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ゼレンスキー大統領が「戦争ができない国日本」に負わせた重い課題

ゼレンスキー大統領の国会演説を聞いて「ああそう来たか」と思った。これまで戦争への協力を依頼して来た大統領が日本に求めたのは戦争への協力ではなく「戦争後」の体制の再構築だった。

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ゼレンスキー大統領の国会演説には様々な懸念があった。日本は戦争ができない国なのに兵器や情報の供与などを求めてくるのではないかという人が多かった。一方の戦争当事国に加担することでもう一方に恨まれては困るという懸念もあった。

だが蓋を開けてみるとゼレンスキー大統領が日本に期待していたものは「ウクライナ戦争後」の枠組み作りを主導することだった。演説の後半に出てくるのだが「おそらく日本人はこれをスルーするんだろうな」と感じた。

該当箇所は次のように訳されている。

また、全世界が安全を保障するために動けるためのツールが必要です。既存の国際機関がそのために機能できていないので、新しい予防的なツールを作らなければなりません。本当に侵略を止められるようなツールです。日本のリーダーシップは、そういったツールの開発に大きな役割を果たせると思います。

「ウクライナへの侵略の津波を止めたい」 ゼレンスキー大統領が12分の演説で訴えたこと【全文】〈AERA〉

共同通信と時事通信がゼレンスキー演説の要旨をまとめているのだがこの箇所には触れていない。あまり重要ではないとみなされたのだろう。重要でないとみなされた理由はいくつかあるだろう。

第一に日本人は日本が戦後に置かれた状況についてあまりありがたみを感じていない。戦前の日本は戦争をする国だったのだが戦後は戦争をしない国になった。にも関わらず経済的に成功し世界第二の経済大国にまで上り詰めた。平和憲法と憲法第9条の輝かしい成果なのだが、当の日本人が「こんなのはお花畑(あり得ない理想論だ)」と感じている。

第二に日本は他国から押さえつけられて来た小国でありとても国際社会をリードするような器ではないという自己認識を持っている。ウクライナのような国から見るとまぎれもない経済大国であり戦争に関わってこなかった稀有な国である。日本人の努力によって成し遂げられたのだから、日本人には国際社会で強力なリーダーシップを発揮する資格がある。

第三に日本はウクライナの戦争をヨーロッパの揉め事と考えている。G7の中で奉加帳は回ってくるかもしれない。だから日本人は「ウクライナが何を要求してくるのか」ということばかりを気にしており日本が世界平和にどう貢献できるのかということにまで気が回らない。

ゼレンスキー大統領はコメディ俳優出身の素人としていきなり国家元首になった。このため国際社会の常識などは知らないのだろう。だが、多くの国家元首が「この揉め事をどう終わらせるのか」というところまでしか考えられていないのに比べると「その後」のことを考えているという意味では視野が最も広い。そしてその意識は最も世界中の国民に近い。

さらに現在戦争に巻き込まれている国として「どうやればこの惨劇が回避できるのか」ということを今最も真剣に考えている国家元首である。彼の下した結論は国連もNATOも平和維持には役に立たないというものだ。さらに言えば核兵器のような立派なものを持っていても平和や国力維持には何の役にも立たない。ただお互いにすくみあっているだけである。彼にはウクライナ後について語る資格がある。

戦争に巻き込まれた国だからこそ平和主義国家として曲がりなりにも憲法第9条を維持して来た国に対する眩しい眼差しを向けているのだといえる。つまりウクライナは憲法第9条の持つ意味合いを最も高く評価している国なのである。

ひるがえって考えると「護憲派」と言われる人たちが「ゼレンスキーは戦争当事者なのだから国会で演説させるな」と主張していたのが馬鹿みたいに思える。ウクライナは望みもしない戦争に巻き込まれた国であり、今の国際社会の枠組みがウクライナのような悲劇を回避できないことを痛感している国である。だからこそ、憲法第9条が掲げる平和主義のような「お花畑」が世界に広がることを望んでいる国だったのである。

ただゼレンスキー大統領の突きつけた要求の持つ意味はとてつもなく重い。日本がこれに答える意思と能力を持っているのかを知っているのは、おそらく政治家ではなく我々一人ひとりの国民なのだろうと思う。私たちは長い時間をかけてこの答えを見つけ出して行かなければならない。

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