ざっくり解説 時々深掘り

クーデターを企てたペルーの大統領が反逆罪で罪に問われるまで

ペルーでクーデターがあり大統領が逮捕された。僅差でライバルを破って当選した元小学校の先生だった。よく事情を知らない人は「クーデターは反乱軍が起こすものではないか」と思うだろうし、南米の事情を知っている人はまたかと思うかもしれない。だが現職の大統領でも憲法秩序に挑戦すると当然反逆者ということになる。

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カスティジョ大統領に対する汚職疑惑の捜査が始まったのは今年の1月だった。政権発足は2021年7月なので半年で汚職疑惑が出てきたことになる。ただこの時点で罪を認めていれば単なる汚職政治家で済んでいただろう。

一度は否決されたのだが、この時の弾劾賛成票は55票だったそうだ。87票になると弾劾が成立する。だが、この後も野党との対立が続き徐々に追い詰められてしまう。

もともとペルーには大規模な政党がなく個人商店的な政党がいくつかあるだけのようだ。旧スペイン領には官僚機構や国家機構が未成熟なことが多くアメリカ合衆国のような全国政党が作られにくい。このため政局が安定しない。

議会の「プロの政治家」たちが自分達の利益確保に走るとそれに嫌気をさした国民が「プロらしくない」政治家に期待を寄せるようになる。カスティジョ氏もそうして大統領候補として期待されるようになった。カスティジョ氏は元小学校の先生で労働運動のリーダーだった。遡ること4年前に教師のストライキを成功させたことで人気を集めたそうだ。

この時に「収益性の高い鉱業と炭化水素分野を国有化する」として国民の支持を取り付けていた。政治経験がないまま大統領になりさまざまな誘惑にさらされたのだろう。国民に還元する前に少し自分でも味見してみようということだったのかもしれない。

ただし、この時に対立候補だったケイコ・フジモリ氏にも汚職疑惑がある。2018年から2020年まで1年1ヶ月刑務所で過ごした経験があるそうだ。ペルーの政治が腐敗している様子がわかる、

追い込まれたカスティジョ氏は野党主導の議会を解散し特別臨時政府を作ろうと呼びかけた。カスティジョ氏にそれほど悪意があったとは思えない。軍隊や警察はカスティジョ氏の動きに反発しためクーデター騒ぎは未遂に終わった。仮にカスティジョ氏がクーデターを起こすつもりだったのなら事前に軍隊を抱き込むなどの動きを見せていたはずである。つまりそれほど悪気はなかったということになる。

計画の杜撰さを示す証拠は他にもある。逃亡経路の確保もしていなかった。追い込まれたカスティジョ氏はメキシコに亡命を申請していたそうだ。同じく左派政権のメキシコは受け入れる予定だったようだが結局カスティジョ氏が大使館に出頭することはなかった。事前に計画が漏れたのだろうとメキシコのロペスオブラドール大統領は考えているようだ。

汚職だけであれば「単に弾劾された汚職政治家」で済んだかもしれない。南米では一度汚職で捕まってもそのまま復活するということはよくあることだ。ブラジルのルラ大統領も大統領に復帰している。アルゼンチンの副大統領は裁判で禁固刑と永久公職追放という判決を受けているが「上告する」としている。特権があるため今も副大統領職に留まっており「その間になんとかする」つもりなのだろう。

しかし、憲法秩序を破壊しようとしたことで、カスティジョ氏は単なる汚職政治家ではなく「国家に対する反逆者」ということになった。ペルー検察は反逆罪で罪に問うことにしている。大統領職を継いだのは副大統領だったボルアルテ氏だ。ペルー初の女性副大統領となった。

アメリカ合衆国はボルアルテ政権の誕生を歓迎する意向だそうだ。

ただしアメリカ合衆国にも現在の政治体制が揺らぐ傾向が出ている。トランプ前大統領は自分が当選できないなら憲法を停止すべきだと訴えている。議会共和党はこの発言から距離を置きたい考えだが議会内外にもおそらくトランプ氏の支持者たちがいるようだ。自分達が望む政治体制が作られないなら憲法が間違っていると考える人もいるのだ。共和党も動揺しているが上院民主党からも離反者が出た。キルステン・シネマ上院議員は「ワシントンの壊れた党派システムからの独立を宣言し、アリゾナで増える政党政治を拒否する人々に加わった」としている。「独立宣言」とは穏やかではないが、州を代表する上院議員が個人の意向だけで「独立宣言」をするとも思えない。

「今の民主主義は自分達の問題を解決してくれないのではないか」と疑問視する人が増えていることがわかる。このような事情を抱えるアメリカ合衆国が大統領のクーデターを容認できなかったのは当然のことだ。

民主主義の動揺は発展途上国だけではなく先進国にも広がり始めている。

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