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不安でたまらない日本人

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トランプ大統領が来日した。この一連の流れを見ていて日本人は不安でたまらないのだなと思った。と同時に、不安だからといってそれを打開するために何かをするということもないということが理解できた。

まずは日曜討論では、司会者がパトリック・ハーランさんに「アメリカ人はどれくらい今回の訪日を注目しているのか」とおそるおそる聞いていた。ハーバードを卒業して日本のことがわかっているハーランさんは「注目しているのは中国との会談だ」などと空気を壊す発言をしないで、当たり障りのない話をしていた。これが何かの専門家であれば、その筋にそった話をしただろうが、ハーラン氏は日本のバラエティで「空気を壊さないこと」の大切さがわかっていたのだろう。視聴者はこれを見て「ああ、よかった」と思えるのだろう。

韓国人や中国人に居丈高な日本人だが、アメリカの白人にはとても卑屈な態度をとる。どこか「背の高い白人には逆らえない」というような気分があるのかもしれない。

さらに、NHKは飛行機が横田についた時から時間を取って到着を中継していたことである。間が持たないことが予想されていたからなのか、これまでトランプ大統領がどれらけ日本を大切に思っているのかというようなビデオを準備していた。これも見捨てられ不安の裏返しである。

そうこうしているうちにトランプ大統領は米軍横田基地に到着する。卑屈に出迎えた河野外務大臣を除いて最初に挨拶したのは横田の兵士たちだった。大統領はここで「世界は陸も海も空も宇宙もすべてアメリカのもの」であり「日本の繁栄を支えているのは米軍兵士だ」などと言っていた。日本の公共放送がこういう演説を無批判で流すというのはかなりショッキングな出来事だが、NHKは淡々とこの様子を同時通訳付きで流した。

これは日本が実質的にはアメリカの支配地域にあるという認識を持っているということを意味しており、それを印象づける狙いがあるのだろう。さらに中国に対しても日本には米軍のプレゼンスがあるという印象を持たれることになるだろう。北朝鮮の封じ込めについて中国の約束を取り付けたいはずなのだが、この様子をみれば中国が警戒するのは間違いがないだろう。なぜならば北朝鮮がアメリカの要求を受け入れるということは、朝鮮半島が同じような状態になりかねないということだからである。

さらに、NHKは自分の局の番組の宣伝だけを挟んで「ニュース」と称して安倍首相がゴルフ接待のために川越でトランプ大統領を待ちわびるという姿を映していた。横田から川越の間をヘリコプターで移動するというのだが、安倍首相もそれに対向して自衛隊のヘリコプターを使ったようだった。安倍首相はこうしたお友達と同等でありたいと無理に張り合おうとする傾向がある。これからもトランプ大統領に張り合っていろいろなことをやりたがるだろうが、日本国憲法がその障壁になるだろう。しかし、安倍首相が無理を重ねれば重ねるほど、国内の反発は強まるはずである。

この一連の流れを見て、日本人はかなり正確に自国がおかれている状況を理解しているのだろうなと思った。つまり、日本は没落しかけている国であって、アメリカ人の関心も薄れている。地域の命運を握っているのは中国であり、アメリカと中国が直接話をするようになれば日本のプレゼンスはたちまちなくなってしまう。さらに自分たちでは国を守ることすらできず、アメリカに頼らなければならない。

だから不安でトランプ大統領にしがみつこうとしている。それを隠す様子もなく延々と午前中を使って「どうしたらトランプ大統領に気に入ってもらえるか」ということを流しているという具合だ。

面白いと思うのは、日本人が北朝鮮に対して一切戦略的な思考を持たないという点である。普通であれば情勢を分析してどのような行動をとるべきなのかということを考えるのが戦略だと思うのだが、日本人は「強いアメリカに守ってもらえれば絶対的に安心だ」と考え、そのためには「何をしたらアメリカに気に入ってもらえるのだろう」と思うのである。ここでも日本人特有の「関係性」の方が「対象物」よりも重要だというルールが見られる。日本人にとっての戦略というのは「誰につくか」ということであって「何をする」ということではないといいことになる。

このブログでは都市部の有権者の動向から「自信がある人は政策を見るので自民党から離れるが」「自信のない人は自民党にしがみつくのではないか」という仮説を立てた。同じようなことが日米同盟にも言えるのだろうなと思う。日本の先行きが不安になると日米同盟にしがみついてしまうのだろう。

これは言い換えると、自信がある人は、政策などに着目して戦略的な思考をするが、自身がない人は「誰について行けば安心なのか」ということを考えてそれにしがみつくということになるだろう。このしがみつき行動はパニックの一種であると考えられる。視野が狭くなってしまうのだ。視野が狭くなるというのはもちろんたとえであって、実際には思考のバイアスが強まるという現象が起こる。都合が悪い情報はすべて排除されてしまうのである。

例えばTwitterではトランプ大統領について不安な情報がいくつも流れている。来日前には「日本はウォーリアーの国だから何をしでかすか分からないと中国に言うつもりだ」と得意げに記者団に語っていた。どうやら憲法第9条については理解していないようだ。

さらに、ハワイでは多分意味が分からないままで「リメンバーパールハーバー」と叫んでいた。意味がわかっていて発言したのかもしれないのだが、どちらかというと歴史には興味がないということを意味している。歴史に興味がない大統領が何をしでかすかはわからないので、これは大きな不安材料になる。

別のところでは、憲法第九条を理解しないままで「なぜ北朝鮮のミサイルを日本が撃ち落とさないのか分からない」といぶかしがったという情報も流れてきた。まず憲法第9条については理解しておらず、さらに日本の遥か上空をミサイルが通過したということも理解されていないのだろう。もちろん宇宙まで届くミサイルを日本に配備することも可能だろうが、それは中国あたりに到達する武器を日本が手にするという意味合いになってしまう。

これが直接アメリカの意思決定に悪影響を与えるかはわからない。しかし、意思決定に大きな影響を当たることは間違いがない。しかしながら、不安にかられて視野狭窄に陥っている人にはもうそのような「些細な」ことは目に入らない。

第二次世界大戦の前の日本人もこうした不安にさらされており、最終的には間違った判断をした。同じようなことがまた起こる前兆になっているのかもしれない。トランプ大統領を見ているとアメリカの民主主義は大きな危機に直面しているようで、ヨーロッパは距離を取り始めている。だから、日本はまた間違った側で戦うことになるのかもしれない。

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