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困ったら借金に頼るアメリカ人と貯金に頼る日本人

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普段は「今のニュース」に注目している。時間勝負でニュースを追うため、一つ一つの分析はどうしても甘くなりがちだ。そこで今日は少し基礎的なところを勉強し直したいと思っている。テーマは日本とアメリカの違いである。

日本人は将来不安に備えて貯金を蓄積する傾向にある。このため賃金上昇がなく経済が成長しない。これを支えているのが国家財政だ。借金をしない国民に代わって借金をして「今まで通りの生活」を支えている。

一方でアメリカ合衆国市民は家計が積極的に借金を増やしている。好景気でも借金を増やすのだが不景気になると借金が返済できない。このため好景気でも不景気でも家計の借金が増えるという状況になっている。

この違いはどこにあるのかと思った。普段は性急に結論を探すのだが、今回はきちんといくつかの文章を読んでみようと思った。

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全部読むのが面倒だという人のために概要を書くと、アメリカは人並みの生活をするためにはまず借金をしなければならない状態になっている。好景気で見通しが明るくなると借金を増やして消費に邁進するのだが、景気が悪くなっても返済が滞り自転車操業的に借金が膨らんでゆく。つまり、どちらでも負債が膨らむ構造になっている。

ただ、アメリカには日本と違った事情がいくつかある。まず借金は悪いことだとは思われていない。日本人は割り当てられた田んぼや漁場で得られる収入が一定だったため「所得を増やして状況を改善する」という考え方はしない。だいたい一般市民の所得は決まっているのだからその中で始末(節約)をして残りを貯金するという考え方が一般的である。アメリカにはこの考え方がないのだ。多くの国民はクレジットスコアという「経済偏差値」を持っていて自分がどれくらいの社会階層にいるのかということを知っている。借りられるということは社会的ステータスが上位にあることを意味する。

また、住宅を資産に組み入れるというアメリカならではの仕組みがある。住宅を持っていると信用力が増しより多く借金ができるようになる。資産はクレジットスコアによって数値化されその人の信頼を表す指標として用いられる。このことは逆に言えば「家の資産価値が下がればクレジットスコアに影響が出る」ということを意味する。


まずCNNの記事を読む。

FRBによるとアメリカの家計は6月に401億ドルの負債を積み上げた。これは5月の238億ドルを上回る。借金にはリボルビングとノンリボルビングがある。リボルビングはクレジットカード支払いである。Quoraで聞いたところ「一定の信用枠の範囲で借り入れる」ものをリボルビングというそうだ。5月の7.8%から16%に増えている。一方で車のローンや学生ローンなどの伸びは5月が5.8%だったのが8.8%に伸びている。これは枠とは別になっていて「ノンリボルビング」と言われる。

アメリカ人が積み上げた借金の総額は前四半期に比べると989億ドル増えている。この原因は40年ぶりのインフレによるものである。食料費や燃料費が値上がりしており、物流や供給の問題が追い打ちをかけている。

アメリカの負債総額を読むときには二つの見方ができる。一つは「将来見通しの明るさから借り入れを増やしている」という見方であり、もう一つは「現在が苦しいから返済が滞っている」という見方がある。この記事は最後の一説で「コストプッシュ型」で負債が積み上がっていると言っていることになる。

2022年2月のロイターの記事によると、2021年にアメリカの家計の負債は1兆ドル増加した。これは2007年以降最大額だったそうだ。原因は住宅や自動車などの購入増加だった。借金をして住宅を購入する人が多く1999年以降最高水準だったそうだ。また自動車を買うための借金も増えていた。

この時点ではクレジットカードの残高は第四四半期で520億ドル増えただけだった。つまり、まだそれほどの増加額にはなっていないようである。第四四半期にはクリスマスなどのホリデーシーズンがあるためにその影響もあるものとみられていたが「インフレが始まっているのかもしれない」と書かれる程度だった。

つまり去年のクリスマスシーズンにはそれほどの危機感はなかった。この時点のロイターは「家計は債務負担を吸収している」と書いている。パンデミック初期に貯金が積み上がっており返済猶予プログラムの影響があったからだ。つまりこの時点ではなんとかなっていたわけだ。この時期はFOMCでのパウエル議長の一言一言が市場に過剰反応を起こす前にあたる。2022年の前半で状況が急激に変わったことがわかる。

その前の2021年8月の記事はCNNのものが見つかった。2021年第二四半期の負債は3130億ドル増加している。これはクレジットカードと家の購入などが含まれている。この時も2007年以来最大と書かれている。19年末と2021年6月自転を比べると家計の負担は8120億ドル(クレジットカードが170億ドル、自動車ローンは330億ドルだった)増えていた。

住宅市場が過熱しているため住宅ローンを利用している人も増えているが住宅ローンの支払い猶予を求める借り手が200万人いると書かれている。このプログラムが終われば経済的に困窮する人が増えるだろうと言っている。プログラムができた時には色々な人たちがいたが今では「経済的に弱い人たちだけ」が残っているのだそうだ。この他に学生ローンの支払いを猶予されている人たちがいる。

