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「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」でウイルスとの総力戦に突入しそうな日本

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前回から安倍総理大臣の突然の休校自粛要請について見ている。構造としては無能なトップが無茶な作戦を計画しそのために末端が振り回されるという話である。その結果リソースのロジスティックス(配給)が間に合わなくなり「自分たちで調達しろ」という話になる。原因もおそらくは単純なものだ。科学ベースのマネジメント思想に欠けているのである。ある意味戦後教育の失敗の集大成といえるだろう。

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安倍首相が会見を行っても不安はなくならなかった。千葉市長は例によって「具体的な計画が立てられない」と悲鳴をあげている。安倍首相が力強くプロンプターを読み上げる指導者ごっこは演劇としては成立した。これはこれで重要なことである。おそらく感染しないか感染しても軽微で終わる人も多いはずで、彼らの不安を軽減するのは大切だからだ。だが具体策を検討する人たちは単に戸惑うばかりである。千葉市長のような真面目な行政担当者は演技者ではなく支援者を求めている。

ではなぜ安倍首相は演技はできても具体的な支援はできないのか。最初の原因は安倍首相のメンタリティにある。「過去の失敗から何を学ぶのか」という質問をきょとんとした表情で聞き、用意された原稿を読んでいた。安倍首相は過去から学ぶということができない人なのだろう。

チャーター機、クルーズ船などこれまで対応が続いてきた。しかし、国内では感染拡大の状況が見られる。これまでとは違うフェーズ(段階)の状況と言える。対応は依然続くと思うが、ここに至るまでの政府の対応として、反省すべき点についてどのような考えか。政治は結果とよく言われるが、結果責任についての考えは。

「対策、ちゅうちょなく講じてきた」首相の記者会見全文

だがこれ以外にも原因はありそうだ。岡田晴恵教授がテレビで面白いことを言い出した。テレビに出てくる専門家たちは「民間でも検査はできる」と言っていて「検査体制も整っている」と言っている。これに対してカウンター側は「法律の縛りがあり検体の扱いが難しいために民間に委託できないのだ」と主張した。だが、岡田さんは「感染研がデータを独り占めしようとしている」と主張して一部で話題になった。

なぜ感染研はデータを独占しようとするのかという話になるのだがこれもまことしやかにな噂が流れている。感染研はリストラに合っているというのである。タブロイド紙のいうことなので信頼できなさそうだが政府の報告書が残っている。このニュースはこの報告書をほぼ引き写したものである。そして岡田晴恵さんも元は感染研の研究者だ。関係者は政府に対して複雑な感情を持っているのだ。

人員や経費が削減される中、研究所の業務や研究の範囲は拡大し続けており、個々の職員の努力に依存した運営には限界がきている

国立感染症研究所機関評価報告書

「きちんと疫学調査をするべきだ」という人たちと「組織を守りたい」という人の間には緊張関係があるのかもしれない。リストラのために成果を必要とする人たちが自分たちの権益を守りたいと考えてもそれはそれで不思議ではない。またそれを外に出た人が体制を批判するのもある意味当然と言える。

ちなみに今回の専門家会議の脇田隆字座長も国立感染研研究所の所長さんだった。一生懸命「飲み会を自粛しろ」と言っていたのは尾身茂副座長という方でWHOの事務局長候補だった方だそうだ。彼らが権益を守ろうとしているという疑い(あるいは濡れ衣)を払拭できない。関係者が「大人の事情」を配慮しながら情報発信しているのだろうと誰もが思うからだ。

彼らが「危機感を抱えたまま既得権益を守ろうとしている」と考えると、今回の措置の意味が違って聞こえてくる。感染研は既得権益は守りたいがキャパが足りない。すると検査ができない。であれば「検査を制限しろ」という話になってしまうのである。

まさかと思うのだが、日刊ゲンダイは「北海道でも検査が制限され始めた」というようなニュースを流し始めた。さらに医療関係者たちも検査体制に対しての不満を口にする。業界の人しか読まないようなm3.comに「感染症部会「感染研が検査会社に墜ちている」との指摘も」という記事を見つけた。委員からはかなりの圧力がかかっているようだが議論が専門的なので政治家が介入するのは難しいのだろう。「文民統制」が効かなくなっているのである。

このウイルスとの戦いは全容が見えないのだが、その原因の一部はおそらくは人災である。ただその具体的な犯行動機がまったく見えない。

見えない敵との戦いを強いられた日本医師会は安倍首相に直接要望をぶつけた。この中に「医師の判断によるPCR検査を確実に実施する体制の強化」も含まれている。感染研所長が仕切る専門委員会や厚生労働省を飛び越して政治圧力をかけて検査体制を変えようとしているのだろう。要望書を持って安倍首相と会談したようである。

安倍首相は「もう誰を信頼していいかわからない」はずだ。

いつもは「面倒なことはすべて現場に任せている」のだがその現場は明らかに信頼できない。医師会は自民党の強力な支援団体なのでこちらも無視するわけにはいかない。さらに予算成立のプレッシャーもかかる。

野党は表向きは「新型コロナウイルス対策に協力するから予算を組み直せ」と言っているのだがこれが信頼できない。これまで与野党の信頼関係を壊してきたのは安倍首相だ。だから予備費の103億円を割り当てただけで新型コロナウイルス対策費用は盛り込まなかった。今回の会見ではしぶしぶ2700億円とした。だから機動的に予算の裏打ちのある対策を宣言できない。麻生財務大臣もこの辺りはわかっているはずで「つまらないこと」と切り捨てた上でごまかすしかない。千葉市長が戸惑うのは総額や具体策がまったく降りてこないのに支持率維持のためのパフォーマンスばかりが先行するからだろう。やがてその戸惑いは怒りに変わるはずである。

お金がなければ窓口さえ作れないし具体的な検査体制も充実させられない。これらを実施するのは国ではなく地方自治体なのである。おそらく組み替えはできないからこのままでは来年度に収束しなければ弾切れ起こすだろう。ただ、ウイルスの規模がわからず、結果論でしか数字が上がってこないのだから論理的に考えてエビデンスベースでの予算編成などできるはずはない。

私が決断した以上、私の責任において様々な課題に万全の対応を取る決意であります。2700億円を超える今年度(予算の)予備費を活用し、第2弾となる緊急対応策を今後10日程度のうちに速やかに取りまとめます。

「対策、ちゅうちょなく講じてきた」首相の記者会見全文

予算の具体的な裏打ちが無いのだから「国民に頑張れ」というしかない。原因はおそらく「科学的知見に基づかない」ことと「過去の教訓から反省しない」ことである。日本は戦後アメリカから科学ベースの品質管理方法を学び成長した。しかしそれがサービス産業に広がることはなく、政治に至っては「総理の力強い勘」に頼らざるをえない惨憺たる状態になっている。責任を取ると言っているが総理には責任が取れない。なぜならばどの程度の規模の戦いをしているか彼は知らないし知るつもりもないからだ。

こんな状況では、国民は何ら支援を得られる確証もなく、自力で頑張るしかない。だから同調圧力をかけて「足らぬ足らぬは工夫が足らぬだ」というしかなくなっているのである。

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