ざっくり解説 時々深掘り

アウフヘーベン

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小池都知事が豊洲移転を決断した。アウフヘーベンと言っていたが、結局は玉虫色の解決策で、ある意味極めて日本的なやり方と言える、つまり日本人は何も決めないことを決めていることになる。表で決めると誰かの顔が潰れるからである。小池都知事は誰の顔も潰さないことを決めたことになる。

この解決策の良かった点は、やっと魚市場の定義ができたことだろう。誰がどうみても、今の築地市場には2つの全く異なった役割がある。これを分離して現代化すべき部分を豊洲に、伝統として残しておくべきところを築地にという整理をしたのはよかったと言える。

が、よかったのはそれだけである。小池都知事が決めたこと(あるいは言ったこと)はいくつかあるので整理して行こう。冷静に考えればわかる話ばかりなので、気がついた人は意外と多かったようだ。

築地の開場を5年後に設定したこと。小池さんが5年後に都知事であるという保証はない。多分、今回の発表の目的は都知事選挙での争点を潰しだったのだろう。自民党を中心とした議会がしっかりと役割を果たせていないということさえ証明できれば、築地問題そのものはどうでもよい問題だったのではないだろうか。その意味では石原元都知事と似ている。都政は道具なのだ。

都が新たな支出をすることを決めたこと。豊洲だと赤字が膨らむと言っているのだが、築地を市場として残しても赤字が解消できる理由がわからない。ワイズスペンディングだと言っていたので、実はスペンディング(お金を使うこと)を決めたのだが、英語だったので記者たちにはよくわからなかったようだ。が、反対意見がでないように、具体策は何も出さなかった。いわば「白紙委任状をください」と言っている。

都に政策立案能力がないことを認めたこと。これからいろいろな人の意見を募ると言っていた。有識者会議でも立ち上げるのかもしれないが、これは都に政策立案能力がないということを認めたことになる。であれば規制を緩和して民間に任せればよいのだが、関わりは持ち続けたいらしい。

このことからネット上では様々な懸念の声が聞かれた。日本人はあまり積極的には政治に関わらないが、実務的な人たちには問題がわかっていたようだ。実は極めて冷静な民族なのである。

指摘として多かったのは「金がいくらかかるかわからない」というものである。日本は内需が縮小し続けているので公共事業にはさまざまな業者が群がってくる。賢く使いましょうというのはうわべだけで、自分たちが持っている技術をいかに高く売りつけることができるのかということに熱心な人たちばかりだ。都の側はアイディアがなく、お金は出しましょうということだから、小池都政はこうした人たちのよいカモになることは間違いがない。

さらに「観光」という概念を持ち出してしまったことで、収支計算がますますややこしくなった。観光なので「面白くすれば集客が見込める」ということになる。競争相手はディズニーランドだ。が、真剣にディズニーランドと競争したらどうなるだろうか。多分、忍者の格好をした仲卸に魚を捌かせたりすることになるのだろう。テーマパーク化というのはそういうことである。築地の人たちは懸念を表明している。伝統の支え手ではなく「見世物になれ」と言われているからだ。

築地にバリューがあるのは「立地がよく、しかも見学そのものにはお金がかからない」からである。収益をあげようとして入場料をとったらそれだけで築地は成り立たなくなってしまうだろう。その意味ではディズニーランドとは違っているし、役所がそれを実現できるとはとても思えない。

さて、豊洲新市場はさらに悲惨な運命が待ち受けているような気がする。一つは除染のための実験場という位置付けである。安心・安全を区別しなかったことで「除染にはいくらお金がかかっても構わない」ということになりつつある。よく考えてみれば食糧流通の市場なので採算が取れるところに持って行けば終わりなのだが、豊洲にこだわってしまったことで、割高になっている。その上に有毒な場所を選んでしまったために、除染にいくらお金がかかるかがわからないということになりそうだ。

一見悪そうな話だが、裏を返せば「いくらでもお金をかけていい」利権が生まれたことになる。都民が安心を求めていますといえばいくらでもお金が使えるのだ。多分、冷静に聞いてみれば食べ物倉庫にお金をかけるより、保育所を増やしてくれという意見の方が多いだろうが、多分しばらくそういう議論はないだろう。そもそも都心の一等地に食べ物倉庫を作ることそのものが採算性が取れない話なのである。

さらにIT化をオブジェクティブに入れたのも実はまずかったのではないだろうか。ITというのは目的を達成するための手段なのだが、豊洲市場のIT化はには実は目的がない。あれば発表していたはずだ。もし、それがなければ大手ベンダーが先進的な技術を自分たちのリスクを追わずに実験する場所として豊洲を使えるということになる。成功しようが失敗だろうが、それはベンダーにはどうでもよいことだ。リスクを追うのは都民だからである。さらにITベンダーは自分たちでそれをやることはないだろう。どこかの業者に下請けに出して終わりである。

目的もなく、責任を追う人もいないというのは、政治家や役人にとってはまさに天国のような状態だ。

東京都民には二つの選択肢が提供されたことになる。一つは諸手を挙げて額面の入っていない小切手を小池都知事に渡すか、これまでの小さな利権を温存したがっている自民党の人たちを追認するかだ。

普通の感覚だといい格好をして逃げるなどということは許されそうにないが、それが許されてしまうのが任期付きの政治家なのかもしれない。

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