北朝鮮からミサイルが発射され、朝のテレビは大騒ぎだった。Jアラートの禍々しい画面が映し出され、全テレビ局のすべての番組が中断した。しかしJアラートの情報は曖昧で、行動支援には全く役に立たなかった。それでもパニックが起こらないのは「北朝鮮が日本に直接ミサイルを打ち込むことなどない」とみんなが漠然と思っているからだろう。だが、これは極めて深刻で重大な状況だと思われる。
日本が危機に陥るのはどんな時だろうか。それは強力なリーダーシップがなく状況が物事を支配する時だ。いわば集団思考に陥った時だと言える。現在、日本は集団思考に陥っている。つまり、誰も行動を起こすつもりがないのにとにかく大騒ぎして時を稼ぐのである。
真東に落ちたのかはわからないが、だいたい距離感についてはこんな感じになるようだ。
ミサイルがどこから飛んでくるかはわからないので、場所が特定できなかったことを非難するつもりはない。またJアラートの本番稼働は初めてなのだろうから、受信トラブルも修正していけばよい。
だが、一気に不安になったのは安倍首相の次の発言だった。
「北朝鮮が発射した弾道ミサイルが我が国上空を通過し、太平洋に落下いたしました。政府としては、ミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢を取ってまいりました。 我が国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威であり、地域の平和と安全を著しく損なうものであり、断固たる抗議を北朝鮮に対して行いました。国連安保理に対して緊急会合の開催を要請します。国際社会と連携し、北朝鮮に対する更なる圧力の強化を日本は強く国連の場において求めてまいります。 強固な日米同盟の下、いかなる状況にも対応できるよう緊張感を持って、国民の安全そして安心の確保に万全を期してまいります。」
安倍首相が「完全」とか「100%」というのは必ず嘘をつくときである。東京オリンピック誘致の時には「福島原発の状況は100%安全」と言っていたし、森友学園問題の時も「自分も夫人も全く関与していない」と言ってその後の国会審議を大混乱に陥れた。加計学園問題でも「絶対に関わっていない」と言っている。
もし完全に把握しているなら広範囲にJアラートを出す必要はない。Jアラートが正しければどこの上空を飛ぶのか良くわかっていなかったことになる。また飛んでくる恐れがあるのならいざという時は(例えば部品など)を射ち落す命令は出しているべきだ。が、そのような命令はでなかった。
このように明らかにちぐはぐなことが起きているのに「完全に」と言っている。これは明らかに嘘なので、つまり「どうしていいかわからなかった」ということである。実際にはこのような解説が出ている。つまり原理的に「発射直後に完全にわかる」ということはありえないのだ。
弾道ミサイルはブースト中(加速中)だと着弾地点は分からない。ブーストが終わったなら上昇中でも着弾地点は予想できる。発射直後に何でもわかるわけじゃないんだよね。たまに早期警戒衛星で探知した瞬間に着弾地点が分かると誤解してる人もいるけど。 pic.twitter.com/HGEKieFqAI
— JSF (@obiekt_JP) 2017年8月29日
となると、安倍首相はどうしていいかわからなくなると、色々と質問されたくないのでとにかく「絶対に大丈夫」と言ってしまうのだ。実際に安倍首相ができるのはトランプ大統領に泣きついて40分電話することか、国連で仲間の国に圧力をかけてもらうくらいしかできることがない。ミサイルが飛んできても射ち落すことはできないし、落下してくる部品を打ち落とすことができたとしても、破片は地上に飛んでくるだろう。
このため、そのあとに様々な憶測が流れた。
- Jアラートは本当は役に立たない対北朝鮮対策に予算をとるための国民向けの恫喝だ。
- これまでにない危機と言っているがそれは根拠もないでまかせだ。
- Jアラートは首都圏には出ていないから、これは単なるお芝居だ。
こうした憶測が飛び交うのは「完全に」などといってそのあとの質問を一切受け付けないからである。結果的に日本人は「Jアラートというのは根拠のないでたらめだ」と思うようになるかもしれない。だが、どちらに傾いたにせよ、北朝鮮が日本に向けてミサイルを撃つことができるということには変わりはない。
その上アメリカも大して頼りになりそうにない。
トランプ大統領は「アメリカファースト(実際には自分ファースト)」なので、日本の状況に構う時間はない。「手持ちの札が悪い」などと嘆いていたが、実際には自分がアメリカを混乱させている。BBCの記事を読むと暗い気持ちになる。アメリカ人は、オバマ大統領の努力で状況が改善されたのにトランプが台無しにしたというのが一般的な理解のようである。
北朝鮮については打ち手がないようだ。トランプ大統領のやり方は相手を恫喝してディールを引き出すというものだが、北朝鮮は最初から対決モードなのでこうしたやり方が通用しない。グアムにミサイルを打ってこなかったので「改心したのではないか」などと根拠のないことをいい、それが間違いだったということがわかるとそれから発言しなくなった。そのあとも具体的な対策が出せなかったので「すべての選択肢がある」といって武力攻撃の可能性を示唆したが、例によって具体的な計画は出さなかった。
トランプ大統領が暇ならば支持率確保のために北朝鮮を利用しようとしたのかもしれないのだが「壊滅的な」ハリケーンがテキサス州などを襲ったために大忙しである。多分、北朝鮮のミサイルにはかまっていられないだろう。
これが安倍首相にいう強固な日米同盟の正体である。立場と驚異の度合いが違うので「日米が完全に一致する」ことなどありえない。だからアメリカに働きかけが必要なのであり、完全に一致しているのなら何もしなくていいということになってしまう。実際には何も言えないので「完全に一致した」ことにして日本側でつじつまを合わせるのだろう。
しかし、それがパニックにならなかったのは、国民も「誰かがなんとかしてくれるだろう」と思っているからだろう。このため放送局ですら状況がわからないので把握しようという気持ちにはならなかったらしい。NHKは襟裳岬に訪れていたバイカーをインタビューしていた。バイカーは「襟裳岬にミサイルが飛んでくると思わなかったから、早くこの場を立ち去りたい」と言っていた。素直な街の声を流したのだと思うが、実際には1000km以上も離れた宇宙空間を飛んでおり、多分襟裳岬から離れても何の意味もなかった。
前に考えた通り、北朝鮮や中国が日本に攻めてくるとは思えないのだが、トップの安倍首相も、報道機関も、そして国民もそれぞれ勝手な思惑で好き勝手に話をしている。多分、偶発的な事態が起きた時にはパニックに陥るはずである。国防上極めて重大な状態にあるものと思われる。
こうした状況は国防だけに起こっているのではない。安倍首相が何かでたらめなことを言うたびに「それは間違っているのではないか」という追求が起こる。ある時はデモにつながり、ある時は憲法で定められた国会の開催が行われなくなる。が、それがでたらめではないという理屈を官僚が考え、ひと悶着している間に次のでたらめが出てくるという繰り返しである。
こうしたでたらめが横行するのは、本当にまずいことが起きたら誰かがなんとかしてくれるだろうという集団思考に陥っているからなのだろう。
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