11月5日のTwitterは阿鼻叫喚だった。突然解雇通知された人たちの怒りの声で溢れていたのだ。一方的な解雇は珍しくないがSNSが一時ジャックされるほどの騒動はやはり異例だ。この混乱を受けて広告主が撤退を始めている。彼らはどこで何を間違えたのかを旧Facebookの事例などを交えながら考察した。
イーロン・マスク氏はかねてからTwitterの人権擁護の姿勢が気に入らなかったようだ。Twitter社を買収すると取締役たちを追放し従業員の半数に突然解雇通知を突きつけた。人権チームも解散したなどと伝えられており広告主の撤退も始まっている。
日本ではこうした突然の解雇は違法である可能性が高いそうだ。弁護士たちは「整理解雇前の十分な手続きが行われていない」ことを理由に裁判を呼びかけている。
なぜこれほどまでに混乱しているのかを考えるために視点を広げてみよう。アメリカでリーマンショックが起きた時、FRBは一時的に「信用を印刷」することで乗り切った。ピクテ証券でM1とM2のグラフを見つけた。これが成功体験になっており、コロナ対策でも同じようなことが大規模に行われたようだ。これが市場に過剰な信用を撒き散らしている。FRBはこれを抑えるために金利を上げている。つまり現在は余剰資金の引き上げと経済混乱が同時に起きている。FRBの過度な利上げでアメリカの景気は後退するだろうと予想されている。しかしボルカー・ショックの経験のあるアメリカではこれも致し方ないことだと考えられているようだ。
この影響を受けたとみられるのが旧Facebookである。余剰資金がある時には「未来への投資」は歓迎され技術が未成熟であっても投資の対象になる。ところが旧FacebookはMETAへの投資で株価を大きく下げている。ITになだれ込んでいた余剰資金は回収され「確実で儲けが出る」事業だけが生き残る。つまりFacebookは事業開始時期を間違えたことになる。暖かい海で泳いでいた頃の経験しか持たないままで冷たい海にダイブしたのである。時価総額で76兆円が失われたと言われているそうだ。
経済混乱はアメリカでもう一つの問題を引き起こしている。それが文化戦争である。バイデン政権への不信任はバイデン大統領が経済をうまく回せていないことが原因だ。だがバイデン大統領と民主党は「価値観闘争」を訴えている。共和党が勝てば民主主義と人権が危機にさらされるというわけである。こうして価値観の違いに人々が目を向け始めたことで闘争が始まった。イアン・ブレマー氏は今回の大統領選挙の争点は、バイデン、トランプ、文化戦争だと言っている。
経済が順調であれば文化戦争は起きていなかった可能性がある。ところが文化戦争は加熱気味であり有権者・消費者たちはメディアや言論プラットフォームの「政治的立ち位置」を気にするようになった。イーロン・マスク氏は準備のないままにこの海に飛び込んでしまった。これが過剰な反応をもたらしている。折下中間選挙前の大事な時期であり言論の海が最も荒れている状況である。
このようにITの最先端分野は実体経済の泡(あぶく)によって成長すると言う側面があるようだ。実体経済が好調ならば民主主義、人権、最先端技術が進展する。前回FRBがリーマンショック前後を乗り切れたのは信頼問題というシステムの内側の問題だったからである。ところが今回の問題は疫病と戦争だ。システムの外からやってきたためになかなか沈静化ができずにいる。
暖かい海で泳いできた人たちは冷たい海の泳ぎ方を知らない。ITやハイテク分野で成功してきた人たちが困難に直面しているのはおそらくこのためであろう。
すでに日本語のTwitterでも「限界を試す」動きが出始めている。これまで社会的には好ましくないとされてきた言論がそのまま流されている。これがどう沈静化するのかはわからないが、当座はあまり一つひとつの言動にすり減らされないように努めることが大切だろう。