すでに多くの報道が出ているので目にした人も多いだろう。10月28日にペロシ邸に男が押し入った。ペロシ下院議長は不在だったが夫はハンマーで頭蓋骨骨折の怪我を負わされた。この男が起訴され動機の一端が見えてきた。SNSの情報を鵜呑みにし「真実を知る」ために乗り込んだようだ。その代償は重く、禁錮30年から終身刑の可能性もあるそうだ。
いくつかの媒体が捜査資料をもとに記事を書いている。
男は無差別ではなくペロシ邸だとわかった上で乗り込んでいる。だがペロシ下院議長のスケジュールについては把握しておらず持ち込んだものもハンマーとペロシ氏を縛り上げる道具だけだった。ある程度の計画性はあるが思い込みから行動に移した可能性が高いといえそうだ。
BBCが詳しく書いているように、容疑者は陰謀論に触れており「選挙は盗まれたものだ」という主張も発信していた。中にはすでに否定されたものもあり、普通の人であれば「フェイクニュースだな」と考えるのだろう。中には社会全体が何かを隠蔽しようとしていると類推する人もいるだろう。
この男の場合は「メディアは否定しているがおそらく真実は隠されてしまったのであろう」と結論づけたようだ。その上で「真実を明らかにするためにはどうすればいいのか」と考えたのだろう。そこで男が思いついたのが「ペロシ下院議長を縛り上げて真実を語らせる」ことだった。仮にペロシ氏が真実を話さないならば膝を砕いて車椅子姿にして見せしめにするというのが計画だったようだ。つまり、真実を話さない罪で私的制裁を加えようとしていたということになる。
BBCによると今回の事件についても様々な虚偽の主張が飛び交っているそうだ。一度社会に根付いた陰謀論を払拭するのが難しいということがよくわかる。アメリカでは選挙は盗まれているのではないかという漠然とした不安を抱えている人は少なくないという調査もある。ロイター/イプソスの調べでは「自分の投票が正確に集計されると確信していない」との回答は全体の約5分の1もあったそうだ。薄々そう考えているわけではなく「確信している」というところに根深さがある。
SNSでは今でも虚偽の政治的主張が飛び交っており、それらを完全に取り除くことはできない。報道をもとに記事を書いていてさえ「後で間違いがわかるかもしれない」という懸念がある。
さらに「表現の自由」を主張する人たちもおりSNSはできるだけ制限されるべきではないとの主張が高まっている。
例えばTwitterはオーナーが変わりおそらくはあまりモデレーションをしない方向に進んでゆきそうだ。マスク新CEOは取締役をすべて解任した。「一時的な措置」としているがいつまでこの状態を続けるかについては言及しなかったそうだ。この体制下で新しいモデレショーン規制の検討が始まる。
マスク氏も被害者と容疑者が親密な関係にあったという虚偽と思われる主張を拡散させのちにTweetを削除している。皮肉なことに誰でも簡単に虚偽の情報を拡散できることを証明した形になった。
普通こうした過激な主張は周りと話をしているうちに「なんとなく」修正されてゆくのだろうが中にはそのような機会が持てない人もいる。後で気がつく人もいるだろうが、中には拡散したまま忘れてしまう人もいるかもしれない。今回のケースは極めて例外的な事例なのではあろうが唯一の例外になるかと言われるとその保証はない。
いずれにせよ容疑者はかなり重い代償を支払うことになった。最高50年の禁錮刑と書いているところもあれば最高30年の禁錮刑と書いているところもあるが、今後も求刑が加わり終身刑の可能性もあるのだそうだ。
SNSの情報を信じた代償としてはかなり重いものになりそうだ。
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