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新型コロナ対策に「和牛商品券はいかがっすか」とはしゃぐ人たち・怒る人たち

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連日新型コロナの話しか書いていない気がする。今日は和牛商品券のことを書く。ただでさえ新型コロナ関連の情報の真偽を追うのに忙しいのに倒錯した経済対策の議論に付き合わなければならないのでとても疲れる。

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今読んでいる人は何のことかわかると思うが、後になって読み返す人はわからなくなるのではないか。

もともと、新聞のリークで「政府が現金対策を考えている」という話が出てきた。最初は1万2千円だという話になり、10万円だという話が出てきた。その時点でなんとなく「現金がもらえるんだろう」という期待が膨らんだ。

参議院予算委員会では給付が決まるまでは融資でつないでくれという話が出てきた。ここで「給付は確定路線になっただろう」と考えた人もいただろう。

だがそのあとで自民党から物言いが入ったらしく現金給付はなくなったという話になる。麻生太郎財務大臣が出てきて記者たちに「現金は貯金に回るだろう」と上から目線で説教をした。さらに「コロナが終わったらホテルや外食に補填する」とか「高速道路を無料にする」などという話が出始め、和牛に回すという話も出てきて期待が裏切られたことになり炎上したわけである。

実はこの話は財務省(麻生)などと自民党(岸田)の間の駆け引きになっている。商品券が既定路線と言われているのはおそらくは財務省側の宣伝なのだが、岸田文雄政調会長は未だ「今は現金だ」と主張しているようだ。産経新聞は少なくともそう書いている。産経新聞の記事によると二階幹事長も商品券で利権誘導を図りたいようである。そこで和牛の話が出てきて、今度はお魚もという話になった。だがお魚への補助はWTOのルールで禁止されているそうである。議論は混乱している。

さらにG20で大規模な財政出動の話が出てきたので「うちの先生はいくら持ってきてくれるんだろうか」という話になっているのだろう。予算の分捕り合戦が始まった。

日本人が空気で物事をなんとなく決めて行く様子がよくわかる。そこでそれぞれが勝手に背景情報を足して議論に参加するので収拾がつかなくなってしまうのだ。とりあえず自分は声を上げたといいた人が多いのか「整理して議論をまとめよう」という人が誰もいない。おそらく安倍政権の問題というよりは日本の病なのだろう。

だが、気持ちを落ち着けて「目的」を整理するといくつもの目的がごっちゃに語られていことがわかる。

  • 経済封鎖に従わせるための補償としてのお金
  • 生産トラックからの脱落を防ぐためのお金
  • 経済を活性化するためのお金
  • 票の買収のためのお金

経済封鎖の補償

第一の目的は経済封鎖の補償だ。ロンドンやニューヨークなどではロックダウンという経済封鎖が起きていてその補償が求められている。実は日本政府も従来の貸付を返済免除にすることで実質的な社会給付にするというアイディアは出ている。56兆円規模なのだそうだ。ただ、この話は和牛騒ぎに埋もれてしまい全く注目されていない。さらに貸付に頼る方法は「見かけの財源を大きく見せる」効果があるのだと指摘する人もいる。だから一体いくらが給付されるのかよくわからない。

この制度はピンポイントで必要な家庭にお金を届けられるというメリットがあるのだが、問題点もある。経済封鎖されて外出できないのに申請に出かけなければならない。また審査が入るので書類が必要だ。さらに審査するために人的リソースが必要だ。おそらく現在の社会福祉協議会の人員では事務処理崩壊が起こるだろう。

さらに、今後の感染拡大がどの程度広がるかがわからないので(日本政府は基礎調査をしていない)必要なお金がいくらになるのかがわからないというデメリットがある。

生産トラックからの脱落を防ぐ

経済封鎖への補償はなぜ重要なのだろうか。それはそこに第二の目的があるからだ。現在ギリギリで働いている人から仕事が奪われると「もういいや」という気持ちになってしまうことがある。再出発は何倍も大変である。一年先でも二年先でも出口がわかっているのであればその間の生活保障をすることで生産トラックからの脱落を防ぐことができる。特にフリーランスの多い都会ではおそらくは重要な政策である。

