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内部留保について勉強する

内部留保への課税は愚策だが何が愚策なのかよくわからない

希望の党が内部留保に課税するといっている。経済がわかる人からは「希望の党にはまともな経済ブレーンがいないのか」と呆れられているということなのだが、経済がわからない人から見ると何の話だかわからない。しかも、経済がわかる人たちは企業へ批判が向くことを恐れている。そこで「何かを隠しながら」内部留保に課税できないという説明をすることになる。

そこで内部留保について調べてみた。教科書として大和総研の「内部留保は何に使われているのか」を使った。が、難しすぎて何が書いてあるのかよくわからない。

そもそも企業とは何か

わからないことは単純化して考えたほうがいい。そもそも企業とは何だろうか。企業はお金を増やす機械である。企業は誰かからお金を借りて商売をする。すると売り上げがあがるので誰かに分配する。それだけである。だから企業はお金を溜め込んではいけない。

生産と売り上げはわかるのだが「お金を外に出す」というのはなかなか見えにくい。この行為を分配と呼ぶことにする。分配先にはいつかの種類がある。労働者に支払われるのが賃金であり、投資家に支払われるのが配当である。さらに設備投資をすると設備を作る会社にお金が渡る。これを投資と呼ぶ。

分配が行われないと、企業は現金を溜め込む。しかし現金が溜まっていると通常は株主が文句をいう。単にお金を貯めているのなら利益を株主に配当しなければならないからだ。そこで、配当しないで新しい事業を始めたり、工場を立てたり、株の売買などを通じて国内外の企業を買収することがある。将来の配当が約束されるので株主は納得する。ゆえに分配がないこと自体は悪とは言い切れない。

資金の調達には二種類がある

内部保留について考えたいところだが、まずはお金の調達先について知らなければならない。これはレポートにも書かれている。

企業は水を流すようにしてお金を流し続けなければならない。お金の調達先には二つある。一つは内部調達と言われる。今までの儲けを貯めておいて使うのである。もう一つは外部調達と言われる。銀行からお金を借りる。外部調達には利子がかかるのでいっけん内部調達の方がよさそうなのだが、実はそうではないようだ。

企業は出資者からお金を借りてそれを運用させてもらっているだけなので、内部調達でも出資以上のお金を返さなければならない。このため、内部調達の方が資本を借りるお金(これは資本コストなどと呼ばれる)は大きいのだそうである。これは考えてみれば当たり前だ。出資者から見ると、企業にお金を出資するのは単に貯金するよりも利率が高いからだからだ。つまり貯金より株式の配当や株価の値上がりのほうがうまみがあるからこそ、株への配当が行われるわけである。

外部調達のメリットは社会全体から見て資本が効率的に運用できる点にある。企業はいつもお金を必要としているとはいえない。ある企業がお金が必要な時に別の企業はお金が必要ではないかもしうれない。そこで金融機関が仲だちになってお金を融通することになる。しかしながら日本では金融機関があまり信頼されていない。

日本で金融機関が信頼されないのは、バブル崩壊期に容赦ない貸しはがしが起こったからだと考えられている。つまり、銀行は企業が儲かっているときは沢山貸してくれるが、本当に必要な時には助けてくれないという認識を多くの企業が持っているのである。政府もこれに一役買っている。バブル崩壊後には銀行や証券会社自体がつぶれたりしたのだが、政府は金融機関の救済を長年放置していた。そこで金融機関は自己保身に走らざるをえず、信頼を失ってしまったのである。

ここからわかるのは企業は国内の金融機関に頼って資金調達するのをやめてしまったということである。これがレポートに書かれている「外部調達が少なくなっている」の意味である。外部調達が少なくなるということは、ここでは資本が国内を還流しなくなるということを意味している。

日本企業は大切な何かを失いつつある

国内にお金が還流しなくなったもう一つの理由は企業活動そのものにある。

国内の消費は低迷するようになった。国内消費が低迷している理由については諸説あり一定しない。調達とは関係がないが状況を見て行きたい。

バブル期以降しばらくは終身雇用の人たちを切れなかった。そのためこうした人たちを非正規に置き換えてゆく動きが起こり、賃金が下降してゆく。このことは一般的に2つのものを失わせた。日本市場は恒常的に停滞するようになり、なおかつ知的資産が失われている。

だが、自民党政権も民主党政権もこれを放置し続けた。よく政治の世界では「自民党のほうが民主党政権よりマシ」とか「自民党政治を許すな」などということが言われるが、トレンドを見ると「どっちもどっち」としか言いようがない。

まず、自民党は非正規雇用を追認する政策を行い(いわゆる小泉竹中路線)、民進党は連合を支持母体にしているので、非正規雇用にはそれほど関心を持たなかった。このため国民の給与総額は落ち込んでいる。お金が流れて行かないのだから消費が低迷するのは当たり前である。10年もすると、国民はあまり消費しない生活に慣れるようになった。中古市場ができ、スマホを使って使いかけの化粧品を売るような市場までできている。

