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「何も変えない」黒田総裁を結果的に救ったのは経済無策のバイデン大統領だった

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ドル円のレートを見ていたところいきなり数字が上がった。わずか数秒の出来事だった。後で調べて見たところ「政策会合の結果が発表になった」のだという。やはり黒田総裁は現状維持を選んだのかと思った。だが、その後大方の予想に反して円の急落はなかった。ロイターによるとスイス中央銀行のサプライズとアメリカの経済見通しの悪化が理由なのだそうだ。黒田さんは救われたんだなと感じた。では黒田総裁は一体誰に救われたのか。

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ロイターが今回の顛末を「焦点:日銀緩和維持、円安急伸もすぐ息切れ 景気減速と株安警戒」という記事にまとめている。

ロイターのこの記事は「年初来の円下落傾向に底打ちの兆しがある」と分析している。FRBの急速な景気抑制策の効果が出始めておりリセッションの可能性が高まってきた。景気が冷えればアメリカは抑制策を続ける必要はなくなる。だからこれまでのような1ドル150円というような悲観的な見方を取る必要はなくなるのではないかという。またスイス連銀が金利をあげる決定をしたことで金利差を狙ったキャリートレードが下火になるという予想もあるようだ。

選挙前に円の価値が下落したとなれば選挙の争点になっていたことは明らかである。円安が物価高と絡めて報道された途端に内閣支持率はやや下げていた。テレビが数十年ぶりの為替水準だと大きく取り上げれば経済がよくわからない人は「何か大変なことが起きているのだろう」と考え内閣支持率に影響が出るのである。

ではFRBのパウエル議長はなぜ金融市場を犠牲にしてまでもタカ派シフトを余儀なくされているのかということになる。YouTubeにBloombergのフッテージが出ている。Odds of Recession Soar to 72% Under Bidenというタイトルだ。Bloombergは独自のモデルを出しておりリセッション入りする確率が72%まで上がっているのだという。Bloombergの政治的立ち位置を考慮したとしてもリセッション72%というのはかなり高い確率である。だがBloombergが原因として挙げているのはパウエル議長ではなくバイデン大統領である。

この解説ビデオの中に石油業界とバイデン大統領の関係悪化について言及した部分がある。日経新聞によるとバイデン大統領は石油大手に書簡を送り「生産量を増やさず高収益をあげていると非難」した。ただ石油大手は「バイデン政権が脱炭素政策を推し進めたせいだ」と反発している。民主党支持者には環境派や人権派も多い。バイデン大統領は「脱炭素政策で地球の環境を守ろう」というスローガンで多くの支持者を獲得してきた経緯があり「いきなり増産しろと言われても今までの言動はなんだったのだ?」ということになってしまうのである。

バイデン大統領にはバイデン大統領なりの立場というものがありこの「変節」を一概に非難することはできない。だが「敵を声高に罵る」手法で様々な対立を生み出しているのも確かである。共和党議員たちとの関係もあまり良好とは言えず経済政策で大きな成果を上げることはできていない。つまり経済政策の良し悪しではなくその政治姿勢が行き詰まりを見せていると捉えることができる。

さらに海運業を狙って運賃を引き下げさせるような法律も準備した。ここでも海運業者を非難して反発を受けている。狙いはよくわかるのだが手法がどうしても反発されてしまうのである。だがバイデン大統領にはこうした政治姿勢が染み付いてしまっておりそこから抜け出すことが難しいのだろうということがわかる。

アメリカの政治はこのようにして膠着状態に陥っておりバイデン大統領はBloombergが言うところの「ジオポリティクス的な政策」以外の政策を打ち出せなくなっている。現在サウジアラビアとベネズエラに接近中だがおそらく外交的な解決策には長い時間がかかるだろう。

こうなるとパウエル議長は援護射撃なく金融政策だけでインフレに立ち向かわなければならない。その結果が急激なタカ派シフト担っているのではないかと思われる。

ただしこの急激なタカ派シフトは金融市場関係者や投資家に大きな痛みをもたらす。ロイターは「焦点:既定路線から再び外れたFRB、見通しの不確実性高まる」というコラムを書いている。度々既定路線を逸脱するために先行きが見通せなくなっているという。投資環境が悪化すれば株式債券市場は冷え込む。すると企業は業績が上げられなくなりリセッションの確率が上がってしまうというサイクルになっている。

日本の株価もアメリカの経済状況に連動する。つまりアメリカの状況は黒田総裁には追い風になったが日本の投資家が救済されることはなかった。むしろアメリカの政策に巻き込まれたという人が多かったではないだろうか。

ただし、アメリカの景気が落ち着けばFRBが急激なタカ派シフトを撮り続ける必要はなくなる。何もパウエル議長はアメリカ経済を破壊しようとしてタカ派にシフトしたわけではない。車のスピードが落ちさえすれば急ブレーキを踏み続ける必要はないのだ。となるといつ頃車が減速するのだろうかということになる。

すでに一部では来年には落ち着きを取り戻して急激な利下げがあるのではないかという観測も出始めているそうだ。Bloombergの別の記事では希望も込みで「短期金融市場は今月と来月に米金融当局が前例のない0.75ポイントの利上げを実施し、その後も追加引き締めが続くとの見通しを急速に織り込んだ。その一方で、2年以内に0.75ポイントの利下げがあるとも見込む」と書いている。

この観測が当たるのかどうかはわからない。いずれにせよ今の状況は嵐のようなものなので「今はじっと耐え忍ぶべきだ」ということになる。

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