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鳥越俊太郎氏の独特のウクライナ戦争観はなぜまちがっているのか

鳥越俊太郎さんがゼレンスキー大統領の国会演説を反対しているそうだ。おそらく何か勘違いしていると思うのだが割とこういう人がたくさんいる。

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鳥越俊太郎さんが演説に反対しているのはゼレンスキー大統領が戦争当事者だからという理由からだそうだ。台湾を引き合いに出して「台湾と中国が戦争をしている時に台湾の総統に演説させるのか」と言っている。

これはかなり大きなポイントだ。つまり、自衛と戦争は本質的に区別ができないということである。ここから議論を延長すると鳥越さんは自衛であって武力を使わず甘んじて侵略者の言うことを聞けと言っていることになる。

確かにこの紛争を「戦争だ」とみなすならばゼレンスキー大統領は戦争当事者ということになる。戦争は二国かそれ以上の国の争いなのだから、それに参加していない国がどちらかに加担すべきではない。それはその通りだろう。

だがこれを「自衛」とみなすこともできる。ロシアが一方的にウクライナを責めているのであればこれは自衛であり戦争ではない。するとゼレンスキー大統領は被害者ということになる。

だが、考えてみればこれは解釈の問題であり外形的な区別はできない。つまり法理論で戦争と自衛を区別することはできても国民認識や第三者認識を支配することはできないということになる。こうなってしまうと憲法第9条護憲論は崩壊する。「自衛も放棄しろ」と言う運動が受け入れられるはずはないからである。

つまり鳥越俊太郎さんが開けた穴はかなり大きい。

例えば中国が日本を一方的に攻めても国民の中に「岸田総理大臣が日本人を人質にして政権維持を企てている」と指摘する人がでてくるということだ。この場合の日本の選択肢は一方的に攻撃してきた中国に対して降伏しろというポジションになる。明示的に日本の防衛を定義した日米同盟があるのでそのうちアメリカが助けに来てくれるかもしれないが、ウクライナのように援軍が来ない場合もありうる。アメリカの議会動向によっては判断が割れる場合も出てくるだろう。

そうはいってもこれは概念的な問題に過ぎない。実際にウクライナがどう言う状態にあったのかを見てみよう。

実際にはこの戦争はプーチン大統領が一方的に軍事侵攻を宣言したところから始まる。2月24日のことで最初の目的はドンバス(東部)の住民保護だった。だが、しばらくするとなぜかクリミア半島側からも侵攻が始まりキエフへの侵攻作戦も始まると言った具合に戦線が拡大して言った。ポイントとなるのはこれがプーチン大統領にとっては「住民保護名目」であって宣戦布告なき攻撃だということである。宣戦布告がないので自衛も成り立たないという状態になっている。

これが成り立つ国は二つある。日本の場合同盟関係がない中国とロシアである。どちらも核兵器保有国で国会の常任理事国だ。アメリカには防衛義務があるといえ国連安保理は何もできず、おそらくアメリカ議会でもかなり議論が紛糾するだろう。

ではゼレンスキー大統領はどのような心理状態にあったのだろうか。ゼレンスキー大統領はアメリカ合衆国などから「プーチ大統領が軍事侵攻を起こそうとしている」と指摘されていた。当時ゼレンスキー大統領は「西側は状況をエスカレートさせようとしている」として西側各国を批判していた。つまり戦争は困るという立場だった。

だが、実際にプーチン大統領の軍事行動が始まると、徹底抗戦を決めた。戒厳令と総動員令が発動されて兵隊に行ける男性は出国ができなくなった。このためかなり多くの人が「ゼレンスキー大統領は戦う気満々で、国民を立てこもって自分の政権維持を企てている」と思い込んでいる。徹底抗戦後にウクライナ情勢に注目する人が増えたからだろう。

鳥越俊太郎さんの発言に戻る。

台湾の総統が中国を刺激した結果として中国が攻めてきたなら、台湾の総統を国会に呼ぶのはやめたほうがいい。だがそうでないなら武力による一方的な現状変更に反対している被害者である。

また、日本はロシアとの間で一方的な現状変更問題(北方領土)を抱えているのだが、鳥越さんの主張に従うなら「現状変更を認めろ」ということになり「北方領土を諦めろ」と言っていることになる。

いずれにせよ日本の護憲運動は感情論と庶民感覚に支配されているうちに理論的な支柱を失ってしまったようだ。おそらく老化したのだろうがそろそろ解体されなければならないと思う。平和主義は「面倒なことには関わりたくない」というのとは違う。また「軍隊に頼らないのは危険である」という不安を払拭するためにはある程度一貫した理念と戦略的行動が必要である。

おそらく今の護憲論はこの動乱期を乗り切れないだろう。

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