官公庁からInternet Explorerがなくせなかった理由

インターネットエクスプローラー(IE)のサポートが終わった。セキュリティ対策が行われなくなるため専門家は「何か問題があってもメンテナンスされていない無防備な家に住み続けるようなものだ」と警鐘を鳴らしている。1年前からIEがなくなることはわかっていたにも関わらずIEの置き換えは進んでこなかった。これはなぜなのだろうか?と考えた。まず「日本のベンダーはガラパゴス化していて技術者がいない」のではないかと考えたのだがQuoraで聞いたところ「そんなことはない」という。日本の技術者は優秀で常に新しい仕組みに備えているというのである。では何がいけないのか。






TBSが調布市を取材している。調布市役所は「突然のサポート終了」に戸惑っているのだという。システムは膨大に残っており半分ほどしか更新ができていない。それでも年度内にシステム更新を終わらせる予定なのだそうだ。調布市役所の職員が怠けているようには思えないがネットでは「マイクロソフトはかなり前から警告を発していた」というコメントが多く見られた。

Googleで検索したところQuoraの「日本の省庁はなぜIT音痴まみれなのでしょうか?(IE11でしかできないって。絶句しました)」という質問が見つかった。回答は40もついているのだが「そんなものなんだろう」「実績ベースで選ばれているのだろう」という漠然とした回答がついているだけで根本的な理由に対する説明は見られなかった。官公庁=IEということになっているのだから考えても仕方がないと思われているようだ。

技術者たちは「自分がこの先食べてゆくためにはどんな技術を勉強しておいた方がいいのだろうか」と自分ごととして技術選択の問題を捉える。だから個人レベルでは技術の移行は進んでいるようだ。だが集団になると他人事になってしまう。官公庁=IEということになっているのだから当然IEなのだろうというところで考察が終わってしまうのである。

さらに検索すると「何故お役所ってオワコンIEが大好きなの?」という記事がみつかった。楠正憲さんという人が書いた文章だ。どこかで聞いた名前だなあとは思ったがその時にはどこの誰なのかわからなかった。何れにせよ技術者らしく混乱した文章が延々と続いており読むのが難しい。

頑張って読んでみた。

要旨はそんなに込み入ったものではない。この文章は「マイナポータル」について書いている。このマイナポータルを動かすために必要な依存ソフトが動くブラウザーが限られていたという話だ。

  • マイナポータルは日本を代表とするITベンダーと通信キャリア3社が開発した。電子申請にはActive XかJavaを使うのが常識だった。事前にJavaとJPKI利用者ソフトとマイナポータル設定ソフトのインストールが必要だ。
  • 電子申請が本人確認をするためにマイナンバーカードから情報を読み出すためのツールがAvtiveXとJavaでしか用意されていた。依存ソフトが複雑なためInternet ExploreとSafariでしか動かなくなっていた。
    • ChromeとFirefoxがJavaアプレットのサポートを打ち切った。Javaアプレットは仕組みが複雑なためセキュリティ対策が複雑だ。このためブラウザーでのサポートそのものが打ち切られたのだ。
    • ActiveXはもともとIEでしか動かない。
  • ではもっと簡単な仕組みを利用すればいいのではないか。
    • ICカード(マイナンバーカード)ではなくワンタイムパスワードなどの別の仕組みを導入すればいいのだがこれは政治マターなので技術者主導では進められない。
    • マイナンバーカードの仕組みを変えればOSレベルでサポートできるがすでに1,000万枚も配っているので回収などできない。これも事務方を説得させられそうにない。
  • だが色々苦労した結果Edgeなど他のブラウザーでも対応できる目処が立った。
  • このように出口は見つかったがすでに稼働しているシステムはIEを利用しているものも多く、今だになんで官製システムはIEだけなのだという苦情を聞く。なかなか新しいソリューションが広まってゆかないのだ。

かなり整理すると要するにもともと使っていた技術が陳腐化してIEとSafariでしか使えないがその中でなんとかするしかないということが延々と書かれている。楠さんの名前を調べたところ。デジタル庁というお役所の「幹部さん」らしい。いずれにせよ「ちゃんとした人」の「ちゃんとした話」のようである。

楠さんは頑張ってEdgeなどの最新ブラウザーでも使える技術を見つけてきた。転用もできるのだがなかなか広まってゆかないといっている。つまり一部のエリートが頑張ってソリューションを見つけてきてもそれが一般に広まってゆかないという構造があるのだ。

技術に詳しいITmediaは「「Internet Explorer」サポート終了も「IEモード」で“ゾンビ化” 本当の混乱は7年後?」という記事を書いている。EdgeにはIEモードというものがあるので移行はそれほど難しくないようだ。だがそのIEモードのサポートもそのうち終了になる。しかしこちらの方が安易なソリューションなのでこちらを選択する人たちも多いのではないかという。

いくつかの記事を張り合わせた「簡単な検索の結果」でしかないのだが、これらの情報を総合すると次のようなことがいえる。

  • 日本人技術者は個人のレベルでは新しい技術を選択している。だが集団のレベルでは古い技術が残っている。集団としての日本人はあまり理由を深く考えず「まあそんなものだろう」と思い納得してしまう。
  • 中には抜本的な解決策を見つけ出す人も出てくる。政府の中枢にもおそらくそういう優秀な人はいる。
  • だが彼らの努力が広がることはない。考えるのが面倒なので安易な解決策に流れてしまう。

このような事情が積み重なり「個人としては優秀だがそれが集団に活かされない」という社会が生まれる。だが我々はそういう社会に慣れてしまっているので「まあ世の中とはそういうものなのだろう」としか考えなくなっているのだ。IEモードを選択する官公庁がどれくらい出てくるのかはわからないが、おそらく対策は7年後の担当者が考えレバいいということなのだろう。