さて、これまではコロナの影響が入っていた。ところが、実は負債の積み上がりはバイデン政権になる前から起きていたようだ。

学資ローンの返済猶予が2022年8月31日まで延長されている。この時のJETROの記事によるとこれによって750万人が学資ローンデフォルトで賃金の差し押さえを逃れることができると書かれている。また、バイデン政権は2022年6月には20万人のローンを帳消しにしている。

サマーズ元財務長官は経済を冷やすために増税しろと主張しており学資ローンの猶予プログラムには否定的である。つまりこの状態を早く正常化しろと言っている。アメリカ人にとっては借金は自信の表れである。仕事はあるのだからもっといい仕事を見つけてきちんと返済しろというわけだ。日本で言えば生活保護を受けた人は働かなくなるからそんなものは廃止してしまえという議論に似ている。


「アメリカというゲーム」はかなりプレイが厳しくなっているようだ。ではこれはバイデン政権の政策の失敗から来ているのだろうか。おそらくそうではないだろうという記事を見つけた。

2019年8月のウォール・ストリートジャーナルの記事が見つかった。中間層がライフスタイルを維持するために借金を膨らませていた様子が描かれている。この時点で住宅を除いた融資は過去最高になっていた。特に増えていたのが学資ローンである。1兆5000億ドルもあり住宅ローンを除く債務の中で最大になっていたそうだ。また自動車ローンも過去10年で4割近く増加していたそうだ。

ウォール・ストリートジャーナルは借金は将来に対する自信の表れでもあると書いている。そして、これが行き詰まるのは失業率が上昇した時だろうと分析する。実はこの予言は外れた。アメリカでは今でも失業率は高くなっていないし給料も上がり続けている。だが物価はなぜかそれ以上に値上がりし借金を返せない状況に陥る人が増えているからである。

アメリカの家計所得は1999年と比べるとそれほど伸びていないが住宅価格は290%も増加しているという。また公立大学の授業料も311%伸びている。さらに医療費の負担も伸びている。中間層にとどまり続けるゲームやそもそもスタートラインに立つためのコストが値上がりし続けていた。

ウォール・ストリートジャーナルは「ミドルクラスにとどまるコストが上昇している」と書いている。きちんと大学を出てちゃんとした家を持つためのコストである。だがこのスタートラインに立つためにはそもそも最初から借金を背負った状態ということになる。具体的な事例が出てくる。夫婦と哺乳瓶を抱えた赤ん坊が写っている。8枚のクレジットカードを持ち5万ドルのローンを抱えているそうだ。


日本は定額の収入を始末し労働の蓄えを貯金して老後に備えるのが一般的である。このため経済の冬を予想すると消費が控えられる。人件費は上がらなくが消費も低迷する。政府は「できるだけ貯蓄を投資に回すように」と呼びかけるが応じる人は多くない。日本の伝統にはない考え方だからである。一方で不景気のニュースには強く反応しその度に節約術がテレビや雑誌などで宣伝される。つまり日本はできるだけ使わない「貯蓄型」の社会である。苦境を節約と貯蓄で乗り切ろうとするのだ。

ところがアメリカは中間層ゲームに参加するためにはまず学資ローンを借りて借金をする。さらに住宅を買い車を買い「クレジットヒストリー」を積み上げてゆく。「たくさん使う」ことが前提の社会のため一旦経済が加熱するとどこまでもインフレが進んでゆくことになる。このゲームは「止まったら終わり」なので経済は止められない。アメリカは苦境を借金で乗り切ろうとする社会であることがわかる。

そもそも日本とアメリカでは同じ資本主義といっても根本になる仕組みが全く違っているようだ。

今、アメリカではこうした生き残りゲームが加熱し「熱々の労働市場」と止まらないインフレが生み出されている。

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Comments

“困ったら借金に頼るアメリカ人と貯金に頼る日本人” への1件のコメント

  1. 下村 博隆のアバター
    下村 博隆

    日本とアメリカを比較する事態無理、資本主義はお金が偏る傾向があり政府は税金の名目で課税をしてお金の偏りを修正しようとしているが、政治は元々金持ちが権力を握り資金の流出を抑える、課税の仕組みを巧みに変更しているから、貧富の差が大きくなってしまう傾向がある。
    日本は自然災害が多発する国家である故に、国民は常に災害に備える習性が出来上がっています。
    災害に合ったら、昔から国家は一時救済を行いますが、被災民は一定期間が過ぎれば国家に頼らずに自力で元の生活に早急にやり遂げる為の貯蓄を常に心がけている故に、災難復旧用貯蓄に走ります。
    日本が貧困になっているとメディア等は言っていますが、他国がインフレに成っているから、通貨の偏りが起こっているだけです、日本の土地や物件を外国人が購入できない国策づくりが先決です。
    円安でも日本の技術力を上げる国家支援を行うと同時に、円安故に外国からの観光客が増える事になり外貨が日本に逆流すると思います。