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憲法第9条擁護派の時代がついに終わった

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ロシアのプーチン大統領が狂気に満ちたウクライナ攻撃を始めた。サイバー攻撃を仕掛けウクライナのインフラを麻痺させた上で軍事侵攻をする可能性があるとされていたが数時間のうちに現実のものとなった。ウクライナの問題には色々な論点があると思うのだが今回は憲法第9条の根幹が完全に崩れたという点について考える。

ロシアは常任理事国の一つである。国連の安全保障のスキームが完全に崩れたことで憲法第9条擁護派の根拠だった国連中心主義が完全に崩壊したことがわかる。泣こうが叫ぼうが護憲派は完全にその根拠を失ったのだ。

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元々の原因は西側先進国にある。西側先進国は自分たちと価値観が違う国を許容できない。戦前の日本はこれに挑戦して原子力爆弾を落とされた。戦後は価値観が違う国として一つ格下に置かれながらもその価値観を賞賛することで国際社会に一つの地位を得た。

そもそも国連(連合国)という枠組みができたのはヨーロッパの内紛に世界大戦という格を与えるためだった。イギリス・フランスがドイツを東西から挟み撃ちにするためにソ連の参加が必要だったのである。この時にドイツの同盟国である日本に対抗するために引っ張り込まれたのが中国だ。こうして便宜的に作られた枠組みが今回いよいよ崩壊したことになる。

崩壊を象徴する出来事があった。安全保障理事会の最中にロシアの軍事攻撃の第一報が入った。外交官たちは慌ただしく情報収集を始めグテーレス事務総長のメンツは完全に潰されることとなった。最後には泣きながらプーチン大統領に軍事作戦の中止を訴えたそうだ。

プーチン大統領は漠然とした将来の不安とこれまでロシアを対等な大国として扱ってくれなかった西洋への恨みや怒りがごっちゃになりかなり極端な精神状態に追い詰められているように思える。経済危機と安全保障機器が混同され「偉大なロシア民族」という誇大妄想につながっているようだ。破綻寸前だったドイツが偉大なアーリア民族という幻想に支配されてゆくのと構図はよく似ている。つまりプーチンはヒトラーになりつつあると言えるだろう。ヒトラーのいる国連安全保障理事会がその機能を取り戻すことは残念ながらないのだと覚悟を決めなければならない。

そもそもロシアは我々とは違った世界観を持っている。我々は国連は主権国家の連合体だと考えており、安全保障理事会に支配されているとは思っていない。だがおそらくロシアの見方は違うだろうと思う。彼らは安全保障を「民主主義」の上に置いている。プーチン大統領の国内の諸改革を見るとそれがよくわかる。

プーチン大統領は単なる大統領の諮問機関に過ぎない「安全保障会議」を民主主義の上におこうと試みているようにも思える。これは属人的な機関である。つまり中華人民共和国は共産党専制だがロシアはプーチン独裁体制だということになる。権威主義として似た体制だがこの点が決定的に違う。

このスキームはソ連崩壊後に作られたそうだ。日本語ではあまり情報がないが大統領の諮問機関であり大統領が自由にメンバーを任命できる。つまり本来的には大統領の私的機関である。だが今回のウクライナ侵攻の決定過程を見ているとロシア議会は大統領を追認してるだけであり重要なことは安全保障会議が(実際にはプーチン大統領が)決めている。

2020年1月には最側近の一人とされるメドベージェフ元大統領が首相を解任され安全保障会議の副議長になった。後任になったミハイル・ミシュスチン前連邦税務局長官は連邦税務局のIT化で成果を挙げたものの無名の官僚(テクノクラート)だった。本人が新しい首相になることを知ったのはメドベージェフ前首相が解任された後だったそうだ。プーチン大統領にとって議会と政府にはその程度の役割しかない。

この時は「プーチン大統領の権力基盤を固める準備をした」と言われたわけだが今にして思えば連邦政府が税を取り立てて戦争を支えるための財政基盤強化のためだけの存在にだと考えられてしまっていたのかもしれないと思える。

ロシアは明らかに安全保障会議を民主主義的な会議の上に置いていると言うことがわかるのだが、考えてみればこれは国連も同じである。国連には多くの主権国家が加入しているがそれは戦勝国によって支配されていると言う構図になっている、少なくともロシアはそう理解しているのではないだろうか。

ただ安全保障理事会が全てを支配し加盟国がそれに従うという国連を我々は容認できない。

皮肉なことにこれまで安全保障理事会を機能不全に陥らせてきたのはアメリカ合衆国だった。具体的にはベトナムとシリアで介入拒否を行なっている。特にシリアでは現行政府の保護を訴えているのはロシアだった。シリアにはロシアの基地があるのである。今回のウクライナの情勢はこの意趣返しとも言える。

いずれにせよ領土的野心を持った常任理事国の一角を占めているわけだから「国連中心主義」は成り立たない。よってそれを背景にしてきた憲法第9条擁護論も再考を余儀なくされるということになる。戦争抑止のスキームとしての国連や安全保障理事会はもはやその機能を取り戻すことはないだろう。

護憲派の人たちは「憲法第9条で戦争が防げるならウクライナにウォッカを持って乗り込め」という挑発に対応することはできるのだろうが、おそらくこの本質的で不可逆的な変化には対応ができないのではないかと思われる。それほど重大なことが起きている。

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