原因がこの中央と周辺の格差にあると考えると解決策の方向性は大まかに分けて2つある。

1つは楠さんのようなリーダーが強い権限を持って強引に古いやり方を切ってしまうという方法である。例えば「今のマイナンバーカードを全部回収して新しいものを配ります」ということだ。独裁的な方法であり日本ではあまり好まれない。

もう1つは政府が「IE以降プロジェクト」を立ち上げて「こういう仕組みを使えば移行ができますよ」とサポートするという方法である。人はすべて政府が雇いメソッドもすべて政府が開発するというやり方である。こちらの方がきめ細かい配慮が整った方法ということになるのだが、冷静に考えてみれば「いくらお金があっても足りない」ということになるだろう。末端組織の面倒をすべて中央で見てあげるという方式だからだ。

いずれにせよこれが「自分たちの問題である」と考える人が多くならない限り、今のような問題が延々と続くことになるのだろう。日本のデジタル化が進まない要因は実はこの辺りにあるのかもしれない。

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“官公庁からInternet Explorerがなくせなかった理由” への2件の返信

  1. 実は仕事でIEからChrome、Edge への変換案件を多数経験しています。
    技術的な問題としてはActiveXの機能をJavaScriptの代替機能で書き換えることと、IEとChrome,EdgeでのCSSの表示の違い、JavaScriptの動きの違いを吸収する部分がメインとなります。
    今までの案件ではJavaアプレットからの変換を行う案件には当たったことがありません。個人的な感想ですが、Javaアプレットはその登場時点からパフォーマンスの点や、出来上がる画面のイメージがいまいちで、現時点ではすでに淘汰されてしまった技術のように思います。 マイナンバーカードでのJavaアプレットの利用はやはり避けるべき設計だったとしか言いようがないですね、そもそも端末に接続されたディバイスをブラウザの操作で制御するということ自体がセキュリティー的によろしくない部類に入ることに加えて、OSやデバイスドライバの状態もユーザーごとにバラバラなうえに、制御するカードリーダーも何を使うのかわかっていない状況でアプリを動かそうということ自体無理すじです。マイナンバーカードのアプリ以外では、例えばホテルのチェックインキオスク端末のようにWEBブラウザから端末に接続されたデバイス(パスポートリーダーや、カードキー発行機)をコントロールするようなシステムもありますが、そのようなシステムの場合では、接続するデバイスはしっかりと機種選定した製品になるし、OSのビルドバージョンからデバイスドライバのバージョンも固定してアプリの実行環境を整えて挑みます。

    WEBシステムにとどまらず、これまで様々なシステムのマイグレーションしてきた中で感じることは、日本のベンダーが作るシステムは細かすぎるという点です。おそらく職人気質のシステム屋さんが日本的な美意識プラス努力と根性で作り上げているからだと思います。
    640 x 480ドットのDOSの画面の頃から、一つの画面にどれだけの項目を詰め込めることができるかを競っているような画面作り。1ピクセル単位で項目の配置を設定してキチキチに詰め込んだ項目ラベルと入力欄。
    なぜか表が大好きなところ、検索結果を画面に表示するときは絶対に表組にして、きれいな線を引かないと気が済まないんです。漢字入力の項目ではIMEモードをオン、会社コードの入力欄ではIMEモードを無効にしてユーザーの入力パフォーマンスの最大化をサポートするおもてなし感など、プレゼンに勝つための画面作りはそういうものだったんでしょうか?
    ところが、こういった思想で作られた画面はブラウザがIEからChromeに変わっただけで破綻してしまいます。
    まずデフォルトのフォントスタイルも、フォントサイズもIEとは違います。入力欄には会社コードが入りきらず4桁のところ3桁しか入力内容が見えません。
    表組は乱れ、枠線がガタガタに崩れた汚い表が画面に広がります。Chrome はIMEモードの制御をやってくれないので、半角英数のみ有効な項目に全角文字が入ってしまい、バリデーションをサボってたサーバーサイドでエラーが発生し、いきなりシステムエラーの画面が表示されてしまいます。システム更改プロジェクトにエンドユーザー企業の実際の操作担当者が入っていたりすると、この段階でトラブります。ユーザーにとってみれば、高い金払ってもIEからChrome に移るだけで、何かが便利になるどころか、見慣れた画面が変わってしまうし、ただでさえシステム並行稼働で入力業務が倍になっているところに加えて、いちいち漢字変換のオン・オフの操作をしなければならないし、エラー画面の報告で作業は中断するし、私はあんたのように暇じゃないんですよと嫌味をいう気持ちもわからなくもないです。
    IE離れが進まない原因として、これがすべてとは言えないと思いますが、お金がかかる割にはそれに見合った結果が伴わないという点は原因の一つと考えられそうです。

    1. 豊富な情報量なので全てを網羅してコメントすることはできないですが大筋として外れていなくてよかったなあと感じました。

      途中日本のデザインは細かすぎるというご指摘がありました。質問サイトQuoraでもよく聞かれる議論です。私も「隙間を埋めないと不安だと思うチラシ的発想の人が多いのでは?」という回答を書いて高評価をたくさんもらったことがあります。多くの人が「これはやりすぎだなあ」と思っていることは明白ですが、なかなかなくならないですよね。

      テーブル好きに加えてピクセル単位でハードコーディングしてある事例まであるというのは意外でした。Webデザインの世界ではテーブルに1ピクセルのスペーサーを入れるみたいな職人技の時代があったのは確かですがCSSが導入されてから消えてしまった悪習ですよね。

      色々と豊富な情報をいただき感謝しています。ありがとうございました。

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