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極右とは何か – オーストリアからの視点

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オーストリアで反移民的な政策を掲げる政党から31歳の新しい首相が出そうだというニュースが流れてきた。ただしこの国民党は「中道保守」と記述される。第二党になったのが極右と記述されるオーストリア自由党である。ヨーロッパではどの程度で極右と呼ばれるのだろうかと気になって調べてみた。

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オーストリアは人口が870万人程度の連邦制の共和国である。第二次世界大戦はドイツと一体化して戦い、反戦の後には分割統治されたのち永世中立国として再独立した。永世中立とはこの場合、東側陣営にも西側陣営にも属さないという意味合いだったのだろうが、その後東西冷戦が集結しEUにも加盟しており、中立かどうかには議論の余地がある。ただし、経済的にはヨーロッパと統合されてはいるが、軍事的にNATOとの連携を主張する人がいるのだという。山間の永世中立国というと平和なイメージがあるが、徴兵制が敷かれている。オーストラリアは南のという意味だが、オーストリアはドイツ語で東のというような意味である。つまりドイツ語圏の東の辺境地域に当たる。

ヒトラーを直接選んだドイツと違い、オーストリアは戦後「ナチスの最初の被害者」という認定になった。ドイツは脱ナチズムを徹底しなければならなかったが、オーストリアではナチス思想が完全には淘汰されなかった。これは日本に似たところがある。日本国民は軍部にだまされたという位置づけになったために、日本からも戦前の思想が完全に淘汰されることはなかった。

オーストリアは最近まで、中道右派と中道左派の連立(これを大連立と呼ぶそうだ)だったのだが、移民が国内に流入し、寛容な左派に懐疑的な姿勢が強まり、中道右派が右傾化したとされる。この右傾化を主導したのが今回首相になると言われているクルツ氏である。中道左派政党との関係を絶ってしまった上に、単独では政権運営できないので極右政党と連立するのではないかと言われている。クルツ氏は左派との連立を「馴れ合いだ」と主張しているようだ。

このニュースだけを聞くとオーストリアの右傾化は今始まったように思えるのだが、実際には90年代頃から予兆があったようだ。事務総長にもなったワルツハイム大統領がナチスの将校だと分かった80年代には非難を受けたが、90年代に入ると自由党のハイダーがナチス思想へのシンパシーを示すようになった。しかし、ハイダーがオーストリア政界から排除されることはなく、一定の支持を得た。

オーストリアの国民の90%はドイツ語を話す。しかしながら、ドイツとの再統合を目指す動きはほとんどないそうだ。ドイツ人というとプロテスタントのイメージがあるが、オーストリアはハプスブルク家の本拠地なのでカトリックが強い。特に自由党はカトリック系の支持が強いということだ。つまりドイツとオーストリアは宗教が違っており、言語が一つだからといって単純に統合すべきだということにはならない。

大ドイツ主義への傾倒があるわけでもない自由党が極右とされるのは、その出自が戦前のドイツ民族主義に根ざしているかららしい。テレビでは「ナチス残党が結成した」などと紹介されることもあるようだが、ナチス党とは同じ民族主義政党でありながら競合関係にあったと説明する文章もあり一定しない。いずれにしてもナチスの影響を受けていることが、自由党が極右だとされる一つの要因になっている。

復興の都合上国民党や社民党は独立後選挙に復帰できたのだが、自由党は再独立後は選挙に参加することはできなかった。しかしながら左派と協調する右派の人たちに反発する人たちの受け皿となってきたという歴史があるらしい。つまり中道というのはお互いに妥協が可能な程度の左右の違いということを意味するのだろう。単純に言えば資本主義経済のもとで競争して成長を目指すのが右で、競争から脱落しそうな人を競争に戻す手伝いをするのが左である。

そこから外れて別の体制を目指すのが極右や極左ということになるはずなのだが、オーストリアの極右はそこまで脱体制的でもないようだ。どちらかというと、ナチズムやファシズムの再興を防ぐための周囲からのプレッシャーという意味合いが強そうに思える。オーストリア自由党は、例えば昔のオーストリア帝国を再興したいとか、ヨーロッパの集団自衛体制を抜けて独自の軍事力を持って外国に侵入できるようにしたいなどという野望を持っているわけではなさそうである。

自由党のハイダーが極右的と言われるのは次の3つの理由によるとされているというブログを見つけた。ただし、ハイダーが活躍したのは90年代のことである。

  • ナチスの政策の一部を評価した。
  • ヨーロッパ協調ではなくドイツ人ファーストの主張を持っている。
  • EUからの脱退をほのめかした。

この程度のことが極右だとすると、自民党も希望の党も極右ということになる。麻生太郎副総理は常々「ナチスの手口に学べ」と言っているし、小池百合子東京都知事の主張も都民ファーストである。日本の「極右政党」である自民党は戦前の政体へのシンパシーを隠さないが、アメリカとの自由連合的枠組みからの離脱を訴えていない。ゆえに少なくともアメリカからみると極右には見えないのだろう。極右、極左というのは極めて便宜的なラベルなのだということがわかる。

