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水道事業について調べる – 大阪府と千葉県の比較

水道の民営化に関する漠然とした議論を見たので、ついでに地域の水道がどうなっているのか調べてみることにした。政権批判は出てこないので、そういう類のものを期待している人は今回お休みをしてもらって構わない。一方で、この問題には地域差があり大阪の人はさらにひどい目にあうことになるだろう。すでに維新の会が府政を混乱させているようだが、選挙に是が非でも勝ちたい公明党が出てくることでそれ以上に混乱するのではないかと思う。逆に「命の水」を外国に奪われなくて済む自治体もありそうだ。意外な視点なのだが、水道民営化の議論は地域によって状況が異なるのにすべて国政が決めているという弊害が出たケースとも言える。これに成果が上がらない反安倍の人たちが乗っかって騒いでいるという事例なのかもしれない。

政令指定都市としての千葉市の人口は100万人に少し足りない程度だが千葉市の水道局の給水範囲は30%程度しかない。もともと郊外にある土気町を合併した時に土気町の水道を引き継いだのが始まりである。さらに若葉区に未給水地域が残っておりそこにも水道を引く必要があり業務が一部拡大された。

その他の地域は千葉県の水道局が担当している。もともとは千葉市から東京よりの水道を整備する目的で作られ、のちに北総地区の事業と統合された。飲料水と工業用水の事業を手掛けている。千葉市は利根川水系の一部にあたる花見川沿いにある柏井から水を供給しており、足りない場合は房総半島にある養老川から持ってきているようである。養老川はかなり遠い地域なので途中の誉田(ほんだ)に中継点があるようだ。東葛地域は江戸川経由で給水でき、北総は利根川から水が取れる。

千葉県の水道事業に関して赤字問題を聞いたことがなかったので調べてみたところ冒頭にこのように書かれていた。

千葉県水道局では、地方公営企業として、上水道事業及び工業用水道事業を運営しています。

上水道事業は、安全でおいしい水の安定供給を継続していくため、経営基盤の強化に努めており、平成28年度決算の純利益は、約112億円となりました。

また、平成28年度から県水道局が事業を担っていくことになった、工業用水道事業の決算の純利益は、約14億円となりました。

現在、両事業とも計画的な事業の運営を行い、安定経営を行っているところですが、今後、老朽化した施設や管路の更新・整備が増加していくことから、中長期的な視点に立って、一定の内部留保資金を確保しながら、引き続き健全経営の確保に努めてまいります。

つまり黒字な上に設備投資のための準備もしているようだ。もともと広域化されていたという背景があるのかもしれない。もちろん採算が取れなさそうなところに給水していないという問題もある。千葉市の水道収支を見ると収入と支出が全く一緒の額になっている。

一方、大阪はどうなっているのだろうか。高槻市は高槻市水道局が全域を管理しているようだ。しかし浄水場が一ヶ所しかなく、茨木市も同じところを使っているようである。そこで調べてみたところ千葉県とは全く状況が違っていた。大阪広域水道企業団という団体が取水を管理しており水を市町村に「卸して」いるらしい。この事業の事業内容について見てみたが「水道普及率」については書いてあるが、収益については冒頭に言及がない。

広域化について書かれたセクションの次に次のような控えめな文言を見つけた。

平成 28 年度決算は 27 年度と比べ、料金収入の減等により事業収益は減少しました。 一方、事業費用も減価償却費等の減等により減少したことから、74 億9千万円の単年度黒字と なりました。 なお、平成 28 年度末の累積損益は 61 億円の赤字となっていますが、中期経営計画(2015- 2019)期間中に累積損益の赤字を解消する見込みです。

設備投資を終えて負担が減ったために減価償却費がなくなり単年度黒字になったと言っている。がそれでも過去の累損が残っている。減価償却費はキャッシュの流出を伴わないので過去の帳簿上の処理であることから事業年度ベースで見ると黒字化が進んでいるということがわかる。

だが、ここからは各市水道局の損益はわからない。また設備の更新のための内部留保もない状態なのだから設備更新が難しいだろうことは予測できる。人口が現象に転じると水需要は落ち込むために古い浄水設備の更新ができないままで問題が先送りされる可能性もある。

千葉県はほぼ一体的に水事業が統合されているために広域経営が可能なのだが、大阪の場合「浄水施設を新しくします」と広域側が主張しても、使用側が「そんな金は出せない」と言い出すかもしれない。自分たちの市域の水道管を先に整備したい上に、水道料金の値上げは住民の反発を招きかねないからである。つまり民主的な話し合いによって解決することも難しければ、経営合理性によって経営を刷新することもできない。ある意味で国政の縮図のような状態になっているのである。

前回見た「水道広域化」の問題の意味がわかってくる。政府は「都道府県が主体となって広域化を進めなさい」と言っているのだが、実際にはうまく広域化ができている地域とそうでない地域の格差をなくしたいのだろう。だが実際の大阪をみていると協力は一向に進まず、府民も政治に関心がないために、テレビで見た有名な政治家が「一発逆転」してくれるのを夢見ることになってしまう。

問題は過去の累損の解消であるということもわかる。仮に給水事業の営業だけを私企業に売り渡してしまうと、累損はそのまま地域に残り「不良債権化」することも考えられる。これを水道料金に転嫁すると政治問題ではなくなるのだが、地域住民はこれまでの損を水道料金として清算せざるをえなくなる。ある意味「飛ばし」に近い考え方である。

話を複雑にしているのが地域ビジネスに参入してノウハウを貯めたい人たちと「岩盤規制」を取り除くことで新しい利権を作りたいと考える国政の政治家たちの存在だろう。広域水道は利権にならないが、企業が入れば行政指導などを通して利権構造が作られる。しかしよく考えてみると利権を確保し続けるためにはそれなりの「上納金」を政治家に支払うことになるわけで、それも水道料金に上乗せされることになる。

このことを念頭に日本政策投資銀行が書いたレポートを読むと、こうした細々とした地域構造を残しつつ大企業に委託すれば「結果として広域化が実現する」というような書かれ方をしていることがわかる。つまり、政治調整の失敗を棚上げして民間に丸投げしようとしているのだ。

ただ、このやり方がうまく行くとは思えない。なぜならば収益が上がっており広域化も住んでいる地域がリスクを冒してこうしたコンセッションに参加するとは思えないからだ。一方過疎地を抱える自治体や広域化が失敗したところは私企業に経営を丸投げしようとするだろう。鉄道に例えると新幹線を持っているJR東日本や不動産で成功しているJR九州は参加せずに、JR四国とJR北海道だけが参加した鉄道会社のようなものである。

赤字と赤字を積み重ねても黒字にはならない。今回の政策は総論としては正しいが実際には成功の見込みが薄いと言える。そして、その被害を受けるのは大阪のように効率化が進んでいない自治体や地方の過疎地域の住民だろうことが容易に予想される。

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