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前川前文部科学事務次官の要約する力

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前川前文部科学事務次官が記者会見を行って、これまでの経緯を説明した。とても爽やかに思えた。爽やかに思ったのは、前川さんの人となりが素晴らしいと思ったからではない。筋が通っていてわかりやすかったからだ。

これまで政府は、十分に説明責任を果たしてこなかった。本来の意味での説明責任を果たさなかったというのはもちろんだが、そもそも説明にすらなっていない。論理構成がめちゃくちゃなので継ぎ接ぎだらけのストーリー展開になっているうえに役者はその筋書きすらおぼえていないという体たらくだ。そのため、メモを読んだり、後ろにいる脚本家たちにセリフを聞きながら、たどたどしい演技を続けていた。とてもお金をもらって見る芝居という感じではない。

一方、前川さんは自分の見聞きしたことを話せば良い。メモなども最低限で、質疑応答にもすらすらと答えていた。が、多分「筋が通っていてわかりやすい」のはそのせいだけではなかったのではないだろうか。

話を聞いていて、官僚の頭の良さは複雑なことを覚えておける能力ではないなと思った。物事の本質を見極めた上で、周囲の複雑さを削って行くのが彼らの頭の良さなのだ。

前川さんは攻めるべきポイントを絞り込んでおり、それ以外のことについてはニュートラルな姿勢を貫いている。萩生田さんを味方につけて和泉さんをターゲットとしているというのもその一例なのだろう。例えば、義家副大臣などは別にどうでもよいコマなので「役人が書いたものを読まされているんじゃないですかね」などといなした。こうすることによって、党派性で発言しているのではなく、歪んだ政治を正したいだけなんですよねという印象が生まれるし、マスコミもヘッドラインが書きやすくなり、さらに野党側も追求の方針が立てやすくなる。が、後から考えてみると何も指示はしていない。

さらに人を動かすテクニックも持っている。国民主権ということを訴えている。つまり、人の善意に働きかけていることになる。安倍首相が憎くてやっているわけではないが、そろそろ正しいと思うことをやってみませんかというように聞こえる。

こうしたことができるのは、前川さんの意図が絞られているからだろう。加計学園の獣医学部新設さえ潰せればいいわけだ。例えば成田の学校は厚生労働省が需給計画を出しているのだが、農水省は獣医学部の需給関係についての資料が出せなかったそうだ。内閣府側は「農水省はコミットしなくて良いから、黙って見ていろ」といい、文科省に認可を迫ったというストーリーになっている。つまり、認可するにしてもそもそもの裏打ちがなかったことになる。

野党側は安倍首相の関わりを証明して退陣に持って行きたいのだろうが、そんなことをしなくても手続きがめちゃくちゃだったことは明快なので、この点に絞り込めば加計学園の計画を潰すことは可能だ。最終的に「お友達のために安倍首相は無理をしたんだろうなあ」という印象が残ればそれで良いのである。あとは、有権者が適当に判断するだろう。

前川さんの人格がどうだったのかという話もあるのだが、これも本当のところはよくわからない。

ボランティアの件ももともと告発の予定があり、後で話が出ることを見越して「いい人」を演じていた可能性がある。人格攻撃が予想されているとすればそれくらいのことはやって当然だと言える。ほとんどチェスや将棋の世界だが、これくらいのことができないと官僚にはなれないのだろう。政治家が最終的に手玉に取られても当然だなと思った。

素直に一連の話を聞くと、背景には安倍一派と麻生一派の緊張関係があったように思える。前川氏は福岡の選挙で安倍側が勝利してパワーバランスが変わったのではないかとほのめかしつつ、慎重に「何があったかはわからないんですがね」などと言っていた。裏を読めば、実は文部科学省は麻生派についており、安倍派を潰すのに協力しているなどと考えることもできるだろう。もしかしたら政治家同士の対立を利用する極悪人なのかもしれない。が、それは本筋にはあまり関係がない。

マスコミの対応はいくつかに分かれた。これも官僚の頭の良さと比べると劣等さが目立つ結果になった。最初の類型は政府を追求したい人たちなのだが、安倍首相の責任問題を追求するために、彼らが考えているストーリーの裏打ちになるネタを要求していた。何を要求しているのかは明確にわかっているのだから、なんとなく応えてあげたくなるところだが、前川さんの側にも当初作ったストーリーがあるわけだから「わからないことはわからない」と繰り返すにとどまった。多分、情報が多すぎてマスコミの人たちも整理できていないのだろう。

次の類型はあからさまに「ネタをよこせ」という人たちだ。産経新聞は政府側に立っているので文部科学省の情報提供者を明らかにせよと要求して拒否されていた。産経新聞は記者の知能を劣等化させるように、食べ物か水に何か混ぜているのではないかとすら思った。独特なキャラと声で有名なTBSラジオの武田さんは「他に何かネタはないか」とあからさまな要求をした。ネタはあるかもしれないが、今後の政府からの攻撃も予測されるので、ここですべての弾を射つはずもなく、「今の所はない」などと言われて終わりになった。この人たちはそもそも何が本質かということにはあまり興味がなさそうだ。

最後の類型は引退してフリーになったもののNHKの肩書きにこだわっている老人だ。彼は民主主義の危機だという演説を行った後で「質問は何か」と聞かれていた。組織で仕事をしていると最後はああなってしまうのだなという痛々しさがあった。

頭がいいというと、いろいろな情報を集めてそれを記憶する能力だなどと思うわけだが、昨日の記者会見を聞いていると、複雑さを排除して本質に集中するのが本当に頭がいい人なんだと思った。

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