元ルームメイト氏のFacebookに「銃はもううんざりじゃないか」というような書き込みがあった。元ルームメイト氏は西海岸生まれで移民3世にあたるので、アメリカではリベラルとされるバックグラウンドを持っている。だが、これに対して「銃が悪いわけではなく、使う人間がいけないのだ」という書き込みがあった。
この「使う人がいけない」論はテンプレート化されたもののようで、トランプ大統領も同じ論法を使っていた。マスコミが「テキサスで銃乱射事件が起きたのだから、銃規制してはどうか」と指摘したのに対して、それ「メンタルヘルス政策を充実させなければならない」と答えにならない答えで応じていた。
日本人はこの議論に馴染みがないので、これだけを聞いてもよくわからないのだが、銃規制反対派は「銃に問題があるわけではなく」「使う人にいい人と悪い人がいるのだ」という理屈で銃規制に反対している。銃規制反対派はこれをメンタルヘルスの問題にしたいのである。
トランプ大統領が実際に守りたいのは銃器産業の利権なのだが、これだけではトランプ大統領を支持している人たちに経済的な恩恵があるわけではない。支持者たちが求めているのは「いい格好をしている自称リベラルに知的に勝る」ということなので、彼らが満足できる程度の理論を与えることで支持者たちを満足させている。銃規制ではこれが「メンタルヘルス論」である。
もともと欧米は王政が広く採用されていた。強い軍事力が一人に統率されていた方が好ましかったからだろう。しかしながら、次第に私的な戦争が行われるようになり重税が課せられるようになった。これが反発されてできたのが現在の民主制である。つまり話し合いで税金の使い方を決めようというわけだ。だから話し合いは民主主義の基礎を成しているのである。
銃のメーカーは既得権益の確保のために銃規制に反対している。その副作用は蔓延する大規模殺人だ。いわば内戦状態と言える。本来なら、議論と相互信頼によって規制されるべき問題だが、議論が無効化されているので、国民は不安になりますます銃を買うというわけである。儲けたいメーカーといい格好をしたい人たちがwin-winの関係を築けるが、その結果として正常な市民生活が営めなくなるのである。
我々は外からこの議論を見ているので「ああ、アメリカ人は馬鹿だな」と思う。普通のアメリカ人には、安心してショッピングモールに行くことも、日曜日に教会に行くこともできない。コンサート会場さえ上から狙われる可能性があるし、マラソン大会も安全ではない。
しかし不安を作れば儲けが得られるという経験から導き出された図式は国際的にも適用されるようになった。北朝鮮が核兵器開発にこだわるのは、過去にアメリカから恫喝されており不安だからである。アメリカに滅ぼされかけた北朝鮮は在韓米軍の存在が怖くて仕方がない。その裏には中国やロシアが軍事的には頼れないという事情がある。韓国は在韓米軍の存在なしには成り立たないが、北朝鮮にはそれにあたる外国の支援すらない。
しかしながら、アメリカは北朝鮮の不安を解消するために尽力したりはしない。代わりに北朝鮮をさらに恫喝して武器を捨てるように迫っている。自分たちの力を誇示するために在日米軍の存在をアピールし、在韓米軍でも同じことをやった。しかも彼らはこれを地域の安定化のためにおこなっているわけでもない。日本には武器を売りつけて「アメリカの雇用が守られる」と自慢したわけだ。国内の支持者たちは満足だろうがこれが日本や韓国で反発されるなどということは考えなかったのだろう。
トランプ大統領は地域の安定化には興味がない。関心があるのは選挙に勝つことで、そのためには兵器産業に需要を与えて「国内の雇用を作る」ことである。これはアメリカにとっては合理的で「賢い」判断なのだが、合理的な判断である以上、余計なコストはかけないということなのだろう。米軍を稼働させ兵士を死なせるとアメリカが余計な支払いをすることになるので、武器を売りつけたら「あとは勝手にやってくれ」ということになるだろう。
これまでもアメリカは同じようなことをやっている。ベトナムのいざこざの解決は軍需産業の縮小を意味するので別の地域で紛争を起こして需要を引き続き換気しようとした。
このためもあったのだろう。アメリカはロシア(当時はソ連)とイギリスの間にあった緊張関係に間接的に介入した。もともとトルキスタン世界とインド・ペルシャ世界の間には緊張関係があり、アフガニスタンがインド・イラン世界の北辺に当たっている。トルキスタンがソ連に組み込まれ、イギリスがインド利権を握ったのでこれがロシア・イギリス世界の境界線になった。
アメリカはこの紛争に武器を売りつけて間接的に介入した。現地の人たちを「武器の消費者」にしてしまったわけだ。武器の消費者になった人たちはこれを中東世界からアフリカの中央部に拡散させた。オサマ・ビン・ラディンもここで戦争消費者になった人だった。これがいわゆるアメリカの「テロリスト」の源流になっている。
こうした一連の緊張を作り出しているのがアメリカであることは間違いがない。ところがアメリカは半ば意図的にこれを行っているので反省する様子はない。さらに自分たちは自由の擁護者であるという肥大した自己意識があるので、他の国に出かけて行ってこれを押し売りしようとする。
トラブルの原因を作り出しているにもかかわらず自覚がないという意味でとても迷惑な国なのである。
そんなトランプ大統領は反省する様子も見せず、中国に出かけて行って「中国は不公正で至上主義を理解していない。貿易を是正してアメリカ製品をもっと買うように」と説教し「北朝鮮をなんとかしろ」というつもりだという。自国だけでやってくれればいいのだが「アメリカは紳士的でおとなしい国だからまだ話し合いができるが、鉄砲玉の日本は何をするかわからないぞ」というつもりだという。
アメリカの民主主義は明らかに破綻しているが、日本はこれを笑うことはできない。理由は二つある。第一に日本でも同じような議論の破壊が起きている。日本の場合には人権と平和主義が破壊されている。さらに日本は軍事的にアメリカに依存しているのでアメリカに異議を唱えることはできない。
実はマスコミにいるような人たちはこうした事情がわかっている。わかってはいるがそれを認めてしまうことは価値観の破壊につながるので、どうにかしてつじつまを合わせているに過ぎない。すると彼らが言えることは「安倍首相とトランプ大統領が仲良くゴルフをした」ということや「イバンカさんがきれいだった」ということだけになってしまうのである。