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第48回衆議院議員選挙雑感

台風の中で祝儀委員議員選挙が終わった。以下、雑感を記す。

まずは地元の結果から見て行きたい。一番意外だったのは、実は自民党が得票数を増やしているということだ。千葉1区は東京に通勤する人が多い都市型の地区なのだが民進党から希望の党に移った田島候補は若干票を減らした。しかし門山候補は票を伸ばしている。一方で近郊の千葉9区は秋本候補は票を伸ばし、希望の党に移り「リベラルを排除」した奥野候補も票を伸ばしている。また、共産党の候補も実は票を少しづつ伸ばした。

田島候補にとっては風当たりが強かったようで、選挙戦の最終盤に「小池さんではなく私たちを信頼してほしい」というメールが来ていた。実際には連合が支えている候補者なのだが、内部でも若干離反者が出たのだろう。

リベラルとはどんな人たちなのか

ここからいわゆる「リベラル」という人たちがどんな人たちなのかがなんとなく見えてくる。つまり都市型で経済に余裕がある人ほどリベラルを許容しやすいのではないかということである。

朝日新聞の速報では野党系は青で表示されるのだが、小選挙区で青が目立つ地域には、沖縄県、大阪府、愛知県、神奈川県、愛知県がある。このうち沖縄県では基地問題に対して自民党に強い反発があり、大阪府では日本維新の会が一定の票数を持っている。

残るのは愛知県と神奈川県である。愛知県はトヨタ自動車を中心として経済がうまく回っている。また神奈川県で立憲民主及び希望の党が勝った地域は横浜市の郊外に鎌倉・逗子・葉山を含んだ地域と、川崎市の一部だ。つまり、経済的に余裕のある地域は「自民党は嫌だ」と言うだけの自由があるのだが、そうでない地域は経済が安定しなくなると自民党にしがみついてしまうということがわかる。こうした人たちは「リベラルであること」は「自分に振り向けられるお金」が「他人に行ってしまうのだ」と考えるのではないかと仮説できる。このリベラル感は、民主党地域と共和党地域に分かれているアメリカと合致する。

自民党が離反される理由・支持される理由

しかしながら、自民党が離反される理由はそれだけではない。将来への不安が自民党からの距離を生むことがある。

日本で唯一例外的に無所属が強かった地域が新潟県だ。柏崎市・刈羽村のある地域を含めて、ほぼ全て非自民の候補が勝っている。唯一自民党で小選挙区で勝ったのは前県知事の泉田さんなのだが、この人ももともと原発には慎重な姿勢を示している。福島県も2選挙区で無所属当選者がいるのだが、実際に事故が起きた地域では自民党が勝っている。つまり、いったん事故が起きてしまうと「しがみつき」が生まれることがわかる。自民党には再分配の党というイメージがあるからなのかもしれないし、漠然と「安定している」というイメージがあるのかもしれない。

中間政党の没落

選挙の結果「自民党と公明党が2/3を確保した」ということが話題になる。つまり憲法改正が発議できるということが言いたいのだろう。確かに数の上ではそうなのだが、必ずしも憲法改正の議論にはつながらないかもしれない。

公明党は南関東ブロックで票を減らしている。もともと固定票が応援しているということを考えると創価学会員が相当数公明党から離反しているということになるだろう。この人たちは今後の四年間で自民党の憲法改正議論に「お付き合い」させられることになるが、さらに票を減らすのは確実である。多分、いずれかの時点でこれ以上付き合っていられないと考えるか、中からブレーキをかけることになるのではないかと考えられる。山口那津男さんのあのなりふり構わない演説を聞いているととても仏教信者とは思えないし、平和な人とも思われない。が今にして思えばあれはかなりの危機感の裏返しだったことがわかる。

公明党は自民党と組んでキャスティングボートを握る戦略を持った政党だ。これを中間政党と名付ける。野党側の中間政党が共産党と社民党である。これらの政党は「リベラルで自民党が嫌い」という人たちの一定の受け皿になっていたと考えられるのだが、立憲民主党ができたせいで票を減らしたのかもしれない。意外なことに共産党は政党支部などがわかりにくい構造になっている。だから、地域住民との接点が少ない。多分、労働組合の専従者などが組織的に票の取りまとめをしているのではないかと思われる。ゆえに彼らが呼んでいるいわゆる「市民」などが立憲民主党に流れた可能性がある。

前回の民主党時代に比べると南関東ブロックでは立憲民主・希望の党の合計は得票数をかなり伸ばしていた。つまり旗色を明確にしたほうが得票率が伸びたわけで、リベラル系・自民党を信任したくないが保守の人たちがお互いに我慢して乗り合いバスに乗っていたということがわかる。

これらを総合すると次のような結果が出る。

  • 経済を悪くしておいたほうが自民党にとっては得である。なまじ経済が安定すると我慢してもらえなくなり自民党を離反される。しかし経済が悪く地域に自活する自信がないと自民党へのしがみつきが起こる。つまり自民党は自由主義的な政策は取れないので、財政破綻への道は加速することになるだろう。
  • 野党にとっては旗色を明確にしたほうが得票率は良い。加えて、こうした勢力が自民党支持者の1/2 を超えることは考えにくいので、多分日本で保守の二大政党制を作ることはできないだろう。この構図は55年体制とそんなに違わないからである。
  • 一方、メジャーな政党が旗色を明確にすると、理由は異なるものの、中間型の政党は離反者を増やすだろう。

投票率は53.6%(速報値)とのことだ。台風が来ていても一定数の人は選挙に行くのだなということがわかる。つまり、行かない人はどんなに働きかけがあろうと、立憲主義の危機だなどと言われようとしても頑として選挙に行かないのだが、行く人はどんな悪条件でも選挙に行くということがわかる。なぜこの人たちが選挙に行かないのかはわからないが「何をしても無駄」という人が相当数含まれているのではないかと考えられる。つまり約半数の人たちがなんらかの理由で政治に参加することを諦めてしまっているのである。


以下、今回観察した数字を下記に記す。新聞社のサイトから転記しているので間違いがあるかもしれない。引用の際は必ずオリジナルを当たって頂きたい。

千葉1区

  • 田嶋要 84755 → 81481
  • 門山宏哲 76937→ 82838
  • 田沼隆志 26322→ 長谷川豊 15014
  • 吉田直義 18182→ 大野隆 24231

千葉9区

  • 秋本真利 85092→ 92180
  • 奥野総一郎 68564→ 76332
  • 西田譲 24039→ 立候補者なし
  • 鴨志田安代 20745→ 28488

比例代表南関東ブロック

  • 自由民主党 2321609→ 2395792
  • 民主党 1203572→ 立候補者なし
  • 希望の党 N/A→ 1167182
  • 立憲民主党 N/A→ 1589775
  • 維新の党 1053221→ 日本維新の会 265190
  • 公明党 875712→ 778251
  • 次世代の党 236596→ 政党なし
  • 日本共産党 813634→ 541067
  • 生活の党 175431→ 立候補者なし
  • 社会民主党 132542→ 86398
  • 幸福実現党 24052→ 25984

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