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豊洲の減価償却による赤字は無視していいという欺瞞

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ちょっときついタイトルだが、減価償却についてのお話。豊洲移転問題について見ていて「減価償却による赤字は無視して構わない」というツイートを発見した。こうした専門知識を持ち出されるとなんとなく「わからない」と思う人が多いのではないかと思う。こうした時、人は2種類に別れるのではないだろうか。1つは専門知識でケムに巻こうとして怒り出す人と、わからないからとスルーしてしまう人だ。
まあ、ここはちょっと辛抱して減価償却について勉強しようではないか。
減価償却は、簡単にいうと大きな資産を購入したときの費用を数年に分けて分割しようというものだ。例えば大型冷蔵庫という資産を買うとそのメリットは数年は享受できるので、費用も数年に分けて負担しようということになる。こうすることによって、大きな資産を買った時いきなり大赤字になり、そのあと黒字になるというような「簿記上の見え方」がなくなる。
これは、簿記で正しく経営を判断しましょうねという考え方に基づく。簿記がないと「いったいいくら儲かっているのか、お金の流れだけを見ていてもよくわからない」ということになってしまうのだ。
ところが、法律上は「必ずしも減価償却しなくてもいいですよ」ということになっているらしい。パラパラといろんなウェブを見たのだが、減価償却についてのアドバイスとして「銀行からの融資を受ける時には黒字に見せたいので減価償却費を計上しない」で「税金の支払いが多いときには減価償却費を使って赤字にする」みたいないことを書いてあるものもあった。つまり、そういう「なんちゃって経営」の小手先のテクニックがかなり横行しているらしい。小手先のテクニックに溺れると、儲かっているのか儲かっていないのかがわからなくなってしまうのである。
減価償却を正しく配分しないと正しい経営判断ができなくなる。つまり、事業判断ができなくなってしまうということがわかった。細かいことはいろいろあるだろうが、経営者でないかぎりこれ以上のことは知る必要はないのではないだろうか。
そう考えてから中嶋よしふみさんというファイナンシャルプランナーの記事を読むと「たちが悪いなあ」と思う。この文章は2つの正しい概念を並べている。減価償却はキャッシュの支出が伴わないので無視して良いと書いてあり、これは正しい。さらに、過去の支出は取り戻せないサンクコスト(埋没費用)なので将来の事業収支計算には参入しないというのも正しい。ということで、正しいことを2つ重ねると結論も正しいような気になる。
確かに一度決済されてしまっており、支出は別の財布から行われるのだろうから(よく考えてみるとどういうお財布から何年計画でキャッシュが出て行くのかについて研究した人は誰もいないみたいなのだが)豊洲がキャッシュ不足になることはないだろう。が、だったらいったん既成事実さえ積み重ねてしまえば何をやってもよいことになってしまう。つまり、豊洲新市場は事業規模からみると明らかな過剰投資だったが、もう作っちゃったので仕方ないよねというのが、この文章が言いたいところなのだ。
さらにたちが悪いことに予防線もしっかり張ってはる。記事をよく読むと「公益のために作ったので過剰投資で赤字になって当然」とちゃんと書いてあるのだ。
そもそも豊洲新市場の問題は「赤字の隠蔽」から始まっている。つまり、都の事業の赤字を隠蔽するためにいろいろな事業の帳簿を合わせたり分割したりして「やりくり」しようとしたことが出発点になっている。結局、東京都の百条委員会はうやむやになってしまったようだが事業の単位を操作することによって、赤字が出ていないように見せていたことが都政の大きな問題だった。民進党や都民ファーストの人たちが攻めきれなかったのは、経理について一通り勉強した経験がないからなのかもしれない。
中嶋さんの記事によると、豊洲単体では赤字になるが、別の市場の会計と合算するので都全体ではバランスを取れているという説明がされているようである。つまり別の市場が頑張って魚市場の過剰投資の尻拭いをするという説明がされているらしい。これも予防線の一つだ。つまりタイトルだけ見て噛み付くと「いやそんなこと言ってないし」と言えるようになっているのである。
築地を守るのは公益性が高いという説明なら話はわかる。築地は観光資源にはなっているが、高級寿司屋に代表されるような手間のかかる魚食文化は衰退していて、なくなってしまう可能性も高い。一般庶民は手間のかかる魚料理を食べないし、接待で高級料亭に行くような人たちも減っているからだ。一方豊洲に代表されるような効率的な魚食文化は市場経済に任せていてもなくなることはないだろう。コストコや西友に公費を入れる必要は特に感じられないし、多分公費を入れずに土地だけ開放すればもっと効率的な流通施設(それを市場と呼べるかはまた別の話だが)を作るのではないだろうか。
多分都政に携わる人たちは枝葉末節のテクニックをたくさん持っていて、こうした操作は過剰投資を引き出すために欠かせない智恵だったのだろうが、そんなことをされていては納税者としてはたまったものではない。
中嶋さんはいちおう冷静に書いているのだが、タイトルは問題が大きい。この結論だけを受けて「問題ない」と言っている人たちは、これを知っていてごまかそうとしているか、著しく倫理観にかけていて問題を感知できないのかのどちらかということになるだろう。
最後に、減価償却費は問題にならないと言っていた人が誰なのかを明かしてこの文章を終えたい。


それは猪瀬直樹元東京都知事だ。確かに経理上は正しいことをおっしゃっているのだが、猪瀬さんは「豊洲は過剰投資だったのだが、誰か別の人が支払うから問題ないよね」と言っていることになる。
経理を知らずに専門家のいうことを鵜呑みにしているのか、それとも知っていて言っているのかはご本人にしかわからないのだが。が、もう辞めてしまわれた方なのであまりいろいろ言ってみても仕方がないようにも思える。


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