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下村博文さんは説明責任は果たした

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東京都議会選挙の最中、下村博文衆議院自由民主党幹事長代理のスキャンダルが出てきた。これについて下村さんは一応の説明責任を果たしたと思う。後は有権者(この場合は東京都民だが)が適宜判断すれば良いだけの話で、それ以上外野がとやかくいうべき問題でもなさそうである。

が、下村さんの行動や説明の何が問題なのかがわからなければ、判断そのものができないかもしれない。バブル世代の人はだいたいこのあたりのことを知っていて議論をしているので、若い世代の人はキャッチアップのために読むとよいかもしれない。

中高年は企業献金というのはなんとなく後ろ暗いものだと思っている

週刊文春が問題にしたのは、内部文書に加計学園の秘書室長から100万円の入金があったという記載を見つけたという点にある。政治資金を規正する法律では、20万円以上の献金については報告することを義務付けているからだ。

問題はなぜそれが義務付けられているかという点なのだが、それはおいおい考えてゆく。が、週刊文春を読んでいるような世代の人は、企業献金は後ろ暗いものという印象を持っている。

下村さんは、この記述は、20万円以下のパーティー券の購入を11人分丸めたものであると説明している。誰が買ったかは言えないと言っているので後追いの取材ができないようにしているのだろう。が、形式的にはこれで説明をしたことになる。20万円以下であれば検証はできないものの形式的に法律には違反しないからだ。

形式的に違反しないにしても、なんらかの問題があれば、やはり責任がでてくるのではないかと思われる。文部科学大臣が学校から寄付を募っていたとなれば、やはり政策の意思決定に影響が出てくるだろう。だが、アメリカのロビーイング活動でもわかる通り、企業や個人が自分の政策を実現するために政治家に働きかけることは必ずしも悪いこととは言えない。

一方で下村さんは加計学園からの献金を(それが何であったかは別にして)隠す意図があったのは確かなようだ。献金があったと言っても、報告してしまえばいいからだ。なんとなく後ろ暗いという気持ちはあり、露見した時の言い訳もある程度考えていたのだろう。

つまり、必ずしもなぜ悪いかどうかはわからないものの、なんとなくバツが悪いから隠しているということになり、これはある程度の世代の人であれば共通して持っている感覚なのではないかと考えられる。

リクルート事件

かつてリクルートという企業が政治家・官僚・企業に働きかけて未公開株を優先的に提供したことがある。これが露見して大騒ぎが起きた。史上最大の贈収賄事件だとされているそうだが、詳細はwikipediaにも書いてある。連日のように、誰がリクルートから未公開株を受け取っていたかということがニュースになり「金権政治」が問題視された。

リクルート事件が露見すると中曽根内閣は退陣に追い込まれた。続いて竹下内閣(DAIGOのおじいさんだ)が倒れ、リクルート事件とは関係ない人を集めた宇野内閣が発足するのだが宇野首相は女性問題で退陣に追い込まれた。芸者を愛人として囲おうとしたというスキャンダルだった。

ではなぜ国民はそれほど怒っていたのだろうか。それは企業に減税が行われる一方で、消費税の導入が決まっていたからである。つまり国民は企業を贔屓してその負担を国民に押し付けたとみなされたわけである。自民党が消費税法案を強行採決したこともあり、消費税にはなんとなく負のイメージがついてしまうことになり、それは今でもあまり変わっていない。

ここで、政治家はバレなければ、企業とズブズブの関係になってしまうのだという印象がついた。実際に自浄作用は働かなかった。政治家というのはお金に汚いという印象を持った有権者が多かったのではないだろうか。

禊として導入された政治資金規正

最終的に自民党は内部分裂して、細川政権が生まれた。細川首相が担がれたのは熊本のお殿様出身であり、高貴な上に清廉だと見なされたからだろう。55年体制下では最初の非自民党政権である。1994年のことなのだが、背景には土地バブルの崩壊による国民の苛立ちもあったのではないかと思われる。

中選挙区制度で同じ政党同士で争うからお金がかかるのだという説明がなされ、企業からお金をもらわなくても選挙ができるようにしようという名目のもと、政治資金と選挙制度の改革が行われた。実際には政党本部の影響力の強化と弱小政党潰しが狙いだったのではないかという観測がある。これが現在の安倍政権の一強化につながっている。

この頃、金権政治家のレッテルを貼られることはタブーだった。例えば東京佐川急便が金丸信経世会会長に5億円のヤミ献金をしたという東京佐川急便事件がある。クリーンなイメージで登場した細川護煕首相だったが、この事件への関与を疑われ(実際には一度借りていたがすでに返済していたそうだ)て支持率を下げてしまった。これは自民党の印象操作にすぎなかったのだが、この程度でも内閣が倒れていたのである。

この後、自民党は社会党(現在の社民党)と組んで政権に復帰して、民主党に政権を奪還されるまで政権を維持した。

結局のところ下村さんの何が悪いのか

企業がその経済活動のために政治家に働きかけるのは、民主主義社会においては普通のことだと考えることもできる。が、一方で、企業と政治家が結びつくと、有権者が置き去りになるということが起こる。有権者は必ずしも合理的には行動しないので、いったん悪い印象がつくと、政党そのものが全否定されてしまう。

問題は一人ひとりの政治家が「これはまずいのではないか」と思ってはいても、他の人たちがやっていると競争上企業献金に手を染めてしまうという点にある。だから、一度倫理規定を緩めてしまうと、大きな汚職事件に発展する可能性がある。政治資金規正は、歯止めのための道徳律だと考えることができるわけだ。

あくまでも道徳律なので、破ったからといって直ちに不都合が起こるわけではない。しかし、誰か一人が道徳律を破ってしまうと歯止めが効かなくなる可能性が極めて高い。例えば下村さんの説明が通ると、1000人 X 20万円の企業献金も可能になる。これでは道徳律としての意味がなくなってしまう。

現在、私学の経営は極めて厳しくなっている。だから学校としては政治家との結びつきを強めたい。多分、他の学校がやっているならうちもということになるだろう。

下村さんが発したメッセージは、形式的に規正を守れば、何をしても構いませんよということなので、これが許されてしまうと、抜け駆けをする議員が増えることが予想される。そのうちに歯止めが効かなくなり、再び有権者の大きな怒りを買う可能性もあるだろう。

さらに、献金の規正は政党交付金とセットになっているので、関連企業から寄付を受けるならば、政党助成金制度も廃止するべきだろう。国民一人当たり250円を支出することになっているのだが、これは本来「企業からお金をもらわなくてもやってゆくため」のお金だったからだ。

問題はどこにあるのか

下村さんは多分後ろ暗いところがあり、加計学園との関係を隠していたというのは間違いがないだろう。が後ろ暗いところがあるのだから当然言い訳も考えていただろう。つまり、この点で下村さんを罪に問うことはできない。が、そもそも政治資金関連の法律は、国民の印象をよくするという曖昧な目的のために作られているので。明確な契約に基づいたものとは言えず、正確な意味では説明責任に馴染まない。

これが選挙期間中に出てきたのは、こうした背景によるものだ。有権者はなんとなく「金権自民党」を思い出してしまうと投票を控えてしまうので、スキャンダルが出た瞬間に目標は達成されていると言えるのだ。

だが、いったん紳士協定が破られてしまうと、その後はなし崩し的に形骸化してしまい、政治的な混乱につながることになるものと予想されるのだ。

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