ざっくり解説 時々深掘り

一時137円台に。過度な「円安の嵐」は過ぎ去ったのか?

円の下落もようやく終わるのか? 円が一時137円台になったというニュースを見てそう思った。137円まで円が戻したのはアメリカで「米卸売物価指数が市場予想を下回り」利上げはここまでではないかという観測が出たからなのだそうだ。これを書いている時点の相場は139円になっているが一時のように150円を窺うという展開ではない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






まず、識者の敗戦の弁を聞いてみよう。この記事はPPI(卸売物価指数)が発表される前に書かれている。植野大作氏はロイターにおいて「自らの不明の所産」と神妙な様子だ。

以前ロイターのコラムで熊野英生氏が1-2カ月間ほど籠城していれば「米国側から援軍が来てくれる」と指摘していた。結果的には9月に介入をおこなってから数ヶ月で落ち着きを取り戻したことになる。このため「援軍」がきて元通りになったのはないかと思いたくなる。

さて植野氏のコラムに戻ろう。

植野氏は155円程度までゆくとみていたようだ。だが、植野氏は今でも150円前後を目指すのではないかと言っている。

CPIショックで引き起こされたドル円の下げ幅があまりにも過剰だ。つまりちょっとでもよい結果が出れば過度な楽観論に走り逆にちょっとでも悪い結果が出れば過度な悲観論がでる展開になっている。

今回の動きも報道を追う限りPPI発表直前には140円前半だったのがPPI発表で一時137円台につけその後139円台に戻すという荒っぽい展開になっているようだ。

なぜこうした急激な動きが起きるのか。

植野氏が指摘するのは日本のFX愛好家の存在である。そう言えばCMをよく見かけるなあと思うのだが、現在約80万人もの「愛好家」がいるそうだ。愛好家たちの基本戦略は「基本的に逆張り」だ指摘してされている。つまり、円高方向に進めば利益を求めて次の円安を予想するのではないかということになる。

金融専門家は貿易のためにドルを必要とする企業担当者の動向を読んでいればよかった。ところが愛好家が増えるとここにギャンブル的な思考が持ち込まれると市場の動きが読みにくくなる。植野氏の苦悩が感じられる。

植野氏は伝統的なテクニカル分析を持ち出し下落局面は当分続くだろうとみている。過去のドル高・円安局面の平均寿命は31.2ヶ月であり現在はまだ22ヶ月にきたところなのだそうだ。このためまだまだ終わらないのではないかというのが植野氏の見立てである。

植野氏はちょっとした「原因」によって「結果が大きく動きすぎる」と考えている。植野氏が「愛好家」と呼ぶ非専門家の参加によって相場が荒れており動きが予測しにくくなっているのである。だが「愛好家」たちは荒っぽい相場をチャンスと見て市場に参加しているだけだ。つまり彼らも結果であって「原因」ではなさそうだ。

他に原因となるものはないのか。

PPIが予想外に下がったことからアメリカ経済が落ち着きを取り戻していることは確かなようだ。だが、アメリカの消費者物価指数に関してはBloombergに記事があった。アメリカの消費者はこの先もまだまだ物価高が続くのではないかと考えているそうだ。Bloombergのグラフを見るとガソリンの価格が再び上昇を始めているのがわかる。

経済政策・金融政策・ギャンブル的な個人投資家の思惑などが積み重なり、先行きが読みにくい状態が作られている。おそらくこれが「嵐」の原因だろう。このうちどれかが収まれば混乱は収拾するはずだが誰もやめられない。さらに一つの情報がシステム内で循環するとフィードバックが起こる。マイクが雑音を拾うとアンプで増幅され「キーン」という音を出すことがあるがあれと同じ原理である。

おそらくアメリカではFRBの政策に対する不満が高まっているのだろう。FRB関係者から「本来なら利上げはやめたいのだが」とする発言が相次いでいる。

CNNの記事によると11月1日に国の備蓄放出が終わると書かれている。1日あたり100万バレルが放出されたそうだがこれが一旦終わってしまう。Yahoo Financeに掲載されているFortuneの記事によるとバイデン大統領の備蓄放出の効果が市場で薄れてきている可能性を指摘している。

NHKは12月に再び1500万バレルの石油備蓄を放出するとバイデン政権が発表したと伝えている。一方でOPEC+は石油の減産を決めているためこの備蓄の放出がどの程度の効果を生み出すかは未知数である。

アメリカは雇用が好調なので多くの人が仕事を見つけることができている。つまりインフレが起きても多くの人がそれに対応することができる。さらに、ガソリン価格が下落すれば人々は再びガソリンを使い始め、それが燃料高騰のきっかけになる。ここで人々が「FRBのインフレ抑制策はそろそろ打ち止めになるのではないか」と予想すると自己実現的に高いインフレが再開する可能性があるということになる。だからFRBはやめるにやめられないのである。

再びインフレ期待が高まればこれまであった「過度な楽観」が「過度な悲観」に変わり再び円の価格が下落する可能性があるということになる。それはいつになるのかは誰にもわからないが「嵐の要因」が取り除かれたわけではない。つまり、しばらくは晴れ間が見えたと思ったら急に荒れたという荒天が続きそうだということになる。

マイクの「キーン」は誰かがアンプの電源ボタンをオフにすれば止まる。だが実体経済にはそのような電源ボタンはない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です