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なぜいつも北朝鮮のミサイルは聯合ニュース経由で知らされるのか

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また北朝鮮からミサイルが飛んだらしい。こういう時にはテレビの特報が流されるのだが、いつも聯合ニュースという通信社経由である。日本政府はアメリカの顔色を伺って情報をどう出していいか自分で判断できないようなので、韓国経由であるのは仕方がなさそうだ。だが、どうしていつも韓国の情報は聯合ニュース経由なのだろうか。

実は韓国には聯合ニュースしかメジャーな通信社がないらしい。だから、韓国の重要な情報はすべて聯合ニュース経由になる。政府と軍の情報が通達のような形で聯合ニュースに流れるのだろう。

韓国に聨合ニュースしか通信社がないのは、全斗煥政権下で言論統制が起きたためだという。1980年に通信社や新聞社が整理されて現在に至るそうである。なぜそんな非民主的でないことが起こるのかといえば、当時の韓国は共和国ではあっても、民主主義国ではなかったからである。

もともとは軍人だった朴正煕がクーデターを起こして政権を奪還した。1963年のことだそうだ。朴正煕大統領のもとで経済発展するが、権力を固定化しようとしたために反発を招き最終的には暗殺されてしまう。そのあと、クーデターで政権を奪還したのが全斗煥大統領だ。二代続けてクーデターによる軍事政権だったので光州で大々的な民主化要求デモが起きる、

全大統領は、言論統制を行い政府批判を封じた。だが、同時に国民を懐柔するために、エンターティンメントを奨励した。「他に楽しいことがあれば権力批判はしなくなるだろう」と考えたのかもしれない。3S政策と呼ばれるそうだが、スポーツ、セックス、スクリーン(映画)の略だそうである。この動きが最終的にパルパルオリンピックと呼ばれた1988年のソウルオリンピックにつながってゆく。

つまり、韓国に通信社が1つしかないことと、現在韓流ブームが起きていることは同じ根でつながっているということになる。

テレビでは今でも言論弾圧が続いている。「韓国メディア界が背負う負の遺産」というニューズウィークのコラムにこんな話が出てくる。日本では考えられない光景である。

公共放送局の社長は事実上、大統領が選任するが、任期中に思うがまま解任することはできない。08年、李明博大統領が選んだKBSのユ・ジェチョン理事長(当時)は、私服警察を動員して会議室を封鎖した上で、盧武鉉政権時に就任したチョン・ヨンジュ社長を解任する決議案を審議し、無理やりクビにしてしまう強引な手を使っている。

このコラムを読むと、一旦言論弾圧をする「クセ」がついてしまうと、有権者やテレビ局の労働者がマスコミの報道方針を信頼しなくなることがわかる。さらに、大統領の意向を受けた経営者が全能感に浸り、好き放題に経営を私物化する。そして、次の大統領が就任すると苛烈な追い出しが起こるわけである。韓国は延々とこのような状態を繰り返している。

日本でも言論統制的なことは行われている。だが、日本人は積極的に言論統制に従っている。日本人が数紙しかない大新聞とNHK以外を信用しない。また記者クラブのようなものを作って、自主的な検閲を行っている。記者クラブは新聞社の互助的な組織だったのが、戦時体制で言論統制機関となった。GHQは解体を迫ったが容認され、現在に至っている。つまり、翼賛的な取材体制が今も「マスメディアの自主性」の名の下に残っている。

面白いのは韓国はあからさまに言論統制を行っているが、日本はあからさまではないということである。ところが結果は真逆になる。韓国人は報道をあまり信じず自分で状況を判断するので、大統領を解任するようなデモを起こすが、日本人はデモを起こさず「おかしくなったらだれかが解決してくれるだろう」と思うわけである。

こうした韓国の状況が「面白く」見えるのは、日本が韓国のような進路をたどりつつあるからだろう。安倍政権はかなり露骨にNHKの人事に介入し、一部の有権者からかなり反発された。あるニュースを伝えたとか伝えなかったことに関して「偏向報道だ」という声が聞かれるようになり、スポンサーを恫喝したりテレビ局に直接電話をしたりということが一般化しつつある。一方でオリンピックを推進して、それを言い訳にしてテロ関連法制を通すなどいうめちゃくちゃな論理が横行するようになった。これが行き着くと、あらゆる報道機関で高圧的な経営が横行し、権力が変わった瞬間に前の政権のバッシングが起こるという病的な状態が日本にももたらされることになるだろう。

全斗煥大統領時代にはオリンピックが誘致され韓国が先進国の仲間入りをしたという印象を与えた。しかし、全斗煥大統領そのものはオリンピック開催前に政権を追われ、民主化を弾圧したという罪で有罪判決を受ける。逮捕監禁されていた方の金大中はのちに大統領になった。

韓国は朝鮮戦争後、政治抗争が相次ぎ経済成長ができなかった。考えてみれば韓国は民主主義を経験したことがないので、話し合いによって意見をまとめることができなかったのだろう。そのあと朴正煕大統領が大統領に権力を集中させることで漢江の奇跡と呼ばれる経済成長が実現する。

日本人は曲がりなりにも話し合いによって意思決定をすることができるのだから、何も韓国を真似する必要などないはずなのだ。

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