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「奇跡の都市」だった深圳の凋落は中国経済の暗い未来を暗示しているのか?

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ロイターが深圳の凋落について書いている。この文章を読むと中国の経済に暗雲が立ち込めておりいよいよ衰退が始まったのではないかと思える。最近ではシリコンバレーにその地位を奪われているというのである。ロイターが指摘する原因は二つある。バイデン政権は政権発足後2年間対中国政策を推進しておりその成果が出て来た。つまり経済制裁の効果が出ているようだ。さらに、共産党のかなり強引なゼロコロナ政策も追い風になっている。

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かつて「奇跡の都市」と呼ばれた深圳の経済が行き詰っているとロイターは書いている。最近ではその地位をシリコンバレーに奪い返されたとされているそうだ。

深圳は1979年以来中国の開放経済の象徴とされ長い間繁栄を謳歌してきたのだが、やはり永遠の繁栄などないのだなという気がする。

深圳の退潮にはいくつかの原因がある。

  • アメリカの経済制裁とデカップリングの影響を受けたこと
  • 中国政府のゼロコロナ政策の影響で供給網が寸断されたこと

深圳は中国各地から多くの人を惹きつけてきたのだが一旦経済停滞が始まるとその魅力は薄れる。人々は海外に流出し別の場所で事業を行うことになるだろう。地方からの出稼ぎ者は深圳に取り残されるが生活費が高い割に給料が得られなくなれば地方に戻らざるを得なくなってしまう。こうして、1979年以来続いていた深圳の「奇跡の都市」としての都市の魅力が揺らいでしまうのだ。

この記事だけを読むとこう結論づけたくなる。

だが、加谷珪一さんが中国経済について別の分析をしている。こちらは主語が日本になっている。いよいよ日本と中国の「人件費」が逆転しつつある…いま日本が迫られている「根本的な転換」日本の構造改革を訴えて続けてきた加谷さんらしい文章だ。

加谷さんが注目しているのは中国の人件費の安さである。中国人の所得が全般的に伸びるに従ってこの人件費のメリットが活かせなくなってきている。ロイターの記事と加谷さんの記事を合成すると深圳の魅力は「世界中から集まってきた優秀な人材」+「中国全土から来た格安の労働力」という2つの要因から成り立っていたことがわかる。

米中の政策によって「世界中から集まっていた優秀な人材」が惹きつけられなくなると同時に経済成長によって中国の格安の労働力も失われつつある。これが「深圳が奇跡の都市」でなくなった理由だということになる。おそらく同じことは深圳だけでなく、香港、広東、東莞などの珠光デルタに及んでいるのではないかと思う。

全般的に所得が上がった中国は共産党政府が外需依存から内需依存型への移行に成功すれば「深圳の凋落」は深圳だけの問題ということになるだろう。だが過去の成功体験から抜け出すのはなかなか難しい。中国経済がこれを乗り切ることができるのかというのは中国の問題だ。

一方で日本には日本の影響がある。日本は長い間低成長時代が続いている。だがさほど暮らしが貧しくならなかったのは「100均ショップ」のような格安のモノを手に入れるのにさほど苦労しなかったからである。

加谷さんの文章の最後は次のようなまとめになっている。

これまで100円ショップのようなビジネスは、中国メーカー頼みだったが、場合によってはさらに人件費が安い国からの調達に切り換える必要がある。だが中国メーカーのような生産力は期待できないので、単価は割高にならざるを得ない。製品によっては国産の方が価格が安いというケースすら出てくるだろう。

いよいよ日本と中国の「人件費」が逆転しつつある…いま日本が迫られている「根本的な転換」

つまり低成長の花形産業だった100円均一というビジネスは徐々に成り立たなくなりつつある。中国の低賃金労働の獲得が難しくなっているからだ。

中国は中国として「外需依存型の産業から内需依存型の産業への転換」を迫られる。中国は日本以上に高齢化が進行しているため「内需依存」への移行はうまく進まないかもしれない。中国は日本のような民主主義国家ではないので共産党の指導力の不足は国民の不満に直結する。これを抑えることができなければ中国は分裂するだろうし抑えることができればおそらく経済活動は低調になるだろう。かつての「共産党独裁型」の国家に戻ってしまうからだ。豊かさを覚えた中国人がこれに耐えられるのかというのはよくわからない。

ところが日本は日本で「これまでのデフレ型社会」を支えて来た中国の格安労働力に依存できなくなって来ている。その象徴が加谷さんが結びに使っている100均ショップなのだ。100均ショップが成り立たなくなって来たのは円安が進んでいるからではない。円安はこれまで見えなかったものが見えやすくなるきっかけに過ぎない。日本は日本で構造転換の必要に迫られているといえる。

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