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テレビで「防衛増税やむなし」という報道が始まり岸田総理が1兆円の防衛増税検討を指示

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防衛費増税に関する議論のあらましがわかってきた。5年間の総額は43兆円となる。政府・自民党の側は「すぐには増税しない」と説明しているがテレビの中には「国民負担が年4万円増える」と具体的な数字を出して報道をしているところもある。そんな中、岸田総理が満を持して防衛増税1兆円の検討指示を出した。

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一連の辞任ドミノにおける政府のマスコミ対応はかなり杜撰なものだった。週刊誌報道をきっかけにスキャンダルが騒ぎになり辞任に追い込まれるというようなことが相次いでいた。辞任ドミノにおいて囁かれていたのが官房長官機能の不在である。つまり「菅官房長官のようにマスコミを抑える人がいなくなった」などと言われていた。

だが今回の増税議論はそれとは一線を画している。まずマスコミから先行して「増税やむなしか」という議論が出てくる。さらにそれに応える形で「まず余剰金を使いますから」という議論が出る。それに乗る形で総理が明確な増額指示を出すという形式がとられた。先に43兆円という数字が出ているので「たった1兆円」という印象にもなった。

今回の予備報道でもっともニュートラルだったのは時事通信だ。2027年には1兆円ほどの増税が必要になるだろうと伝えている。ただ地上波の中には「1人4万円」などと具体的な数字を出しているところもあったようだ。将来の負担額について具体的なビジョンを提示している。

ただし2023年4月には地方選挙がある。各県連からは「今増税は困る」という話がでているため萩生田政調会長などは「すぐさま増税はしない」と言っている。この話をきっかけに増税をしたい麻生前財務大臣・元副総裁は「できるだけ個人負担がないようにする」と対応した。財務省側の強い意思を感じる。ただし麻生副総裁の発言にはあまり意味がない。努力義務だから「やってみたけどやっぱり個人にもお願いする」と言えばいいだけの話だからである。

すでに伝えているように今回はすんなりと財務省が16兆円の埋蔵金を差し出してきた。これまで頑なに拒んできた余剰金である。将来の増税と引き換えになっていることから「海老で鯛を釣る」というような取引だったのだろう。とりあえず一生懸命やっているという態度を見せるために大手町のビルを売ったりもするようだ。

とにかくなんとしてでも増税を勝ち取りたいという財務省の執念を感じる。

ただ、国民世論の支持がなければ増税世論は作れない。政権が支持されず政権浮揚のための財源を捻出する必要があった民主党の野田政権は消費税増税を突然表明し大混乱に陥った。メディアコントロールが必ずしも上手ではない岸田政権が同じ失敗をしては困る。

今回は野田政権当時とは状況が違っていた。あらかじめ地上波で「増税やむなし」という報道が見られた。

例えば、防衛費増強に熱心なフジテレビは具体的に4万円という金額までを出している。フジテレビのプレゼンテーションによると現在GDP比1%が5年後に2%になるという計画なので、この4万円は将来世代が毎年支払う金額の増加分ということになるそうだ。おそらくこのあたりがポイントなのだろう。テレビを見ている中高齢者にとっては「将来の」話だ。消費税増税ではないのだから「自分達の負担ではない」と考えるだろう。これを負うのが誰になるかはわからないが将来の現役世代の話だと捉えたのではないだろうか。

フジテレビは選挙のない今のうちに増税議論を終わらせておきたいという自民党の議論を紹介している。地方選挙で自民党が信任されれば「既定路線」として定着することになりそうだ。テレビでこれだけ詳しく紹介されているのだから「知らなかった」とは言いにくくなるだろう。

ただしTBSも「増税は避けられない?」としており増税不可避という観測を伝えていた。このように岸田総理が具体的な指示をする前にテレビ的な状況が整ったというのが今回の特徴だ。

ここまで書くと財務省に近い人たちが勝手に暴走しているように思える。だが、世論は徐々に防衛力強化を臨む方向に傾きつつある。維新と国民民主党も「今は防衛増強が世論だ」と考えているのだろう。相次いで反撃攻撃能力を持つべきだという提言を出している。維新はすでに要望を提出し「バスに乗り遅れるな」とばかりに国民民主党も追随する。維新が与党に接近するなら自分達もという気持ちもあるのかもしれない。

このバスに乗りたいのは実は維新・国民民主だけではない。立憲民主党でも反撃能力容認を検討している。身内に社会党出身者を抱える立憲民主党の泉代表が党内をまとめることができるのかは未知数である。

この国の政治に大きな影響を持つ中高齢層はこの1年間ワイドショーを通じてウクライナや北朝鮮の状況を見せられ続けてきた。必ずしも「教育効果」を狙ったものではないのだろうが、結果的にはワイドショーの空気が政治潮流に大きな影響を与えており立憲民主党さえもそれを無視できなくなっている。

一方でワイドショー世代の将来世代への投資に対する関心は必ずしも高くはないようだ。すでに子育てを終えて賃金上昇とも無縁な彼らが子育てや現役世代の収入アップに熱心になれないのも仕方がないことなのかもしれない。

このようにして周囲の状況が整う中、岸田総理は改めて1兆円の増税について検討するように指示を出した。検討指示とは言っているが具体的な額が出ているのだから「指令」と言って良いだろう。ただ統一地方選挙への影響を避けるために今のところは所得税増税はしないということになっているようである。岸田総理が意図したことなのか周りが演出をしているのかはわからない。いずれにせよ「増税周り」の議論は非常に手際が良いことだけは確かだ。

テレビ局の中には本来は増税に反対したいという人たちもいるのかもしれない。しかし視聴者たちに何が響くのかをよく知っているため「反対できなかった」という人たちもいるのだろう。結果的に増税の雰囲気作りに加担することになってしまった。作り手たちにキャンペーンのつもりはなかったかもしれないが、タイトルを「増税キャンペーン」としてもよかったかななどと感じた。

ただ、気掛かりなニュースもある。円安の影響で10月は計上赤字だった。いずれ自然回復するという見込みなのだろうが実はGDPもマイナス成長だった。将来の増税について議論はしているが目先の経済立て直しについての議論は遅々として進んでいない。いろいろメニューを準備する予定ですというばかりである。

今できない経済成長が2027年までに実現するとは思えない。このままでは経済成長なき増税が既定路線になりそうだが、現在の論調を見る限りおそらく主に負担するのはあまり政治に参加していない5年後の現役世代だろう。


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