金田法務大臣の答弁がまた迷走した。が、この記事だと議論を聞いていない人にはよくわからないのではないだろうか。
誰かが何か「共謀」していることを政府が知るためには、悪いことを話し合っているということをあらかじめ知らなければならない。そこで「捜査機関はどうやってそれを知るのですか」というのが蓮舫議員の質問である。そこでそれを知るための手段にはメールやLINEなども含まれますよと金田大臣は一旦答弁した。
ところがこれは蓮舫参議院議員のひっかけ質問だった。例えば「手紙を盗み見て共謀の事実があったかどうかを知ることはありえますか」と聞かれていれば金田さんは「そんなことはありえない」と答えていただろう。手紙は信書(特定の相手にのみ送られる)ものであり政治権力が盗み見ることは許されないからである。電子メールにも同じことがいえる。
手紙を盗み見るためにはいったん開けてみる必要があり跡がつく。が、メールやLINEの場合にはハッキングしても跡が残らない。つまり「こっそり見る」ことが可能なのである。加えて金田法務大臣はそもそも電子メールが手紙に当たる(つまり私信でありプライバシーに関係がある)ということがよくわからなかったのではないかと思われる。
僕は共謀罪には反対の立場なのでこんな法律はやめてほしいのだが、政府の立場に立って推進したいとすれば、この法律がプライバシーを踏みにじるかもしれないという疑念は晴らしておきたいところである。が金田さんはその辺りが全くよくわかっていないらしく、説明を聞けば聞くほど様々な疑念が湧き上がってくる。「大丈夫なのかな」と思ってしまうのだ。
いずれにせよ、蓮舫議員に指摘されてようやくことのことに気がついた金田大臣は「一般の人が捜査の対象になることはない」し「監視社会になることはない」と答弁を変えた。が疑念は全く晴れない。答弁に全く裏打ちがない。安倍首相のこれまでの国会での態度をみると「せいぜいそのように努力しますよ」くらいの意味なのだ。
これを総合すると「法文上は電子メールなども捜査の対象として除外しない」が「実際にはやらないようにせいぜい努力しますよ」くらいのことになる。そもそも監視するつもりがないのなら監視しませんと法文に書けばいいだけの話なので、それを書いていないということはやるつもりなのだろう。
これはどのような影響を及ぼすのだろうか。蓮舫議員はこう書いている。
携帯やタブレット端末を使ったメールやライン、SNS情報における通信の中から、捜査機関が「計画の合意」があったと判断するには「監視」がなければ難しい。通信の秘密が本当に守れるのか、自らのデジタル情報が通信傍受、盗聴、GPS端末などで「監視」されることは本当にないのかと、(続) https://t.co/Gw4avvq6m1
— 蓮舫・れんほう@民進党 (@renho_sha) 2017年5月9日
ポイントになるのは「疑いがある」だけということだ。つまり、政府が個人の秘密を盗み見ている可能性が高いが断言もできないということになる。「常に監視されて言論が萎縮する」という話があるのだが、逆に「政府は違法行為を行って国民を監視している」という印象も与えかねず、政府の信用はまた毀損される。多分民進党のテロ対策法案は通らないし、彼らが政権に返り咲くこともないだろうから、この先無責任でいられる民進党はずっと「政府が国民を監視している」と言い続けるだろう。
さて、監視されているとして国民は政府批判を止めるだろうかという問題がある。おそらくあまりクリティカルなことには反応しなくなるだろうが、些細なことで反発する機会は増えるだろう。つまり、政治議論は瑣末な批判へと退化してゆく可能性が高い。それを予測するのは難しくはない。Twitterの政治議論は既にそうなっている。
政治を変えたいと思っている人は政府批判のコストが増えるので、こういう人ほど政治から引きこもることになるだろう。優秀な人は逃げ出せばよく、貢献する必要はないからだ。代わりに弱い人をいじめることで日頃の鬱憤を晴らしたいという人ばかりが政治に惹きつけられるようになるのかもしれない。
実際に資産家は政府を信頼していない。2016年5月に赤旗が伝えたところによると、福武(ベネッセ)柳井(ユニクロ)などの大手企業のオーナー一族は租税回避のために資産を海外に逃しているそうだ。