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米朝ミサイル危機に日本が巻き込まれる可能性は極めて高い

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朝日新聞の記事が波紋を広げているようだ。この件についてはうっすらと答弁を聞いていたのだが、朝日新聞のような印象は持たなかった。朝日新聞の記者の頭の中は「安倍政権は戦争をやりたがっている」という想像が大きく膨らんでいるのだろう。

小野寺防衛大臣の答弁には一連の流れがある。個別の事情については答えられないとしつつも、考え方としては存立危機自体に当たり得るので武力行使を行う可能性があるというのである。

後になってわかるのだが、その理屈はかなり厳しいものがある。アメリカの打撃力が失われると日本の防衛が手薄になるから危機だというのだ。アメリカの攻撃を我が国の攻撃とみなすということなので、これは限定的な集団的自衛権の行使とはいえない。

確かに、国内向けの説明はいくらでも捏造できるだろう。70年以上も何も起きていないので、そもそも国民は国防政策には興味がない。だが、アメリカ側が日本にどれほどの活動を許すかということはわからない。すべてはアメリカ次第なのだから、日本に独自判断はできない。だから、事前に国会で「こういう方針である」とは説明できないのだろうと思う。これに対して野党は多分わかっていながら「稲田大臣と変わらない」とあらかじめ書いてあったセリフを読み上げるようにして避難していた。

日本は敵基地打撃ができる普通の国になりたい。そのために邪魔になっているのが実はアメリカである。アメリカは日本を防衛するためにいることになっているが、同時に日本がアメリカに対して脅威にならないように押さえつけている。

アメリカの懸念を払拭するために日本政府は涙ぐましい努力をしてきた。安倍首相と中谷防衛大臣がアメリカ議会に出向いて「安保法制を作ろうとしているのはアメリカと一体的に行動できるようにするためだ」と言って拍手喝采された。リップサービスだったのかもしれないがアメリカにミサイルが飛んできたら日本が打ち落としてあげますよというような話もしたようだ。これはご存知のようにオバマ政権下のリバランス政策によるものだが、大統領が変わってしまったので現在どうなっているのかはよくわからない。トランプ大統領は悪く言えば戦略がなく、よく言えば是々非々でロシアや中国に対応している。

だが、約束だけは、現在でも誇張された状態で生きている。

トランプ大統領支持者に人気のFOXニュースは今回の出来事をこのように伝えている。

北朝鮮からグアムにミサイルが飛んだ場合には、日本はそれを打ち落すことができるかもしれない。小野寺防衛大臣は、このようなケースでは日本はイージス防衛システムを発動する権利があると国会の答弁で述べた。

また中段では次のように書いている。

日本の法律では、日本の領土にミサイルが飛んできた時にしか対処できなかったが、新しい防衛方針を作ったのでアメリカやその他の同盟国が攻撃されても対応ができるようになった。

限定的集団的自衛権などという概念がアメリカ人に通用するはずもなく、すでにグアム攻撃の際に日本がコミットすることは既成事実だと受け取られている。こうした過剰な期待が実行されなければ、一部のアメリカ人は「日本は何もしてくれない」と失望することになるだろう。だから、安倍首相は憲法違反でもアメリカの期待に沿って行動するしかない。つまり、安倍首相がその地位にある間に東アジアで危機が起これば、日本は自動的に参戦することになるのである。
小野寺防衛大臣は自民党時代に先制攻撃がどの程度許されるかということを研究して政府に提言していた。その時には積極的に先制攻撃を推進していたのだろうが、現在では政府の一員になったので表向きには公式には検討していないことになっている。だが、防衛大臣になって自分が作った提案を自分で審議するという立場になった。アメリカからのお許しがあれば国内的にはどうとでも解釈するだろう。その意味では稲田防衛大臣よりタチが悪い。

こういうことがわかっているので朝日新聞は騒いでいるのかもしれないが、報道方針に問題がないわけではない。「極めて異例である」とことさらに騒ぎ立てているので、あたかも日本が単独で意思決定できるかのような印象になっている。実際には北朝鮮が不審な動きをしてもアメリカの目を気にして独自判断ができず日本の領土が危機に陥る可能性があるわけだが、そちらの可能性を落としてしまっているのである。

朝日新聞は決めつけた書き方をすることによって「安倍首相は戦争をやりたがっている」というような印象を与えようとしている。実際には軍隊というおもちゃを持ちたいという感覚が強いのではないだろうか。案の定これが広がり「日本が戦争に巻き込まれる」というような扇情的な反応が見られた。

