バイデン政権が関税に関して対中融和策の撤回に追い込まれた模様

正式発表はまだだが、バイデン大統領が関税の対中融和策の撤回に追い込まれたようだ。ロイターの記事の正確な表現では「選択肢をいったん保留」になっている。表向きの理由はペロシ下院議長の訪台だが国内産業の保護を求める労働組合や企業の反対をまとめることができなかったようだ。関税は税金のように作用するため、アメリカ国民が引き続き負担を求められることになる。

このところバイデン大統領は環境保護の法案をまとめたりガソリン価格の高騰に歯止めをかけたりと経済政策の失敗を挽回しつつあった。インフレの急激な上昇が止まったのは投資家にとっても良いニュースだろう。FRBの急激なインフレ抑制策は弱まるのではないかと考えられており株価は戻し円安も収まった。

だが、バイデン政権には対中関税の撤廃はできなかったようだ。関税のコストは引き続き普通のアメリカ人が背負うことになる。今後バイデン大統領がこれをどのように発表するかに注目が集まる。






このニュースが浮上したのは4月ごろだった。イエレン財務長官がインフレ対策を理由に盛んに対中関税引き下げを発信するようになった。FRBが極端なタカ派政策に舵を切らざるを得なくなっており金融市場では「嵐」などと呼ばれていた時期だ。

ところがこの「バイデン大統領の決断」がいつになっても出てこない。バイデン政権は習近平国家主席と会談しトランプ政権時代に作られた過去の負債である対中国改善を是正し対中国関係も再構築しようとしていた。会談までには具体策が出るのではないか?とも言われていたが、結局まとまらなかった。さらにペロシ下院議長が訪台を決めたため米中関係は逆に冷え込んでしまう。結局、バイデン大統領はタイミングを逃した。

ところが市場関係者は「結論はまだか」と担当者に迫る。

これに先立ってBloombergが商務長官に「なぜ対中関税問題の意思決定がそんなに時間がかかるのか?」と聞いている。商務長官はペロシ訪台に触れた上で「地政学上ややこしい問題になっている」が「労働者に打撃を与えることはしない」と弁明した。この時点では商務長官は結論については全く言及していない。

結局蓋を開けてみると「ペロシ氏の訪台で状況が変わった」として「融和策は保留」ということになったようだ。ロイターも正式発表を待ちきれず「関係者の声」として伝えている。どうやら、トランプ政権時代の報復的な関税措置の修正はできなかったようだ。

では「保留」の理由はペロシ氏の訪台だけなのだろうか。調べてみるとどうもそうではないようである。時事通信は「同盟国と組んで対中包囲網を作ろうとしている」のに「自分たちは中国融和策を打ち出す」のは如何なものか?と少し戸惑い気味の記事を出していた。つまりバイデン政権の政策には矛盾があった。

  • 対中依存が減らないために関税がアメリカ市民にとって税金のように作用し物価を押し上げている。インフレ対策のためにはこれをなくしたい。
  • 外交では対中包囲網を形成中だ。このため経済的な武器は維持したい。

さらにこれに加えて別の国内事情もある。USTRが事前に関税について聞いたところ労働組合や国内産業からの反対が多く寄せられた。民主党の大きな支持基盤のためこの反対を無視できなかったようである。対中関税を見直すべきだとしていたイエレン財務長官とタイUSTR通商代表の間の意見が対立していたようだと言う話も伝わっている。

デイプロマットに解説記事が出ていた。7月13日の記事である。

  • そもそもアメリカが対中関税を下げる決定をしたのは国内のインフレ対策のためである。つまりトランプ政権で始まった対中依存は修正されなかった。中国との貿易戦争に負けたと言える。
  • 中国は貿易行動を変えていない。また関税で中国にコストがかかることはない。90%はアメリカ人の負担だった。

ディプロマットの話は実に教科書的である。自由貿易において関税は内国民の負担を増やすだけである。関税報復は単に消費者へのコスト転嫁になってしまう。だがこれによって守られる業界にとっては既得権となるためなかなかそれが手放せなくなる。

アメリカでは労働力の不足もあり労働市場は加熱したままである。これを労働力が格安だった中国に転化していた。ところが外交上の理由から対中依存を減らそうとしたためこの手が使えなくなる。結果的にアメリカのインフレは大幅な利上げなしでは止められなくなった。

国内産業を保護するために消費者が割高な負担を迫られている。これを是正しようとすると既得権を持っている企業から抵抗されるのは当たり前だ。さらにここに「経済は外交の武器」という要素が加わるといよいよ身動きが取れなくなる。

JETROの6月の記事によるとUSTRはIPEF(インド太平洋経済枠組み)を推進していた。USTRはUSTRなりのミッションを与えられているのだからそれに沿った主張をしているだけである。一方のイエレン財務長官もインフレ抑制というミッションを実行したい。お互いに矛盾する指令を受けているのだからそれを調停することができるのはバイデン大統領だけということになる。商務長官が「大統領は近々決断するだろう」としか言えなかったのはそのためであろう。

ここに「信念の人」ペロシ下院議長の卒業旅行が入った。ペロシ氏には悪意はない。4月にコロナで台湾に行けなくなった。11月には下院議長ではなくなってしまうかもしれない。夏休みに議会はやっていない。そうだ今ならいけると言うだけの話である。このペロシファクターは中国を刺激し台湾包囲という前代未聞の軍事的緊張を生み出した。ただ恐らくは国内の対中強硬派も活気付いたのだろう。

騒ぎを作り出すのは簡単だ。しかし、騒ぎを収束させ再び一貫した方針を作り出すのはとても難しいと言うことがわかる。

トランプ大統領が再選を決めていれば今のインフレに対して責められていたのはトランプ大統領だったのかもしれないが民主党が政権を奪還してしまったために「全ての混乱はバイデン大統領のせいだ」ということになってしまった。

バイデン大統領は、インフレ抑制、弱腰批判、国内産業の保護という知恵の輪を「今すぐ解く」ことを求められていた。そして結果的にバイデン大統領は「何もしない」ことを決めた。関税は撤廃しない。しかしオプションも留保するというのだ。

今後バイデン大統領がこれをどのように発表するのかに注目が集まる。ロイターの記事によると「関税除外リスト」の扱いに注目が集まっているそうだ。つまりバイデン大統領は少数の品目をあげて「これだけのものを除外して見せた」とインフレ対策をアピールする可能性がある。

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