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日本で新型コロナウイルスが蔓延しないという謎

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世界各地で新型コロナウイルスが猛威を振るっている。アメリカではニューヨークが封鎖された。ヨーロッパではイタリアから広がりフランス・スペイン・ドイツと上がって行き最終的にイギリスも封鎖されることになった。その新型コロナウイルスが日本ではそれほど蔓延していない。政府の対応はバタバタなのになぜかそれほど蔓延していないのである。この謎について考える。

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気候に起因する衛生概念の違い

考えてみれば日本の習慣には不思議なものが多い。

  • 除菌製品がよく売れる。テレビコマーシャルでは菌をCGで表示して除菌製品を売っている。アメリカであのようなテレビコマーシャルを見たことはない。
  • 何かあればすぐにマスクをする。
  • ま位置に欠かさず風呂に入る。
  • 電車やバスの中で誰も話さない。
  • ハグやキスなど体の接触を伴う挨拶が一切存在しない。

日本にいるととこうした習慣を特別に思わないが、よく考えてみれば除菌対策と接触感染予防ばかりである。おそらく日本列島というのは感染症を防ぐようなことをしないと生きて行けない土地だったんだろうなと思う。ただ、我々の意識に深く浸透して当たり前の生活習慣になっている。だからそれがどう有効なのかを証明することはできない。

例えば韓国の料理番組サムシセッキ(三試三食)という番組ではまな板を床に置くシーンがある。床に座って調理をするのだ。日本人がこれを見ると「汚い」と思うかもしれないが、韓国の人はそうは思わないようである。現代では韓国にも立派な台所がありシンクで調理をするのだが、おそらく昔はそうではなかったのだろう。

さらに台湾について考えると中国人は明が滅びる頃まで台湾本島に進出できなかった。鄭成功が漢人として初めての政権を樹立したそうだが、実はこの人は日本で生まれである。もともとはオーストロネシア系の原住民と呼ばれる人たちが優位だった土地で倭寇の基地にもなっていたそうだ。一時オランダ人に占領され清代になって初めて漢人が進出した。漢人には難しい土地だったのである。

違いは気候にある。

実は、日本列島・華南地方・台湾などは「温暖湿潤気候」に属している。おそらく日本や台湾の人たちは公衆衛生知識があまりない時代から生き延びるための知恵を持っていたのかもしれないし、疫病に強い習俗を持っていない人たちは生き延びることができなかったのかもしれない。中国華北や朝鮮半島などはそういう地域ではない。

社会の中の孤独

ただし気候だけでは全てを説明することはできそうにない。そもそも今回の発信地は武漢だと考えられているわけだし、イタリアでは若者と高齢者が同居していて若者が病気を広めたのではないかとされているそうだ。

同時に、イタリアの若者は高齢者と多く交流する傾向がある。ダウドのイタリア人共著者は、若い人たちは両親や祖父母と一緒に田舎で暮らし、ミラノのような都市で働くために通勤している可能性があると指摘する。イタリアの世帯構成に関するデータも、この家族のスタイルを裏付けている。

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よく、日本もイタリアも高齢化が進んでいるのになぜか状況が違っている。実は日本では高齢者は孤立しているといえる。若い人たちは早いうちに家を出て都会で自分たちだけで暮らしている。高齢者はある時期に郊外に家を買ってそこに引きこもる。皮肉なことだがこの「孤立」が病気の拡大を防いでいる可能性がある。

「わたしたちがはっきりさせたい論点のひとつは、必ずしも高齢者の隔離だけが重要というわけではない、ということです。高齢者が最も弱いことは認識しています。曲線を平坦化するには、奨励されている全国民による社会距離戦略も重要なのです」と、ダウドは説明する

タリアが新型コロナウイルスの“激震地”になった「2つの理由」と、見えてきた教訓

イタリアでは「社会距離戦略」などと訳されているが、実は日本は社会の孤立を通じて「知らず知らずのうちに社会距離戦略」が取られていたといえるのかもしれない。

当初新型コロナウイルスの拡大があった韓国も実は社会的な密度が濃い。日本は集団主義などと言われるが、実は周囲から干渉されるのが嫌いで食事時は一人になりたいという人も多いだろう。だが、韓国ではかつては一人飯は文化的タブーだったそうだ。パンモゴッソ?という挨拶もある。ご飯食べた?という意味だ。

韓国での『孤独のグルメ』人気は、ここ数年で現れた「ひとりごはん(ホンパブ)」の流れからきているのだろう、などと勝手に思っていた。「ひとりごはん(ホンパブ)」とわざわざネーミングするほど、かつての韓国ではひとりで食事をすることはどこかタブーに近かった。

「ひとりごはん」がタブーの韓国で「孤独のグルメ」が大人気の理由

何のエビデンスもないのだが、日本ではおそらく二つの状況が感染拡大を防いでいるものと思われる。

  • もともと感染症対策の文化がある
  • 社会的孤立が進んでいる

こうした偶然が重なっておそらく感染症に強い文化になっているとは思うのだが、この偶然がいつまでも続くとは思えない。いずれにせよ「テストのやりすぎで医療機関が破綻した」とか「政府の初期対応がよかった・悪かった」などと表面的に判断して合理化するべきではないと思う。

この文章を書いた時点では「日本は公衆衛生概念が浸透しているので新型コロナは大したことにならないだろう」と思い込みたかったのだが、テレビでは東京でオーバーシュートが始まっている可能性を指摘し始めた。

小池東京都知事はキャスターとしては優れているかもしれないが実務にあまりリーダーシップを発揮しないようだ。外出の自粛要請はしたようだが、総理大臣の休校措置停止宣言で気が緩んだ東京都民はこれを無視するだろう。残念なことだが、いよいよ日本も年封鎖の可能性が出てきたように思える。国民の公衆衛生知識依存ではやはり流行を遅らせることはできても止めることはできないのかもしれない。

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