さらに、非正規化に伴い形式化されていない知識が失われ、企業はますます弱体化している。

BBCは日本企業が全体として凋落してゆく様子を痛々しく書いている。人材や設備への投資をしなくなったことで、最低限の品質すら確保できず、不正に手を染める企業が増えてきているのである。それに加えて資金の内部調達に頼ることで株主への依存が強くなったことにも原因があるのかもしれない。銀行は利子さえ返してくれれば経営には口を出さないが、株主は経営者を変える権限を持っていて、四半期ごとにパフォーマンスをあげることを要求するからである。労働者に賃金を払わないのにもっとパフォーマンスをあげろと言われれば、パフォーマンスをごまかすしかない。

この結果、国内市場が冷え込むばかりでなく、メイドインジャパンへの信頼が失われることになった。

蓄積した富が日本をすり抜けて行く

企業は国内の金融機関を儲けさせることをやめて独自で資金調達することになった。さらに国内の企業活動が低調なので海外の企業を買収してそこから利益を配当としてもらうようになっている。これは日本国内のGDPに反映されないので国内から見ると「余剰の資本が単に滞留している」ように見えてしまうのだが、実際には経済活動が国内から逃避しているということを意味するにすぎない。このことはレポートに書いてある。ただし「海外でM&Aなどの活動をしているから問題がない」となっている。

内部留保の問題というのは実は日本をスルーして儲けが勝手に海外で還流してしまうことなのだということがわかる。だが、企業が潰れても誰も助けてくれないのだから、これを一概に非難することも難しそうだ。

企業は問題を直視しようとせず政府に無茶な要求を突きつける

それでは企業は「自分たちも頑張るから助けてくれ」と懇願するだろうか。レポートの最後の部分を抜粋してみた。

この点、2015 年 11 月 26 日に開催された「第3回未来投資に向けた官民対話」では、日本経済団体連合会の榊原会長が「事業環境の国際的なイコールフッティングの確保」を求めた。具体的に必要な対応として①法人実効税率の早期引き下げ、②設備投資促進策、③規制改革の更 なる推進、④TPPの活用促進と経済連携協定(日中韓 FTA、RCEP、日 EU EPA)の早期妥結、⑤安価で安定的な電力の確保、⑥次世代技術の開発・実用化に向けた政府のイニシアティブの発揮、 ⑦研究開発促進税制の維持・拡充、⑧女性・若者・高齢者の活用促進、外国人材の積極的受入れ、⑨労働規制の更なる緩和、の9点を指摘しており、この9点が改善されることを前提とす れば、国内での設備投資は 2018 年度に 81.7 兆円になると述べている(2015 年度の設備投資を 71.6 兆円と推計し、3年間で約 10 兆円増える計算)。

まとめると「税金をもっと負けないと海外に出て行くぞ」ということと「国のカネを我々にもっと振りむけろ」といっている。それはばりか「安い人材を使えるようにしないと海外に出て行くぞ」という脅しも入っている。あまり国に貢献しようという気持ちはないようだ。

では安倍政権は「お前らいい加減にしろよ」と言ってくれれば問題は解決するかもしれない。だが、安倍政権の政策は例えば「残業代をゼロにして企業に儲けてもらおう」とか「法人税を引き下げよう」というものである。しかし、世襲が多い自民党政権は企業経営がわからないのだから、経営者のいうことを鵜呑みにするしかない。官僚にも経営の経験はない。

では、野党はこれを批判しているだろうか。こちらは経済すらわからないようで「安倍政権は気に入らない」くらいのことしか言わない。さらに維新の党は民営化すればおのずからうまく行くのだと言っている。どの党も日本企業の現状については目を向けない。ただ、それも仕方がない。共産党と社民党を除く企業は、経営者か正規労働者の組合が支持母体になっていて、企業を非難できないのだ。

いずれにせよ内部留保に課税はできない

ここで問題になるのは、内部留保に課税するというのが何を示すのかということである。もし企業の預金に課税するということになれば、実は預金そのものはそれほど増えていないのだから大した課税にはならない。では、企業の株式売買の際に課税するということも考えられるわけだが、海外の市場で調達してしまえば課税機会はない。そもそも、内部留保という費目はないので、そもそもそれに課税することはできず、たとえできたとしてもそれはそれほど大きな課税額にはならないということになる。

ここまでいろいろとややこしく書いてきたが、実は問題になっているのは企業が儲けを溜め込んでいることではないようだ。問題は企業活動が国内をスルーするようになっているということなのではないだろうか。つまり日本の大企業は国内に本社を置いているだけで、多くの活動を海外で行っている。だから日本に課税する必要もないし、工場を作る必要もない。さらに日本人の労働者に賃金を支払う必要はないということである。こうした地盤沈下が均等に起きているので、特定の企業だけが潰れるということもない。時々、偽装が起こり大騒ぎになるだけである。こうした企業はやがて中国企業に買われてゆく。

こうした問題が起こるのは、日本の政治家が世襲に頼っていて政治以外のことがわからないからだろう。企業は直接政治にアクセスできないので身勝手な要求を突きつけるだけになり、政治家は経営がわからないのでその恫喝を鵜呑みにするしかない。そして、やることがなくなった企業は「北朝鮮が攻めてくるから大変だ」などと言ったり「憲法を変えることが日本政治のプライオリティなのだ」と騒ぎ立てるのである。

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