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部分最適の国日本と政治の共依存

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新型コロナに対する政府の経済対策について見ている。そんな中Twitterで読後感想をいただいた。旅行業界への補助について「二階幹事長の利益誘導ではなく業界団体の要望だ」と言っている。

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地方や観光業にとってはかなり切実な問題だろう。これを「二階幹事長の利益誘導だ」と片付けられて面白くないことはわかる。

業界が非難にさらされるのはこれがはじめてではない

実はこの指摘をもらって思い出したことがある。2009年の千葉市では建設業者が同じようなことを言っていたのだ。多くは真面目に働いている人たちなのだが、民主党の「コンクリートから人へ」でバッシングされて非国民のような扱いをされていたのである。だが当時は鶴岡前市長が逮捕されたこともあり千葉市では特に大きな建設業批判があった。さらに駅前の土地区画整理事業の問題も出てきてこの後大騒ぎになる。

つまり政治依存はやがて大きく膨らみ国民の非難を浴びることになる。日本は政治だけでなく全てが集団でなんとなく動く。おそらく「黒幕」というのはその構図をわかりやすく切り取っているだけで実態はないのかもしれない。だがそれでもやはり問題の縮図にはなっている。

買いだめと予算獲得合戦はよく似ている

では今回はどんな動きになっているのか。岸田政調会長はおそらく世界情勢を見ながら「経済的に大きな不調が来るだろうな」と予想しているのだろう。即効性のある現金給付を主張している。だがリーダーシップを取るつもりはないようだ。安倍政権に関与して汚れたくないという気持ちが見え隠れする。

現金給付の給付対象となる範囲については「規模やスピード感など様々な観点から、範囲等についても考えなければならない」と明確な言及を避けたが、「最後は国民に発表する首相が決断されるものである。

思い切った対策必要、来週月曜にも取りまとめ=岸田自民政調会長

そこに各種業界団体が駆け込んでくる。Quoraでは「最初は大きなことを言っているが予算編成の川を渡る間にピラニアに骨と皮だけにされる」というコメントがついた。まさにそんな感じなのだろう。だが外から見ればピラニアでもやはり当事者たちには切実な思いがある。おそらくTwitterでついた感想はその切実さを伝えるものなのだろう。

文章の中でJATAとANTAという言葉が出てきた。旅行業界は会社の規模によって許認可制度がクラス分けされていてそれによって二つの業界団体があるようだ。ので検索したところこんな記事が出てきた。JATAは「規模が大きい方の」業界団体だそうである。

日本旅行業協会(JATA)は3月26日に定例記者会見を開催し、理事・事務局長の越智良典氏は、政府が23日に開催した「新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング」に参加した際の、JATAの要望などについて説明した。

旅行会社の存続に「支援制度のフル活用」が必要-JATA会見

この記事からは旅行業界が置かれている状態が垣間見える。

ヒアリングに先立ち17日と18日に与党に提出した5項目の要望(関連記事)については、足元の経営継続支援のために「東日本大震災発生時と同レベル」を要望していた雇用調整助成金助成率の引き上げを、それを上回る「リーマンショックと同様レベル」に変更して求めたことを伝えた。

行会社の存続に「支援制度のフル活用」が必要-JATA会見

日本は賃金が上がっておらず高齢化も進んでいる。国民はレジャーどころではなくなりおそらく旅行は構造的に苦しい状況にあったはずだ。東日本大震災の時に補助が入って一息ついたがこうしたファンダメンタル(基礎的な)問題が解決したわけではない。おそらくこうした補助はカンフル剤としては作用したのだろうが、

カンフル剤の投与が終わればまた危うくなる。さらに「自分たちが要望しなければよその団体が持って行くかもしれない」という危機感があるのかもしれない。

台風19号に備えてパンがなくなったスーパー

今回のコロナ禍ではよく買いだめの話が出てくる。情報不足からみんなが慌て出すと結果的にモノが足りなくなるという状態なのかもしれない。おそらく予算編成にも買いだめと似た心理が働いているのだろう。お肉だお魚だ観光だと予算を獲得する方も必死なのだ。そしてそれは結果的な飢餓感と強い自民党への依存を生む。

政策では食べてゆけない・大切なのは得票

自民党の外に出たこともある二階幹事長はイデオロギー的な政治にも自民党にもたいしたこだわりはない。小沢一郎さんのように旧世代新勢力である。だが彼はリアリストとして政治依存が票を生むことは知っている。政策には興味がないので政府が作る対応策はかなりちぐはぐなものにある。具体的に見て行こう。

政府は観光業への抜本的な対策のために「インバウンド政策」を打ち出した。

1)中国をはじめとするアジア諸国に対するビザの緩和、2)多くの国の通貨に対して円安傾向になった、3)格安航空(LCC)や民泊普及などによる旅費の低下

日本の「観光政策」が犯している初歩的なミス

日本は「政府がお膳立てして地方は単にそれに従う」というやり方をとる。つまり地方にはアイディアを出す力がない。そのためインバウンド政策は中国依存とゴールデンルートのオーバーツーリズムという問題を抱えている。

