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意外とでたらめではない希望の党の選挙公約

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今回解散総選挙であまり語られないことの一つのメディアと選挙の関係がある。どうやら小池さんは無党派層をどう取り込むのかという作戦を立てたようだ。具体的にはビッグデータを取り込んで最大公約数を抽出してそれを公約化している。だが、これを政治評論家が見るとでたらめに見えるのではないかと思う。一人の人がイデオロギーや立ち位置に沿って発言すると考えてしまうからである。

つまり、これは算術問題である。算術問題なのでコンピュータさえあれば、どんなに複雑でも解くことができるとうことになる。

仕組みは簡単だ。有権者を所与のネットワークだと仮定する。このネットワークの多くの人が望むような答えを導き出せればそれが所与のネットワークに対する正解となる。だが、有権者はそれぞれバラバラな願望を持っているので、出てくる答えも当然バラバラなものになる。

有権者のネットワークはそれぞれに結びついていて、それぞれ影響を与え合いながら政治的発言をしている。だから、その発言を読むことができれば少なくとも彼らが何を望んでいるのかがわかるはずである。この一つひとつが有権者にとって「正解」である。だから、街頭や地方組織を通じて意見を集約する必要はない。

ここで問題になるのは、声の大きさが数に結びつかないということだ。例えば、左派リベラルは長い時間をかけて文脈を獲得しており、軍拡禁止・護憲・反原発などの様々な要望を持っている。だが数には広がりがない。広がりを捕捉するにはそれぞれのネットワークのつながり具合を調べれば良い。緊密に結びついている人たちは似通った人たちであるのでひとかたまりとして「演算処理」できる。

つまり、広がりを調べてクラスター化すればよい。全ての願望を叶える必要はなく1つ何か叶えてやれば良い。

できれば、この所与のネットワークを重複もないし漏れもないという状態で捕捉したい。これをMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)という。だが、軸が複雑すぎるので二次元や三次元のマップを作ってもMECEにはならない。だから、ネットワークをどうやってMECEに近い形で捕捉できるかということが重要になる。

つまりそれぞれ別の人たちを補足しようとするので、結果的な公約集はとりとめのないものになる。ある人は年金資金の確保を願うだろうし、別の人たちは熱心にベーシックインカムというアイディアを普及させようとしている。別の人たちはアレルギー症状に苦しむ。だったら、すべて公約化してしまえばよいのだ。

これを可能にしたのがTwitterである。これを使えばある程度ネットワークを補足できる。もちろん全員がTwitterをやっているわけではないが、少なくとも材料は揃っておりいろいろな声が拾えるはずである。

しかし、この仮説にはいくつかの問題がある。一つは政治的なメッセージを発しているからといって、その人たちが選挙に行くかどうかはわからないということである。選挙に行かない人たちはノイズなので取り除く必要がある。支持政党を表明していても選挙に行かない人も同様である。これは投票というフィードバックが必要である。

次に、有権者が総合的に政策を判断していないことが前提となる。あれもこれも公約にして結局何をやりたいのかわからないとなれば、その政党は支持が得られない。だが、実際の有権者の関心は案外狭いのではないかと考えられる。つまり、原発に反対している人はそれだけが重要だと考えており、他のイシューには極めて無関心だということだ。つまり、日本人の気持ちはバラバラで、お互いに関心を持たないから、アラカルト式でも構わないのだ。

これに似ているのがAKB48やSMAPだ。メンバーになんらつながりはないが、それぞれ好きなメンバーを見つけるとあとはグループ全体を応援してくれる。一方、80年代のアイドルにはそのアイドルの固定ファンしかつかない。

これは固定ファンではなく、無党派頼みの戦略なので、投票率が上がらなければ戦略そのものが破綻してしまう。無党派を巻き込むためには分かりやすい答えと敵の存在が不可避である。分かりやすい悪役がいれば有権者の他罰感情が刺激されるので投票率が上がるが、対立構造が作られなければ有権者は選挙には行かないだろう。

最後に重要なのが、有権者は選挙の時だけしか政治課題に興味を持たないのではないかという仮定である。つまり、選挙の時に脱原発を訴えさえすれば「いつかは必ず実現するだろう」と満足してしまいそれ以上この課題をフォローしなくなるという見込みである。脱原発派は安倍政権から徹底的に否定されてムキになっている。しかし、普段から政治を監視しようなどとは思わないのだから「工程表を作ってやっています」とさえ主張していれば、実は別に何もしなくてもよいということだ。

小池さんはこれをすでに豊洲と築地でやっている。豊洲には「安全に移転しますよ」といい、一方で築地の方には「五年後には戻ってこれますよ」と言っている。実際にはどちらも中途半端な状態になっており当事者は大騒ぎしているのだが、有権者は他人の問題には徹底的に無関心なので小池さんの人気が落ちることはなかった。だからこの作戦は一定程度効果をあげているのではないだろうか。

いずれにせよ、選挙のたびごとにTwitterなどでビッグデータをインプットしてやり、それをチューニングして行けば投票動向がわかる。何回か選挙を繰り返せば政策集がチューニングできるだろう。だから、そこからできあがる政策集は結果的には評論家から見るとめちゃくちゃでバラバラに見えるということになる。実は小池さんがめちゃくちゃでバラバラなのではない。日本人がバラバラなのである。

本来ならチューニングには投票行動が重要な指標になるはずだが、テレビで何が伝えられたのかということがわかれば、その結果支持率がどう動いたのかということがある程度つかめる。もし支持率が動かなければヒットしなかったということだし、支持率が上がればそれをある程度の所まで訴えればいい。だが、ある程度ゆくと支持しつの伸びが鈍化するはずだから、そこで別のネットワークに向けたメッセージを訴求すればいいということになる。つまり「選挙はテレビがやってくれる」のである。

選挙に勝つことだけが政治だと割り切れば、この作戦は有効に作用するだろう。政治はもはや問題解決の手段ではないということである。これは、入試問題を解くのに似ている。東大の入学試験ならばあらかじめ傾向と対策が決まっているのだが、政治課題は傾向と対策が決まっておらず、常に動いている。これを算術的に捕捉できれば、あとはその通りに振り付けて踊ればよい。政治評論家のいうことは一切無視しても構わないのである。

だが、政治家たちは算術計算の結果を見て振り付けを変えなければならないので、あらかじめ所信を表明したり、仲間同士で政策協定を結ぶことなどできないはずだ。だから白紙の協定にサインをしなければならないのである。

いずれにせよ、小池さんや希望の党がめちゃくちゃなのではない。政治不信の結果多くの人たちが社会から逃避してしまったために、有権者が政治に期待するものがめちゃくちゃになっているのである。

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