稲田防衛大臣ら政府三役が防衛庁にいない時間があったそうだ。時間的にはそれほど長くはなかったらしいのだが、重要な判断が必要とされる事態が起こったらどうするつもりだったのだろうかと思うし、そもそも24時間体制で災害復旧に携わる人たちが多いのだから、不謹慎だと言われても仕方がない。
稲田大臣はすでに指示はしていたから問題ないと言っている。自衛隊としてもすでに命令は受けているので問題ないという判断だったようだ。これが確かなら防衛大臣というのは、政府の責任者の意図を伝える伝書鳩のようなもので特にいなくても構わないということになる。だったら、メールか何かに置き換えたほうが良い。
自民党は緊急時には内閣に権限を集中させるべきなどと言っているが、伝書鳩にどんな権限を与えるのかきっちり「説明責任」とやらを果たしてもらいたいものだ。
例えば、石破茂元防衛大臣は、緊急事態条項の改正を訴える一人である。毎日新聞は次のように書いている。
会合で石破茂元幹事長は「草案には緊急事態をきちんと書いている。立憲主義を守るために必要だ」と述べ、12年草案に沿った改憲案の作成を主張。山谷えり子元防災担当相も「東日本大震災のとき、現場の行政は私権制限によって訴訟が起きるのではないかと混乱した」と述べ、条項新設に賛成した。
ここでいう緊急事態とは東日本大震災クラスのものを想定しているらしい。が、実際に防衛大臣がやっているのは「命令を出す」だけで特に独自判断は求められそうにない。確かに石破さんのような人が大臣であれば頼りになりそうだが、防衛大臣は稲田さんでもできる程度の仕事であり、将来的に誰が防衛大臣になるかはわからない。であれば、防衛大臣は不確定要素でしかないので、権限は最低限であるべきだし、もしかしたらパニック時に変なことをしないように、緊急事態には権限を取り上げるべきかもしれない。
防衛大臣が自衛隊のトップにいるのは軍隊を文民が抑えるという役割があるからだ。が、稲田さんはそのことを多分よくわかっていないので、周りの官僚たちが稲田さんの暴走を抑えるという状態になっている。
稲田大臣は、選挙の応援時に「自衛隊が自民党の候補者を応援している」などと発言して、現役自衛官の顰蹙を買った。問題は公職選挙法がどうしたとか、あとで撤回したというような話ではなく、稲田さんがそもそも政軍分離の原則を理解していないことだろう。
この、防衛大臣の耐えられない軽さは日本の安全保障上の大きな懸念材料になっている。アメリカのティラーソン国務長官が防衛大臣との会談をキャンセルしたというニュースがある。参加者は岸田外務大臣、ティラーソン国務長官、マティス国防長官、稲田防衛大臣だ。
もちろん諸所の噂に妥当性があるとは思えない。どうやらトランプ大統領とプーチン大統領が直接会談ができるようになったらしく、ティラーソン国務長官はその席に呼ばれたのだろう。稲田さんたちと会うのはアメリカが日本にミサイル防衛システムを売り込むのが目的だから、セールス活動よりもボスのお友達をを優先するのは当たり前の話だ。
ロシアとの会談で話し合われたのは今月初旬で、四者会談は今月中旬だそうだ。米露会談で話し合われたのは、ロシアはアメリカの大統領選挙には関係していませんよという言い訳をどう作るかということだったらしい。
問題は、これが国内で動揺を生むということだ。防衛大臣がしっかりした人ならさして話題にはならなかっただろう。実際に岸田外務大臣が見限られているという噂は出なかった。が、稲田さんには様々な憶測が飛び交っている。稲田防衛大臣は交代が予想されるから、やめてゆく防衛大臣と話をしても仕方がないと思われたという説がある。さらに、稲田さんが辺野古に基地ができても無条件に普天間が返ってくるわけではないという「アメリカとの密約」を暴露してしまったことが反感を買ったと得意げに説明する新聞社まであった。
日本人は、政治家やマスコミも含めて、日本は自力で国家防衛ができず、アメリカの当局者のご機嫌次第だと考えているのではないかと思う。つまり、日本はアメリカに見放されたら終わりという気持ちがあるので、セールス活動をキャンセルされただけで動揺が広がる。これは経済にもよくない影響を与えるかもしれない。
もちろん安倍首相もあまり頼りにはならない。北朝鮮のミサイルをめぐって、アメリカの打ち手が限られていることは周知の事実になりつつある。記者団にそのことを問い詰められたトランプ大統領が精一杯強がっている横で、安倍首相は他人事のようにヘラヘラと笑っていた。あまり英語の意味もよくわかっていなかったのではないかもしれないがかなり不謹慎な態度だ。
自民党はこうした気概も現状把握能力も責任感も何もない人たちに緊急時の大権を与えようという少々常軌を逸した議論を真顔でやっている。もし仮にそのような権限を与えらえたら、パニックに乗じて何をしでかすかわからないし、多分記録も曖昧なままで破棄されるだろう。私有地は取り上げられ、首相のお友達に分配されるのではないだろうか。
稲田大臣は今すぐやめるべきという調子で文章を書き始めたのだが、こういう無能な人がトップにいてもなんとかなっているという現実を直視したほうがいいのかもしれない。大きな地震があった時に政府が頼りになるなどとは誰も思わなくなるからだ。多分、それが正常な判断なのではないだろうか。