ロシアのウクライナ侵攻の後で複数の世論調査が発表された。なぜか中国が台湾か尖閣諸島に侵攻してくると考える人が増えている。さらに核共有を議論すべきだという人も増えているのだという。
まず共同通信の世論調査である。中国の脅威を懸念しているという人が75%いるようだ。この「懸念」というのがなかなか曲者である。具体的な想定をしている人もいるだろうし、なんとなく不安だという人もいるだろう。
だがこの世論調査を見て「とはいえ具体的に軍事費を二倍にするとか核兵器を持たなければならないという議論には結びつかないだろう」と考えた。インパクトと流されやすい国民性を楽観視していたのだ。
ところがANNの世論調査を見て驚いた。「約半分の人が核共有の議論をすべきだ」という結果なのだそうだ。つまり「日本も核兵器を持つべきだ」といっていることになるのだがおそらく意味がわかっていない人が大勢いるのではないかと思う。
やはりロシアの侵攻を見て中国も攻めてくると漠然と考えている人が多く「持てるものなら核兵器も持たせてもらいたい」と考えている人がいることになる。保険は大きい方がいいというわけである。
様々な考察ポイントがあるのだが、おそらく細かい議論はあまり注目されないだろう。
第一に中国が領土的野心を持っていることは明らかである。だが同時に武力侵攻が国際的に避難されることはわかっているのでじわじわと既成事実を積み重ねるというようなことしかやっていない。
第二に実際に中国を追い詰めて武力侵攻という事態になれば国際社会がそれを制止できないことは明らかである。つまりいたずらに不安を煽り立てて事態を進行させるようなことはやらないほうがいい。
そもそも、核共有の議論が具体的に進行することもあり得ない。まず先の集団的自衛の議論の中では「終わった話」扱いされている。自衛隊の単独行動はおそらく米軍に許容されないだろう。自民党の自民党安保調査会も「タブー視せずに今回素直に学んだが『違うよね』というのが今の結論」といっている。おそらくは安倍元総理がとりあえず言い出したことだが議論する形だけを作ればなんとか収まると甘く見たのだろう。
だが中には「安倍元総理のような総理まで経験した立派な政治家が言い出したということはお願いすればなんとかなるということなのではないか」と理解し「なんとなく不安だから核兵器くらい持って置いてもいいのではないか」という理解が漠然と国民の間位に広がりかけていることになる。これは非常に危険な状態だ。
安倍元総理がなぜ核兵器共有の議論をし始めたのかはよくわからない。周りが乗り気でないことに気がつくと主張をトーンダウンさせているからである。
おそらくこのニュースを見たのではないかと思うものがある。同じ敗戦国のドイツでは核共有を前提としてF35を購入することを決めた。すでに旧型の核兵器搭載機は持っていたのだがこれを更新する予定にしている。ドイツがアメリカに核兵器共有を認められているわけだから日本も上手いこと言えばなんとかなるのではないかと考えたとしても不思議ではない。とにかくその程度のノリで議論が始まりそれがノリで広がり、「なんとなく違うよね」という漠然とした議論で否定されるというのが今の日本の安全保障議論が置かれた環境である。
このなんとなく議論こそが危険なのではないかと色々なところで主張してみたのだが、全くそれが通用しない。テレビやSNSで情報が氾濫し漠然とした不安が広がる中で全く具体性のない議論が繰り広げられているのだが「慎重に議論したほうがいい」と主張すると「平和ボケだ」と言われてしまい逆に思考停止だと罵られてしまうのである。