先ほど「困ったら借金に頼るアメリカ人と貯金に頼る日本人」という記事をリリースした。この記事では中間層ゲームから脱落しそうなアメリカ人という視点からアメリカの家計で負債が積み上がっていることに注目した。一旦こういうおさらい記事を書くとその後の分析が楽になる。時事通信が二つの記事を出している。
最初の記事は中間層が住宅を購入できなくなっていると書かれている。中古住宅の価格が値上がりしている上にインフレ抑制策で利率が上がっているため30歳前後という「最初に家を買うべき年代」の人たちが家を買えなくなっている。さらに家賃も上がっているため住宅購入資金を貯蓄することもできない。
こうしてアメリカ人中間層が「普通のアメリカ人」ゲームに参加することは難しくなりつつある。日本で言えば就職氷河期というある特定の年代の人たちが正社員ゲームから脱落したような感じである。
前の記事で分析したようにトランプ政権下ですでに「中間層がゲームから脱落しそうだ」という状態は始まっていた。学資ローンが積み上がり住宅も手に入れられなくなっていたのだ。アメリカの中間層と呼ばれる人たちは「騒ぎを引き起こすばかりのトランプ政権ではこの問題を解決できないだろう」と考えたのではないかと思う。バイデン大統領もこうした人々に注目し「中間所得層の再生」を掲げた。
ところがバイデン政権が掲げたビルドバックベター法案は骨抜きにされた。時事通信によると単なる「インフレ対策」になってしまったのだそうだ。さらにインフレそのものを止めることもできず住宅の購入はさらに難しくなっている。これではそもそも「アメリカというゲーム」に参加できない。ゲームオーバーで脱落する人も増えるだろうが、そもそも最初のスタートラインに立つことができない人も出てくるだろう。
バイデン政権は「アメリカというゲーム」を「民主主義を守る」という価値のゲームに転換しようとした。まずロシアを刺激しウクライナの戦争を誘発した。今度はペロシ下院議長が訪台し台湾海峡問題を先鋭化させてしまった。つまり「民主主義を専制主義から守る」というゲームは先進国・新興国を巻き込んで平和維持のコストを増大させただけだった。
アフガニスタンから撤退し治安維持コストを削減しようとした当初の政権の目論見は失敗したことになる。
一方で足もとの「アメリカというゲーム」をめぐる問題も全く解決していない。その結果「インフレが加速すると反比例してバイデン政権の支持率が落ちてゆく」という構図が定着してしまったわけだ。小さな期待で支持率がやや上がりまた落ちてゆくという繰り返しだ。
ただ一方で「中間層」と呼ばれる人たちの数はそれほど多くないということもわかる。支持率の低下は55%から40%である。アメリカは多様な社会なので中間層が没落してもそれに気がつかないという人もいるはずなのだ。例えばすでに学資ローンを返済し家も持っているという人は影響を感じにくいだろう。こうして相互理解が難しくなるとますます社会は問題意識を共有できなくなる。これが社会の分断を生みますますアメリカ政治を混乱させる。
冷静に考えれば共和党も特に起死回生のインフレ抑制策を持っているわけではなさそうだ。インフレが過熱する要因の一つはアメリカ人が持っている価値観そのものにあるのだから政権が交代しても解決はしないだろう。
もともとこの問題の観察を始めたときにはアメリカ経済の問題は単なる経済ニュースだと思っていた。だが、この問題は実はアメリカ政治に大きな影響を与えているようだ。政治が不安定化すれば日本を取り巻く地域の安全保障にも大きな影響を与える。
単に一つの政権の失策であれば「そのうち良くなるだろう」と静観していればよいのだろう。だが、仮にアメリカの価値観そのものに根ざしていると考えるのならば、しばらくこうした状況が続くのかもしれない。我々は今までアメリカが日本を守ってくれる存在だと感じていたわけだが、今後しばらくは問題を作り出す側に回るのかもしれない。