最近ネットではウクライナが責められたのは自己責任だという論が飛び交っている。様々な理由でそういう主張になっているのだと思うのだがもう少し勉強してから書けばいいのにと思うことも多い。
ネットにあるウクライナ自己責任論は「ウクライナに落ち度があったからロシアに併合されても仕方ない」という結論のために「客観的」と称する証拠を集めてきている。だが所詮は他人事だと考えているからなのか情報収集が雑である。
ゼレンスキーはネオナチを指揮しているから全てはゼレンスキーのせい
これはいくつかの点で明確に間違っている。第一にネオナチの由来に対する認識が間違っている。ウクライナにはエネルギーが有り余っているならず者たちがいる。こうした人たちが多く集まるのがサッカースタジアムだ。スラブ社会の一部ではフーリガン文化が定着していてスタジアムが荒れているようだ。
ユーロマイダンで警察などに対抗するために市民たちとフーリガンが結びついた。これがウクライナの抵抗運動にネオナチが入り込んだ経緯なのだろう。
だが、これはチョコレート王ポロシェンコ大統領時代に始まったことである。彼らのうちの少数がやがて東部アゾフ海沿岸に流れて海外からのならず者をあつめ「アゾフ連隊」を形成することになる。だから、ウクライナ政府が全てネオナチと結びついているわけでもない。
ロシアはソ連時代にナチスドイツを打ち負かした経験がある。このためヨーロッパの介入をナチスのせいだということにしがちだ。プーチンが現在のトウルチノフ・ポロシェンコ・ゼレンスキー政権をナチスとしたせいでこのネオナチ勢力とウクライナ政府全体がごっちゃになり「ゼレンスキー=ナチス」という日本のネットの風評につながることになった。
ちなみにゼレンスキー大統領はユダヤ系でありネオナチとは最も遠いところにいる人物である。
この戦争はロシアとウクライナの戦争である
この論評も間違っている。
ロシアは背景にNATOとアメリカの影響を感じている。ウクライナの民主化運動の背景にはNATOやアメリカの侵略主義があると考えているのである。
今回ウクライナ政治について概観して見て最初にアメリカがウクライナに近づいたのはおそらくユシチェンコ政権の頃なのだろうと感じた。
ユシチェンコ政権は内部統制をうまく働かせることができず一期で瓦解したため、その影響が長期化することはなかったが長期化すればなんらかの腐敗につながっていたはずである。実際にティモシェンコ首相は汚職で捕まっている。のちの釈放されて大統領選挙に再出馬したことから「汚職=政界引退」とならないのがウクライナだ。
アメリカの影響はオープンソサエティ財団を通じて行使されている。表向きは自由で開かれた社会を支援するということになっている。この趣旨自体は立派なことなのだが、明らかにロシアの影響力排除を狙ったものになっておりその真意は不明である。ソロス氏はクリミア侵攻後の2015年にもウクライナへの追加支援を呼びかけている。個人の正義感によるものかもしれないがなんらかの政治的意図がないとはいいきれない。
こういう文章を読むと今度は「アメリカ陰謀論」を唱えたくなるのだが、おそらくはロシアの影響化で投資の安定化が図れないと考えているのだろう。実際に今回のウクライナ侵攻によって彼らの投資計画も大ダメージを受けているはずだ。
次にポロシェンコ大統領時代にもバイデン親子による継続的な働きかけがあったことが知られている。これがトランプ大統領の攻撃材料として使われたためにアメリカ政治の文脈でこれについて指摘すると「お前はトランプ支持者なのか?」と言われかねない状態になっているが、これも利権の最大化と投資環境の安定のためにアメリカの政治が動いたことの表れだろう。
バイデン親子が単に支持者のために動いていたのか利権の私物化を意図していたのかはわからないが、おそらくバイデン大統領(議員時代から関与しており副大統領としても自ら望んでウクライナを「担当」したかったようだ)はこの件がロシアをここまで刺激するとは思っていなかったのではないかと思う。NATOへの接近を促したりロシアの侵攻に対抗するジャベリンという対戦車兵器を供与したりしているそうだ。
だが、ロシアが戦争を準備していることを察知すると一転して「派兵しない」として逃げ出してしまった。もし仮に彼が積極的にウクライナ支援を提案していれば共和党から「バイデンはウクライナに野望があり大統領権限を私的に利用しようとしている」と批判されていたかもしれない。
利権そのものが悪という短絡的な見方はできないもののアメリカの関与はほぼ確定的でありこれを排除してウクライナ情勢を語ることはできない。
陰謀論を書くにしろもっと勉強すればいいのに
ということで陰謀論を書くにしろもっと勉強すればいいのにと思う。単に逆張りがしたいだけなのでいくつか文章を読んで論を組み立てている。で全く深みにかける。もう少し資料を読み込んで読み応えのある陰謀論を書いて欲しいものだと思う。陰謀論にもなんらかの洞察は必要だ。
このことは例えば台湾情勢を見る上でも極めて重要である。アメリカは利権確保と内政のために他国の情勢をエスカレートさせることがあるのだが、その後の責任を全く取ろうとしない。関係当事国に責任を押し付けて逃げてしまうからである。
ウクライナ情勢が緊迫する前は中国を囲い込むために盛んに日本・オーストラリア・インドを焚きつけていた。さらに台湾に近づき台湾を利用しようとした。おそらくこれがバイデン流の政治なのだろう。
台湾(中華民国)はほぼ孤立無援の状態で中華人民共和国と対峙してきた歴史がある。そのためアメリカや日本に対する接近は戦略的であり極めて慎重だ。また中華人民共和国も今の所は集団による監視体制がある程度は機能していて習近平国家主席が勝手に軍事侵攻ができるような状態ではない。ただ、ウクライナよりも台湾情勢の方がアメリカにとっては重要だという見方がある。つまり中国をいたずらに刺激すると本当に戦争になる可能性もある。
だが、日本はロシアへのウクライナ侵攻を見てもまだ世界情勢が完全に転換してしまったという事実を受けとめられていないようだ。このまま安易な陰謀論・逆張り論に耽溺しているようでは「気がついたらとんでもない状況に巻き込まれていた」ということも起こり得る。特に台湾は危険である。「そうなってしまってからでは遅い」ということを肝に銘じるべきである。
ロシアのプーチン大統領がそうであったように、相手はもしかすると我々が想像するよりも怒っているかもしれない。