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ドイツの「帝国の住民」クーデター未遂事件とそのカルト的背景

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ドイツで「帝国の住民」を名乗る人たちがクーデター騒ぎを起こした。首謀者とされたのはハインリヒ13世という貴族の末裔だった。運動は長年ドイツで「ネットの変わり者」とみなされていたが、最終的にはロシアと連絡を取り合い国家転覆を目論むまでに成長した。BBCがこの帝国の住民(ライヒスビュルガー)について分析しているがカルトとの関係を引き合いに出している。10分37秒という大作の「カルトはなぜ危険なのか、なぜ人はカルトに入るのか 心理的トリックを知る重要性」は特に見応えがある。ドイツでは脆弱性が転移し国家全体が蝕まれつつある。

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この事件は意外と複雑な背景を持っているようだ。テレビ朝日の報道ステーションでは既得権益層の不満が背景にあるようだと分析している。逮捕された中には現役の裁判官なども含まれており、内務大臣は政府内にいるライヒスビュルガー・シンパの排除を狙っていたと言っている。軍や警察とのコネクションを構築しようとしていたという話もあり公職についている人たちの中にも不満を抱えていた人たちがいたようだ。

一方で名門ロイス家出身のハインリヒ13世はもともとは「はつらつとした経営者」だったという。だが事業に失敗したことをきっかけに影菌な思想にはまり込んでしまったようだ

しかし、これだけではこの運動体が広がることなかった。まずはアメリカで広がった各種陰謀論も下地にある。さまざまな危機が連続的に起こり本来結びつくべきではないものが結びついたことで「先進国にもかかわらずクーデター騒ぎが起きる」とニュースになった。

ここまでの流れの中に「カルト」をイメージさせるものは出てこない。我々がカルトというとどうしても「政治的・宗教的リテラシが低い人が騙される」というような印象を持つからだ。

おそらくBBCがカルトを持ち出してきたのはそれが理由だ。つまりヨーロッパでも似たような認識があるのだろう。カルトにハマるのは弱い人たちなのだと言う認識がある。「カルトはなぜ危険なのか、なぜ人はカルトに入るのか 心理的トリックを知る重要性」の中で人々は口々にそれは間違っていると証言している。

西側が標榜する民主主義は一人ひとりの自由意思に支えられている。だがその自由意思は必ずしも完璧なものとはいえない。この歴史的な実例がヒトラーとナチスドイツの台頭だ。だがナチスドイツは一部のおかしな人たちが作り出した社会運動ではなかった。多くのドイツ人がナチスの主張に共感した結果生まれたものだ。

信仰の自由や政治的信条の自由からの逸脱という登山口からカルト対策を行うことはできない。カルトは自由意志に働きかけて信者や支援者たちが自分で決めたという形式をとるからである。これを防ぐためには自由意思は時に脆弱性を攻撃され逸脱することがあるという歴史的教訓が重く受け止める必要がある。ただそのためには我々一人ひとりのなかにそうした脆弱性が内在されていると言う認識を今一度持つ必要がある。

東洋経済の記事によるとフランスでは「カルトの定義はできない」とした上で「個人の脆弱性」を狙った行為を規制することで実効性のある対策を作り出りだそうとした。そしてそれは現在でもきちんと運用されているようだ。

日本でも統一教会が自民党と接近しおそらくは自民党の教育観や家族観に影響を与えるという事件が起きた。この運動資金として使われたのが信者の献金だ。形式的には自由意思で差し出したということになっており、現在の憲法では制限できない。カルトが政治に働きかけその影響が排除できなくなっていると言う状況が厳然として存在する。

ただこの脆弱性について考えるためには、まず自民党が「自分達の中にも弱さがあった」と認める必要がある。だが、弱さに支配された自民党はついにそれを行わなかった。故に10日にも成立する対策法案は実効性の低いものになりそうだ。

河野太郎担当大臣は「個人的にはあれはカルトだと思う」と答弁したが、カルトの定義は行われていない。また河野大臣は法人格取り消しの最終決定者ではない。過去にも遡及しないので今いる被害者は救われない。法人としての教団さえ消えてしまえば法律は使わなくて済む。だが、将来被害者が出ても地下化されるだろう。つまり過去の被害者が救われず未来には使われないと言う法律が作られつつある。

政治的には解決したが問題だが「自由意思の脆弱性」の問題は解決しない。

仮に日本人が自由意思の脆弱性が治安・安全保障上の危機をもたらすという認識を持っていれば、おそらくこの問題はもっと真剣に議論されただろう。だが、日本では単なる組織防衛と政局議論に堕していった。

この時に法曹界や哲学といった異なった分野の人たちが手を携えて議論をするというようなことも行われていない。日本人はフランス人が40年前に登った山の登山口さえ見つけられなかった。

繰り返しになるがカルトに狙われるのは政治的・宗教的なリテラシーが足りない一部の人たちだけではなさそうだ。

ドイツのライヒスビュルガー事件を見る限り、脆弱性に晒されていたのは何もSNSで騙された人たちだけではなかった。今回最初に逮捕されたのはむしろ社会のトップにいる人たちだった。

東洋経済がNew York Timesの記事を転載している。ライヒスビュルガーたちは電力網を遮断し社会を混乱状態に陥れると言う計画を立てていたそうだ。その後にあらかじめ作っておいたリストに従って政治家たちを追放する。さらにライヒスビュルガーたちはロシアとも連絡を取り合っていたそうだ。NATOとロシアは対立状態にある。ドイツはEU/NATOシステムの中核国なのだから当然ロシアにとっては悪い話ではない。

今回逮捕された人たちは単なるネットの変わり者ではない。むしろ現在の政治状態に疲れ切った人たちが影響を受けていることに当局は気がついている。だがどうすればそれが払拭できるかについてはまだ明確な回答はないようだ。NYTの記事にはこう言う一説がある。

今回の家宅捜索の規模や検察当局が説明した野心的な計画は、ドイツの中核機関(議会、司法、地方警察、州警察、そして最も精鋭な軍隊まで)に過激主義に対する脆弱性が根強く残っていることを示しており、ドイツ当局も近年、これを根絶するのに苦労してきた。

もともと「単なるネットの変わり者」として放置されていた問題が徐々に実際の国家転覆事件に姿を変えつつあった点をドイツ政府は重く受け止めているようである。

脆弱性の放置が社会のどの階層にあるのかは問題ではない。病巣は転移しやがて社会全体を蝕むからである。

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