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もともとの物価上昇・アメリカやEUの利上げ・Brexitの影響 イギリスの複合インフレ

経済ニュースを扱っているとついついデフォルトや経済危機などの派手なニュースを扱いたくなる。だが今回の問題はそれほど派手な見出しになるものではない。スリランカのように破綻してしまった国ではなく、トルコのように破綻の扉が開いているような状態でもない。

だがイギリスのインフレについて調べると、インフレが人の予測やその場の空気で作られる現象だということがわかる。

2023年のイギリスの経済はG20の中ではロシアとウクライナを除き最低になりそうだ」というBBCのニュースを見た。結果的にはそうなのだが直接の原因はよくわからない。いくつかの要素が絡み合い人々が物価上昇を予測すると実際に物価が上がる。つまり、イギリスのインフレは複合型なのだ。

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2022年4月の記事によるとイギリスのインフレは三つの要素に分解できる。

  1. 単純な物価上昇
  2. アメリカやEUの利上げ
  3. ブレグジットの影響

イギリスが30年間で最大のインフレに陥っているというニュースが流れたのは2021年の秋だった。この時にインフレの原因とされたのはブレグジットの影響である。安い労働力をEUから移入できなくなりサプライチェーンも寸断された。つまりブレグジットは失敗だったというネガティブな扱いをされていた。

特に北アイルランドの物流混乱はブレグジット直後に暴動まで引き起こした。ウクライナの戦争が始まる前の段階の2022年1月の時点で食料価格が2.7%上昇し2022年のインフレ率は7%になるだろうと予測されていた。1月のニュースでは主に低所得世帯が「冬を越せるのか心配だ」というニュースも残っている

イギリスの物価上昇率が30年ぶりの高水準になったと報じされたのはこのころだ。

2022年1月の状態なのでまだウクライナの戦争は始まっていない。この後の2月24日にロシアがウクライナに侵攻して状況が一転する。経済制裁の影響でウクライナとロシアからエネルギー資源と小麦が入ってこなくなる。イギリスは他のEU諸国ほどにはロシアに依存していない。影響は間接的にやってきた。

エネルギー価格と小麦の高騰は物価高を招く。物価高を抑制するためには金融緩和を解除するしかない。良いインフレだろうが悪い物価高だろうが対策は一度に一つしか取れないからだ。当然金融投資に回るはずだった資金が回収されるためイギリスへの投資が減る。つまり世界的な金融街であるロンドンは間接的に影響を受けることになってしまった。

景気にブレーキがかかるわけだからイギリスのインフレも落ち着くはずである。だがこの物価上昇がイギリスの物価を落ち着かせるという予測にはなっていない。「2022年の後半にはインフレ率は9%になるだろう」と上方修正されている。2023年には少し落ち着くものの5.3%が予想されているという。

さらにこれに政策が追い打ちをかける。ジョンソン政権は社会保険料の値上げを計画していた。NHSと呼ばれる国民皆保険制度を維持するために2021年9月に保険料の値上げが発表され4月から実施された。こうなると人々は余計な支出を削り「経済の冬」に備えることになる。

一度はコロナ禍からの経済回復が期待されていたが、様々な事情が積み重なり徐々にスタグフレーション(不景気と物価上昇が一緒にやってきた状態)に陥るのではないかという予測になっている。

結果的に冒頭で示した通り「G7で最低の経済成長率」という数値予測が出てきた。IMFによると2023年の経済成長見通しは1.2%になるそうだ。BBCは2023年のイギリスの経済成長率の見通しは中国やインドを含む主要20カ国(G20)の枠組みの中でも重い制裁を科されているロシアの次に小さい値だと書いている。

だが、これらの事情を調べて見て、冒頭のリストの2と3については説明がされているものの1についての説明がないことがわかった。イギリスだけでなく大陸ヨーロッパでも物価上昇が起きていた。新型コロナの停滞を取り戻そうと企業や個人商店などが値上げをやっていたのかもしれない、新型コロナ禍で好投した物流コストを転嫁していたのかもしれない、あるいは新型コロナで使えなかったお金を使おうという「活発な消費意欲」に伴う良いインフレだったのかもしれない。

だが一旦インフレ方向に物事が進み始めると様々な諸事情の意味合いを分析してもあまり意味がなくなる。とにかく全てが「アンプ(増幅装置)」の役割を果たし物価の上昇が始まるからである。

アンプの役割を果たしているのは一人ひとりの合理的な判断だ。人々が物価上昇を目にすると「これからもこれが続くかもしれない」と予測する。ニュースを見てインフレの予測が出ればその予測は確信に変わるだろう。

いずれにせよ「様々な原因」で物価上昇が起きておりそれが落ち着くまでには相応の時間がかかる。イギリスの中央銀行は5月初旬に利上げを行なった。イギリスにしては大胆な政策変更だったようだがアメリカに比べると極めて抑制的な利上げだった。

このような状態にあってもイギリスで政権交代が起こるかどうかはよくわからないようだ。地方選挙で保守党はかなりの負けを喫したのだが政権を担えるような野党が育っていないものと考えられる。

いずれにせよイギリス国民は自分で選んでこの状態を作り出している。ジョンソン首相はとにかくEUを離脱すると宣言しかなり強い信任を受けた。ブレグジット前に行われた選挙ではジョンソン首相の保守党が大勝しており現在の議会ではかなり強い状態にある。つまりインフレの原因の一つになっているブレグジットは国民の選択だったのだのだから街に繰り出してデモをやろうというような動きにはなっていない。

その意味ではイギリスの民主主義は「暴発抑止装置」としては十分に機能しているとも言える。

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