安倍自民の本当の敗因という文章が話題になっているようだ。「すっきりした」とか「腑に落ちた」という声が多いようだ。が、これは目の前に起きているかなり不条理な状態を、慰撫しようとしたにすぎない文章ではないかと思う。学校で日本は民主主義国であり、みんなで仲良くしなければならないなどと習ってしまったので、その思い込みから脱出できないのだろう。
前回見たように日本人が政治家に期待しているのは問題解決能力でも社会の統合精神などではもない。有権者が望むのは政治家が常に試合に勝ち続けることである。小泉純一郎は守旧勢力の郵政族をぶっ潰し、安倍晋三は民主党政権から日本を取り戻した。さらに小池百合子は旧態依然とした古い自民党から都議会を奪還した。その姿に人々は一喜一憂する。テレビに釘付けになり、勝利する政治的リーダーに酔いしれる。が、その視聴者に「何が問題なのか」と聞いてみればよい。きっと少なく見積もっても1/3くらいは答えられないだろう。
この闘争の肝は敵の認定だが、もう一つ重要なのが誰でも投票権だけで参加できるという点だろう。人によっては投票すらしていないかもしれない。いずれにしても有権者は自分で問題設定はできない(意欲も能力もない)ので、誰かが代わりに問題設定して、ついでにその敵を倒してくれることを熱望するのである。が、より多くの人が参加できる闘争でなければならない。
安倍晋三の勝因は、民主党政権を引き合いに出して「自分たちはより優れていて勝ち組なのだ」と言い続けたことにある。反対している人たちもいるが、彼らは競争に負けた負け犬なので配慮する必要はない。菅官房長官に「批判は当たらない」といわせておけばよかったのだ。
安倍晋三の敗因は、実はこの闘争が仲間内のために行われていたことが露見してしまったからだろう。彼はお友達を優遇するために強者を演じているだけだった。そのことがわかるにつれて熱は冷めてゆくのだが、稲田さんや金田さんといった取り巻きもバカばかりだということがわかってくる。前川前文部科学事務次官が出てきて理路整然とした反論をするころになると、ますますそれが堅調になってゆく。上がバカでは戦争には勝てないわけだから、支持が落ちて当然なのである。
それが顕著になったのが「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかない」という敗残者の言い訳めいた強がりなのである。もうあの時点で負けていたのだ。
だが、あろうことか安倍晋三は「これは叱咤なのだ」などと弱腰の姿勢を見せてしまった。これではますます戦争には勝てない。ということで、今後支持は急速に落ちてくるだろう。いったん負け犬のレッテルを貼られたら、あとは石を投げられるだけになるだろう。
安倍首相は「あの人たち」に負けた。が、実際には「あの人たち」の姿をみてはいないはずだ。つまり、自分から声を上げず、政治に積極的に参加せず、負け組だなと思ったらさっさと見捨ててしまうような人たちに負けたのだろう。が、その人たちは民主党政権にも同じことをした。つまり、今までそういう人たちに勝たせてもらっていたのだ。
いずれにせよ、有権者は対立を望んでおり、融和などといった甘っちょろいことは望んでいないのではないだろうか。でなければテレビが政局報道ばかりである理由がよくわからない。つまり日本人にとって政治的に平和な状態とは、多くの有権者が一つになって、政治家たちが血みどろになりながら争うことなのだろう。この闘争を有権者の側に押し付けたのが、安倍晋三に一番罪深いところだったのかもしれない。
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