問題になるのは「自粛要請」という曖昧模糊とした根拠で経済圧迫が進んでいるという点だ。政治が問題を作り出しているのだが、見通しが暗くなった経営者たちは不必要な人員を削減することになるだろう。ところが雇用環境は昨日今日悪化したわけではない。今までギリギリで踏みとどまった人たちの「需要を掘り起こしかねない」という問題があるのだ。「非正規雇用」という病が蔓延している社会では、コロナきっかけで経済参加を諦めてしまうという人が出かねない。

経済活性化のための現金支出

今回「国民に現金を配れ」と言っている人たちは、経済が活性化されるだろうという主張している。ところが、現実的にはどこにも出られないのだから経済が活性化されるはずはない。全員にお金をばらまいてしまうと却って経済困窮者を追い詰めかねない。

一方で消費の冷え込みが経営を圧迫しかねないということはあるわけで、経済活性化のための現金給付というアイディアをまるまる棄却してしまうというのも考えものである。賃金アップなどの政策と組み合わせなければならないのだが、今は困窮対策とごっちゃに語られていて分離されていないという問題がある。岸田政調会長が言っている「商品券は反転攻勢のときにすべき話だ。時間もコストもかかる。よく分かっていない議員が商品券と言っている。現金給付が有力な方法だ」というのはもっともな話なのである。

だが現在の自民党ではこうしたまともな思考がなかなか受け付けてもらえない。トップリーダーが不在で二階幹事長のような利益誘導派が大きな発言力を持っている。

票の買収

ホテルクーポン・和牛商品券・お魚券と話が出てくるところから想像すると、自民党の政治家たちはおそらくまだ新型コロナウイルスが大変な問題だとは感じていないのだろう。

実際に街で話を聞いてみると「テレビでは色々怖いことを言っているが毎日散歩をしていれば防げるんじゃないのか?」などという高齢者や「マスクは机に置いてあるけど」としてマスクをしていなかった市役所職員などもいる。東京は非常事態宣言一歩手前だがおそらくは自粛勧告に従わない人が大勢いるはずである。

東京都では感染者が増え続けており「おそらくどこかで感染爆発(オーバーシュート)」は起こるだろうなあということが予測される。地域ごとに感じ方がバラバラになるはずで、都市で困窮対策が迫られる一方で地方は「利権獲得」を主張し続けるかもしれない。

誰も議論をまとめない国

このように目的を分けて考えると若干整理もできるのだが、こうした様々なことをまとめようという人が誰も出てこない。このため議論が流れてしまい誰が何を主張しているのかがわからなくなってしまうのである。安倍首相はこういう時に議論をまとめたりしない。単なるお神輿に過ぎないので力なくこの「議論」を眺めているだけなのだろう。

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Comments

“新型コロナ対策に「和牛商品券はいかがっすか」とはしゃぐ人たち・怒る人たち” への2件のフィードバック

  1. H.Machidaのアバター
    H.Machida

    Quoraの方でもお世話になっております。
    問題の切り分けがされていない、というのはやはり感じる人が多いんでしょうね。和牛商品券を「ポピュリズムの最たるもの」と切って捨てた自民党議員がいるという記事がありました。
    短期には「感染防止」「生活保障」が大事で、中期では「産業振興」「生活再建」、長期では「景気対策」となるはずなのですが、利権議員たちは全部セットで語っていて、マクロ政策を全く理解していないのが丸わかりです。ここをよく理解しているのが岸田氏、現金給付の難点を理解しているのが麻生氏、なぜか商品券を入れたがる公明党(現金一律給付を言い出したようですが)、そして利権しか頭になくマクロ的な視点が全くない二階氏という立ち位置ですね。
    岸田氏と公明党がまとまればそちらに政策が流れる感はあります。ただ麻生氏の懸念ももっともで、貯蓄に回ったら何にもならないんですよね。ネット世論をやたら気にしているらしい官邸ですから、特定商品券の配布はしないでしょう。
    現金給付か、納税猶予か(野口悠紀雄氏の主張)、Twitterで見かけた意見ですが公共料金の三か月免除(私は妙案だと思います)か、はたまた全品目商品券か、このどれかの組み合わせになるのでしょうね。

    1. hidezumiのアバター
      hidezumi

      この話、ブログ読者さん(観光業の方)からTwitterでコメントが入り続きを書くことになってしまいました。二階さんが取りまとめているわけではなく業界団体がお願いしているという内容です。かなり切実さが伝わってくるTweetでした。

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