ハイダーはナチス擁護発言を繰り返しながら自由党からリベラル勢力を追い落として党内権力を固めた。だが、結局自由党を見限って新しい政党を立ち上げた。と同時に、ハイダーは民営化を軸とした新自由主義者。この辺りは維新の党や小池百合子に似たところがある。しかし、ハイダーが国家指導者になることはなかった。そのあと休止してしまったからである。

現在の自由党を率いているのはシュトラーヘは、イスラム排斥の主張で知られるそうだが、あまりカリスマ性はないようで、シュトラーヘについて書かれた記事はあまり見つけることができなかった。

ハイダーについて着目できるのはドイツ民族主義と新自由主義の奇妙な関係である。この点に関して分析している文章を見つけた。

つまり、ハイダーは新自由主義者だったが、新自由主義は下層国民を不安にさせるので、この人たちにドイツ人としての帰属意識を持たせるて新自由主義的な不安を払拭しようとしているというような主張である。問題はなぜ自由党が新自由主義を提唱するのかということだが、経済的に停滞しているというわけではなく、中道に傾いた(多分極右の側から見ればリベラルによりすぎた)政権から権力を奪取するために手段だったのではないかと考えられる。つまり、現在の体制を批判するためには、その勢力が腐敗していると言わなければならず、そのためには彼らが持っている既得権益を破壊しなければならない。その手段が民営化なのである。

しかし、既得権に守られた主流派の人たちがいるわけだから、彼らには別の帰属意識を与える必要がある。それが民族だということになる。

この図式で最初に思い浮かんだのが小泉政権である。小泉政権が郵政民営化を言い出した理由は、彼が自民党内での権力闘争に勝つために敵陣営の支持団体を潰す必要があったからである。半公務員的特権を持っている特定郵便局の職員たちが利権集団だったのだ。そこで「自民党をぶっ壊す」と言って郵政民営化を提唱し、それに反対する人たちを「抵抗勢力」と決めつけて駆逐した。

この流れを引き継いだ勢力が二つある。一つは民営化政策をコピペして大阪自民党からの権力奪取を画策した日本維新の会である。市民病院を売払い、今度は地下鉄を民営化するそうだ。もう一つが小泉純一郎のやり方を間近で見ていた小池百合子だ。こちらは東京自民党から権力奪取をするために、停滞する豊洲・築地問題やオリンピック問題を利用した。しかし小池はあまり東京都での民営化には興味がないようで、国政への再進出を画策中である。

しかしながら、日本人はあまり新自由主義に懐疑的になることはないようで、民族主義的な主張は行っていない。多分、競争社会になれば自分は勝者になれるという楽観的な見込みを持っている人が多いのではないかと思う。

一方自民党は既得権を持った利権集団が高齢化のために崩れてきているので、別の支持者達を集める必要があった。どちらかといえば旧体制への回帰や民族主義を標榜している人たちは自民党に多い。一度政権から脱落した際に否定された傷がトラウマ担って残っており、これが恨みとなっている。だから自民党の憲法草案には「日本国民から天賦人権を取り上げるべきだ」という主張があるのだ。その代わりに「民族の一員として奉仕せよ」という全体主義的な主張があり、これが一部の人たちに熱狂的に受け入れられている。それはあたかも公営の新興宗教のような色彩を持っている。

しかしながら、現在の自民党の経済政策はどちらかといえば「無政策」である。小泉政権時代の小さな政府主義が温存されたままで、国民保護的な政策も同時に打ち出されているからである。

例えば、商工中金は民営化されることが決まっているが緊急時対応を行っており、株式はまだ国が持ったままである。大学も国の保護を外れて自主的に経営されることが求められているのに、無償化しようという声がある。全てがこのような調子で一体何がしたいのかよくわからない。

日本の状況を見ていると経済的な不調が新自由主義と復古的な民族主義を生み出すのだと結論付けたくなるのだが、オーストリアは経済が好調だ。だから経済的な不調から右傾化が進むという状態ではなさそうである。日経新聞は次のように書いている。にもかかわらず右傾化が進むのは移民の流入によるところによるもののようだ。しかしその源流は移民ではなくEUという大きな枠組みの変化なのだろう。

ドイツ、オーストリア、チェコはいずれも経済が堅調で、失業率も低下傾向にある。現政権に追い風が吹いてもおかしくない状況だが、くすぶり続ける難民問題への不安がポピュリズム政党の伸長につながっている。

「自分たちで決められない」という不満と政治家同士の権力闘争が、新自由主義や復古的な民族主義を生み出すと考えるべきなのかもしれない。

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