個人的にはこの問題のポイントは、マーケティングの世界で言うところの「TOFU」(Top of the Funnel=購買プロセスにおける初期段階)の取り組みができていないことだと思う。簡単に言えば、情報はすべてオンラインにすでにそろっているが、何もキュレーションされていないため、情報に関する認知度が極端に低い。旅行者が何を探すべきか、また、どこから情報収集を始めるべきかさえわからないのである。

日本の「観光政策」が犯している初歩的なミス

その原因と対策は非常に具体的である。つまり地方にはプロデュース(マーケティング開発から広報)迄ができる人がいない。地方は「今まで真面目にやってきているのからこれからも真面目にやれば人が来るという状態を作って欲しい」という意識がある。しかし政府と政治家は地方の要望を「聞いてあげてそのまま叶えてあげる」ところで終わってしまい運用には興味を持たないのである。

業界はプロデューサを送り込むべきなのだが……

おそらく業界団体がやるべきなのはスタープレイヤーを推薦して観光庁長官に据えた上で自活の道を探ることだ。だが業界団体は予算獲得にしか意識が行かず、政府も権限は渡したくない。特に政治は業界に自活をされては困る。票がもらえなくなるからである。

このため人気ルートはオーバーツーリズムに苦しみ、地方は補助がないとたちまち首が回らなくなるという状態になっている。いわば生活保護と一緒なのだがおそらく援助を受けている側が「生活保護だ」などと言われれば腹をたてるだろう。生活保護は真面目にやっていない人たちの成れの果てだが自分たちは真面目に一生懸命やっているという自己正当化のバイアスが働いてしまうからである。では補助政策中毒ではどうか。きっともっと怒り出すだろう。

政治家に期待できるかというと期待はできそうにない。

まず岸田文雄政調会長は「とにかく今はコロナ対策をすべきだ」という意見のようだが、ご存知のように話を業界保護に持って行きたい政治家と彼らの御用メディアの声にかき消されている。つまり自民党の政治家は自分たちに票をくれる人たちにどう報いるかということに一生懸命になっていて、日本が全体としてどう置かれているかということを考えてみようともしない。

西村「コロナ担当大臣」も驚くべき発言をしているそうである。こういう人に総合プロデユースを任せているということは知っておいていい。

さらに驚いたのは、新型コロナウイルスの流行が収まったという前提ではあったが、「今年6月〜7月にかけて国内観光のキャンペーンをやりたい」と言ったことだ。

命を奪うのは感染症だけではない。新型コロナ、他国に出遅れる安倍政権が抱える巨大リスク

おそらくヨーロッパの悲惨な状況を見て対岸の火事と思っている日本人は多いだろう。だが東京都の事例を見てもわかるようにそれに賭けるのは極めて危険だ。

政策に興味がないばかりか総括もしない政府

政府は明らかに足元が冷え込んでいたにもかかわらず失敗を認めてこなかった。野党に勝ちたいという意地だけが安倍総理の答弁を動かしている。

景気の拡大期に終幕の兆しが見えている。内閣府が7日発表した令和元年12月の景気動向指数は、基調判断が5カ月連続で景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に据え置かれた。

景気拡大期に終幕の兆し 動向指数5カ月連続「悪化」

新型コロナがきたことをこれ幸いと記述を書き換えてしまった。今の政府には自分たちがやったことを検証しそこから学ぼうという姿勢はない。とにかく、明日の選挙に勝てればそれでいいのである。そしてそのためにはいろいろな業界が政治に依存してくれた方がいい。

政府は26日、3月の月例経済報告を発表し、国内の景気判断を「足元で大幅に下押しされており、厳しい状況にある」と下方修正した。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済情勢が急速に悪化しており、2013年7月以来続いてきた「回復」との表現を6年9カ月ぶりに削除した。戦後最長とみられる景気拡大がすでに終わり、景気後退局面入りしていることがほぼ確実な情勢になった。

政府、景気判断を下方修正 6年9カ月ぶり「回復」消える 戦後最長の景気拡大終了か 月例経済報告

最後に責任をかぶるのは政府でない

せっかくコメントをいただいたので共感的なことを書きたいのだが、調べてみても肯定する材料が出せない。日本の政権運営というのはリーダーシップを失っている。そもそも方向性を出したりビジョンを示せない総理大臣をいただいているところで失敗しているのだが、追い込まれた業界は国に頼らないとやって行けないというところまできている。それが結果的にビジョンのない政治を支えてしまっているのである。

残念ながら政治的な共依存の体質が出来上がっているのではないかと思う。

この先コロナ禍が続き例えば飼料用のトウモロコシなどが値上がりしたとする。すると肉の値段が上がる。庶民が必要な食料品を買えなくなった時きっと「お肉券」の話を思い出すはずだ。この時非難されるのは政治家ではない。おそらく各種業界団体はかなり苛烈ないわれのない非難にさらされることになるだろう。

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