。
チュニジアでは軍や警察といった実力部隊を大統領が掌握しているのだろう。権力掌握が着々と進んでいる。だが同時に「憲法学者」という出自のために民衆からの支持は得られなかったたようだ。ペルーでは逆のことが起きている。クーデータ未遂を起こしたカスティジョ前大統領はケチュア系だ。今回の暴動ではケチュア系が大きな憤りを覚えているようだ。つまりこちらは軍や警察は掌握できなかったが民衆の一部は前大統領に対して親近感を持っている。
どちらも民主主義の失敗だがその内容は大きく異なる。だが結果的に起きていることは同じである。政治システムに見放された人たちは絶望する。
チュニジアでは革命は失敗だとみなされており今ではヨーロッパへの密航が一大産業になっているそうだ。つまり祖国の政治に絶望した若者たちは国を捨ててまともな政治システムを持っているヨーロッパを目指す。皮肉なことにこの流れがヨーロッパに混乱を巻き起こし政治システムを混乱させるということが起きている。
ペルーではまだ「北を目指す」動きは起きていないが、長い間政治が混乱していた中米地域でも北を目指す動きがある。タイトル42と呼ばれる移民流入抑制策が撤廃されるというニュースが広がりクリスマス前のアメリカ合衆国への移民が殺到している。連邦地裁の無効判決が元になって希望的観測としてニュースが広がったようだ。FOXニュースはこれを「不法入国者」と呼びリベラル系のメディアは政治的迫害からの亡命だと表現する。治安維持に失敗した国で犯罪などから逃れようと北上した人たちの間に犯罪者も紛れ込むという混沌とした状態になった一団がリオグランデ川を越えてくる。難民たちは誘拐され身代金を要求されるというようなひどい状態にあるようだ。
NHKにとっては対岸の火事なので「民主主義に失敗した」で済む話なのだが、実は専制主義・権威主義チームが増えるというような悠長な話ではない。絶望した人たちが雪崩のように安定した政治システムの国を目指している。先進国は一応堤防を準備して入るのだがその堤防は決壊寸前という状態になっているのである。