イタリアで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広がっている。現在1名の人から拡大したことがわかっているそうだが、あっという間に広がっており死者数が昨日時点で600名を超えてしまい、今日見たら827名になっていた。日本でも危機が叫ばれているのだが比べ物にならない数の人が亡くなっている。
現在は助ける患者と助けない患者を選別するというトリアージのフェイズに入っているようで一種のパニック状態にある。この新型コロナウイルスがなぜイタリアから広がったのかということがよくわからない。そんななか、中国との関連が強かったからだろうと指摘する記事やワイドショーを見かけるようになった。
そもそもイタリアには中国人が多くいた。いろいろな話が飛び交っているのだが、トスカーナ州のプラートは19万人の人口のうち4万人ほどが中国人だという記事があった。2012年の記事である。イタリア北部にはこうした中国人コミュニティができていたようだ。
もともと繊維産業が盛んだったイタリアは労働力を持つ中国に仕事を奪われた。そのうちに中国人は「自分たちで中国産の材料を持ち込みイタリアで作って輸入すればメイドインイタリアになる」ということに気がついた。さらに雇用規制のあるイタリア人を雇うより法律で保護されない中国人を使ったほうが都合がよかった。こうして中国人が増えてゆきプラートのような「丸ごと中国」という町ができてしまったのである。2016年には中国系ギャングの話も見つけた。不法移民がギャング化するほど増えている。こうした不法移民は中国との行き来がありおそらくは正規の医療保険も持っていないだろう。
ところがこれはほんのドミノの最初のコマに過ぎなかった。ドミノ本体は財政緊縮に伴う医療制度の脆弱さだ。この辺りは実は日本にとって「明日は我が身」なのである。
外務省の情報によるとイタリアには皆保険制度と自由診療があるそうだ。皆保険制度は待たされることが多いと書いてある。加えて、最近ではかなり厳しい予算制約があったようだ。
危機の背景にあるのは、財政健全化に向けて行われた医療費削減政策だ。仏紙レゼコーによると、イタリアでは過去5年間に約760の医療機関が閉鎖。医師5万6000人、看護師5万人が不足している。政府は引退した医療関係者の復帰や軍事施設の活用など、対応を急いでいる。
欧州、医療現場パンクの危機 新型コロナ感染拡大、各国試行錯誤
油断も重なった。水際対策への過度の期待である。イタリア政府は武漢からの感染者二人を隔離し水際対策に自信を見せていた。死者数が100人程度だった時には「患者〇号」の関係者が大半を占めると書いてある記事があった。この時点ではまだ封じ込めのマインドセットが残っていて、患者をテントに集めて選別するということが行われていたようである。
この患者〇号の「マッティア氏」の感染が確認されてから一週間で感染者の数が888人に広がったそうだ。すべてマッティア氏から広がったとは考えにくいのだが、どうしてこれほど多く広がったのかということを分析した記事はない。朝日新聞の記事は患者〇号が発見される以前から肺炎が増えていたと言っている。おそらくは医療体制がカバーしきれない患者がいたのだろう。
医療格差について書いたものもある。イタリアは2015年の移民危機の後で一人当たりの医療費が減っているそうだ。病人がいなくなったとは考えにくいのでおそらくは医者にかかれない人が増えていたのだろう。そもそも医者にかかれず満足な検査や治療が行われない人がいたことも想像できる。ここから新型コロナウイルスが広がったとすれば、おそらくイタリアで今起きていることは、元々崩れかけていた医療制度を崩壊させるきっかけがコロナウイルスだったというだけのことなのだ。
このことからわかることはいくつかある。
日本ではPCR検査が行われていないことに対しての不満があるようだ。イタリアで検査ができているのに日本は検査をしていないから政府が何か隠蔽しているのだろうという人がいる。だが、日本の高齢者施設はイタリアのような状態になっていない。つまり「日本政府は隠蔽はしていない」ということがいえる。検査数は隠蔽できても死者数は隠蔽できないからである。検査を優先したことについても疑念が出ている。
感染者が急増した理由に挙がるのが医療現場の混乱だ。イタリアは、これまでに新型コロナの検査を5万4千件以上してきた。感染者を確定させる狙いだったが、軽症の患者も徹底的に検査したため、病床が満杯に。医師や看護師の不足に拍車がかかり、感染が一気に広がった可能性がある。
イタリア、医療現場混乱で感染急増か 全土で移動制限
ただ、これについては検査したから大変とは言えないのではないかと指摘する人もいて「よくわからない」としか言えない。
イタリアの状況は大変ですが「検査をしたから大変」だとは必ずしも考えていません。やはり患者数が多くなりすぎたのが最大の問題。検査をしすぎるのもよくないですが、患者の増加に気づかないままでも駄目。
— 岩田健太郎 Kentaro Iwata (@georgebest1969) March 11, 2020
いずれにせよ「政府の初動の良し悪し」は実は瑣末な問題なのかもしれない。普段からの行動がイタリアと日本の差になっている。そして、日本を医療崩壊から守っているのは国のリーダーではない。一人ひとりの頑張りである。
- 日本人の公衆衛生習慣は(時には過剰と思えるほど)よく発達していて感染を防いだ。
- 医療体制が充実しており今のところは対応ができている。
- 専門家や地方の首長が真面目で優秀で時には政府に逆らってでも行動し最悪の事態を防いだ。
- 厚生労働省の湖北縛りに異を唱えた和歌山県知事
- 政府の突発的な指示に「社会崩壊が起きかねない」と異議を唱えた千葉市長
- ダイヤモンド・プリンセス号の体制に異を唱えた医者
- 「感染研」の同調圧力にさらされながらも村政府の対応に異議を唱え続けた感染学者
日本人はもともと感染症にはとても敏感であり高齢者を中心に普段から病院に行き慣れている。おそらくユニバーサルヘルスケアの確保という意味ではまだうまくいっていてイタリアのような崩壊は起こしていない。全国民の医療へのアクセスを保障することがいかに大切なのかということがわかる。
今後イタリアの新型コロナウイルスは南下が懸念されているようだ。南部は北部よりも医療環境が悪いそうだ。またスペインにも医療体制の脆弱化が起こっているところがあるという。今後さらに被害が拡大するかもしれない。