と同時に「朝日新聞が書いているのだから小野寺防衛大臣の方が正しい」という脊髄反射的な反応も見られる。こちらは世界一のアメリカがついているのだから日本は大丈夫だろうというような安心感があるのだろう。産経新聞は小野寺防衛大臣が「政府としては敵基地攻撃能力についていまのところは検討しない」と言ったことに対して、今すぐ検討すべきだと言っている。強いものについているという自信と、中国や朝鮮に対する被害者感情があるのではないかと思われる。

どちらも現実を正しく映し出しているとは言えない。

興味深いのは北朝鮮はこうした状況がある程度わかっているようだということだ。このニュースをよく聞くと、北朝鮮はグアムを攻撃するとは言っていない。領海の外であり、厳密には公海である。アメリカへの攻撃能力は誇示できるが予防的にアメリカが攻撃すれば国際的には非難されることになる。ミサイルを打ち落としたとしてもアメリカが国際社会から制裁されることはないだろうが、一発でもアメリカが迎撃に失敗すれば、実質的には北朝鮮の勝ちである。失うものは何もないからだ。

アメリカは自衛を宣言できないので、日本も集団的自衛を発動できない。予防的な先制攻撃は厳密には戦争犯罪だがそれでもなんとか許容範囲と言える。だが「公海にミサイルを落とす」と明示的に宣言しているわけだから「攻撃される懸念がある」とは言えない。

イラクはm意図を隠して大量破壊兵器を保持しているという因縁をつけられ攻撃されたのだが、北朝鮮は意図を明確にした上で兵器を開発した上に「公海上に落としますよ」と言っているのだから、却って攻撃をする材料がないのだ。とてもうまいことを考えたと思う。実は北朝鮮の議論が一番合理的なのである。

だが、その言動が日米関係に与える影響は甚大だ。アメリカが北朝鮮のような小さな国に対して何もできないことが露見するだろうし、日本に限って言うと、日本が軍事的野心を満たすためにアメリカに約束していた口約束が嘘だったということがわかる可能性もある。

先ほどのFoxニュースでは、日本がイージスシステムを発動する権利があると書いてある。が朝日新聞を読むと次のような記述がある。

一方、自衛隊がグアムに向かうミサイルを迎撃する能力を十分に備えているかとの疑問もある。北朝鮮から日本の中国・四国地方上空を通過し、グアムへと向かうミサイルを、イージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」の能力で撃ち落とすのは「技術的に困難」(防衛省幹部)。日米両政府は現在、SM3の命中度と飛距離を改良した「SM3ブロック2A」を開発中だ。

そもそも発動する権利があるかどうかはわからないし、その実力もどうやらないようなのだ。

こうした不思議なことが起こるのは、現在の戦争の体系が侵略戦争を元に組み立てられているからではないだろうか。侵略戦争とはつまり他国の領土を攻撃してそこにある天然資源や港などを奪うことが目的になっている。だから北朝鮮が非難されるためには、なんらかの天然資源を取得するために兵器を使用しなければならない。だが、北朝鮮は侵略のためにミサイル発射実験を行っているわけではないので、この侵略戦争の筋で非難することができないのだ。

日本の場合はさらに複雑で(何の目的なのかはわからないが)軍拡したいと考えているのだが、自衛のためだという理屈が必要なので、攻撃されるという現実的な懸念を持つ必要がある。だが、日本には大した天然資源はないので、中国にせよ北朝鮮が襲ってくる経済的なメリットがない。だから、日本には敵基地を叩くような<防衛>能力は必要とされない。

さらにアメリカも実際には天然資源の利権を保全することが戦争をする動機になっている。イラク戦争は自衛の戦争だと言われたが「大量破壊兵器を持っている」というのは、ほとんど言いがかりだった。だが戦費を調達できたのは現地の石油利権が確保できるからである。北朝鮮には奪うべき資源はないので国会や国際社会からの協力が得られない上に、イラク戦争の分析でも、石油利権の割にはコストがかかりすぎた戦争だという認識があるそうだ。北朝鮮を奪っても得られるものがないので、戦争への出資者が集まらないのである。

戦争の動機がないのに、言葉だけがエスカレートするというとても不思議なことが起きている。が、一つだけ言えるのは安倍首相の口約束によって日本がトラブルに巻き込まれる危険性はとても高い。アメリカについて行動するか、アメリカを怒らせるかのどちらかが起こるだろう。

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