安倍首相が記者たちの前に出てきて「アメリカからすべての選択肢がテーブルの上にあるという力強い発言があった」と発言した。みなさんはこれをどう捉えただろうか。
安倍首相を応援する側は、ああこれでアメリカの力強い支援が得られたと感じて安心したかもしれない。民進党のように頼りない政党が政権についていたらきっとアメリカとは仲良く連絡が取れず、日本は危険にされされていただろう。この際、日本もアメリカのお墨付きを得て敵基地攻撃能力を持ち、ならず者の北朝鮮を叩いてしまうべきだと考えた人もいるだろう。安倍さんはこれだけトランプ大統領とツーカーなのだから、きっと要望を聞いてくれるはずだ。
一方、安倍首相が嫌いな側にいれば、アメリカの選択肢には北朝鮮への武力攻撃が含まれており、これは却って日本に災いをなす可能性があるのではないかと反論したくなるかもしれない。やはり北朝鮮には外交を持って交渉すべきで、戦争の危険のある「好戦的な」態度は慎むべきだと思うだろう。安倍首相は戦争ができる国づくりを目指していて、これは安倍首相とお友達が儲けるためなので断じて許容できない。
この2つの基本的な政治態度は幾つかの危うさを抱えている。それは情報の少なさが見込みによって補完されているからだ。つまりこのニュースの本質は「情報が少なく、不確かだ」という点にある。
いくつか懸念すべきニュースが出てきている。北朝鮮が発射した「飛翔体」の正体が特定できていない。情報が錯綜しており、成功したか失敗したかということもよくわからないようだ。これについて「米中首脳会談を前に事態を矮小化しようとしたのではないか」という説さえでている。トランプ政権は就任式の数字を水増しして発表したり「もう一つの現実(オルタナティブファクト)だ」などと言ったりすることがあり、阪神された情報に信憑性がない。日本はアメリカから情報をもらえないと、北朝鮮が何をしているのかがさっぱりわからないという状態なので、これはとても危険なのだ。
もう一つはバノン氏が国家安全保障会議から外れたというニュースだ。最終的に北朝鮮を攻撃するのかを決めるのはトランプ大統領だが、経済(しかも彼が考えるところの)にしか興味がない。このため周囲の情報のインプットが大切なのだが、既存の軍人、官僚との間の権力争いだけでなく、トランプ大統領のお友達と身内の間にも権力争いがあるらしい。様々な思惑が絡めば情報が錯綜し、分析が遅れ、その間に事態が悪化する可能性が大いにあるし、逆に不確かな情報の元間違った決断が下される可能性も高まる。一歩対応を間違えると目も当てられなくなってしまうだろう。
ここから得られる結論は極めて単純だ。アメリカが正しい情報を持っているのか、持っていたとしてそれをきちんと伝えてくれるのか、さらに正しい情報をもとに正しい情報判断をしてくれるのか、ということが何もわからない。テレビの人たちはこれをきっちりと理解しているようで、かなり疑心暗鬼になっているようだった。ただし、表立っては「アメリカは当てにならないのではないか」とか「日本は独自で意思決定できないですよね」などとは言ってはいけない「空気」があるようだ。冷静に「わからない」ということを伝えられればいいのだが、コメンテータは専門分野について解説するのが仕事なので「わからない」と言えないのだろう。
日本はアメリカに影響を与えることもコントロールすることもできず、単に言われたことに「はいはい」と従うしかない立場にある、安倍首相に生育歴をみると「逆らえない人には絶対に逆らわない」性格のようだ。しかしそれでは無力感を感じることになってしまうので「親が言っていることを実はボクも考えていた」と思い込むことによって、その無力感を隠蔽している。これも今流行の「忖度」の一種だが、実は自己欺瞞の一種だと言える。
例えばトランプ大統領が「北朝鮮と戦争だ」と決めれば、日本は黙って従うしかない。すると、周囲が混乱するのを押し切って憲法も無視して正当化を図るだろう。それしかできないのだが、これを自分の意思による「力強いリーダーシップだ」と言い張るしかない。これに従っている人たちも、自己保身のためには安倍首相を「忖度」するしかない。
このようにトップの心理状態が歪んでいると、その部下たちも「何が自分の意思で、何が忖度なのか」がわからなくなってゆくのだろう。だが、それが一旦言葉として発信されてしまうと、それに無条件に賛同する人や、逆に無条件に反発してゆく人たちが意見を増幅させてゆく。
これが安全保障上極めて危険であるということに早く気がついた方がよいのではないだろうか。実は何もわかっていないのだから意思決定などできるはずがないし、それを批判できるはずもないのである。