まとめ
ほかの人と話を合わせるだけなら覚えておくべきなのは次の点だ。「安倍首相はずるい」ということになる。
- 首相と仲が良い加計氏を首相が贔屓してずるいのではないかと疑われている。プロセスには違法性はないのだが、本当にこんな贔屓がまかり通っていいのかという問題がある。京産大も獣医学部を作ろうとしたのだが後で規制項目が増えて京産大は排除された。
- 首相は「もし圧力をかけたなら責任を取る」と言っているので野党が頑張っている。働きかけをしたのは間違いがなさそうだが、これが忖度(勝手に推し量った)、圧力(首相が不当に圧力をかけた)、業務上の指示だったのかが曖昧になっている。どちらにせよ説明するつもりがないのに言いのがれていて、これもずるいのではないかということが言える。
が、もしもう少し考えたいなら次の点を考えてみると良いと思う。ここまで考えると多分民進党の議員には勝てる。
- 規制を温存して利権を確保しつつ特区を作ってさらに利権を呼び込もうとした点が状況を混乱させているんじゃないか。
- 国力の基礎になるはずの教育までが利権の対象になっているのはいかがなものか。競争力を確保するためにどのような学校制度をつくるべきかという根本的な議論がないのはよくないのではないか。
- 忖度などと言われているのだが、そもそも誰がプロジェクトを推進して、誰が説明をして、誰が責任をとるかが全く曖昧になっている。豊洲とか国立競技場などこのような曖昧なプロジェクト管理が横行するのはなぜかという論点がある。
- 実際に学校を誘致した結果として財政が破壊された自治体もあるのだが、全く総括も反省もされていないのはどうしてか。ここで反省しておかないと同じような問題が繰り返し起こる可能性もある。
何が問題かよくわからないがとにかく政局化しようとしている民進党
森友学園問題が大きくテレビで取り上げられたせいなのか、第二の森友問題を作ろうという動きが見られる。安倍政権下では戦略特区を作って学校を誘致して国や自治体の土地と補助金を注ぎ込むとおいうスキームができつつあるらしいのだが、もともと民主党政権時代の規制緩和路線を安倍首相が乗っ取る形で進んでいるように思える。自民党は、民主党の作った規制緩和路線の旨味に気がついたのだろう。つまり、全面的に禁止するのではなく、全国では禁止して利権を守りつつ特別待遇の区域を作ってそこでも利権を確保したほうが「美味しい」のだ。
加計学園問題を批判的に見る人は、何が問題なのかということをよく知った上で議論に参加しなければならないと思う。問題点は規制緩和の私物化である。規制緩和とは政府の関与を減らして民間の活力を高めるという手法なのだが、それを歪めると国家関与を強めることができるのである。
民進党が攻めあぐねているのは、実は彼らは自分たちが推進した規制緩和が何なのかをよく理解できていなかったからなのではないだろうか。
私たちは森友学園から二つのことを学んだはずだった。
- そもそも、学校の認可がとても複雑なプロセスで
- 一度認可が降りてしまうと行政府の監視の目が行き届かない
ということだ。大学入試と同じで入るのは難しいが入った後はフリーパスという構成になっている。
獣医学部の新規設立には業界団体がこぞって反対していたらしい。つまり、新規認可が難しいがゆえに学校が既得権益化しているのだろう。加計学園の場合は複数大臣が「談合」して加計学園だけを参入させるという操作をしたようだ。そういうやり方でしか新しい学校が作れないのだ。
大臣の権限が曖昧
そもそも山本地方創生大臣は首相と今治の特区の件について話をしたことがないと言い張っている。つまり忖度がなかったと言いたいのだが、実はおかしな話だ。安倍首相は特区の責任者なので何も知らないとしたら、上司に報告してなかったことになってしまうのだ。いったい山本地方創生大臣の役割は何かがよくわからない。おまけに「麻生大臣が反対している」という話がある。財務省に睨まれると予算がもらえなくなるかもしれない。などなどと考えると、誰が最終責任者で、どの人に何を聞けばいいかがさっぱりわからない。つまり、これはうまく行かなくても誰も責任を取らないということなのだ。
国民としてはなぜうまく行くのかを説明して貰えばいいだけの話だし、うまく行かなければ責任を取ってもらいたいと考えるだろう。が責任をとってくれそうな「偉い人」が誰もいないのである。
そもそも本当に新しい学校を作るべきなのか
加計学園プロジェクトが妥当かを考える上では、学校(特に高等教育)が本当に市場の要請にあった形で存在しているのかという議論が実は重要だ。獣医さんたちの充足状況に問題がないのなら、このままでよかったわけで新規参入は特に必要なかったことになる。獣医さんの需要(実は家畜医師が多いのだという)が減っているので獣医師の妖精はあまり必要がないという声がある。
同じことが他の学部(特に医学・歯学系)にも言える。だが、こうした議論が行われることはなく「怪文書」とか「首相のご意向」などばかりが取りざたされる今の状況には大きな問題があると言える。
果たして自由主義と社会主義は共存できるのだろうか。例えば、獣医になる人は不況が続く地方よりも大都市に出て行ったほうがよいと考えるだろうから地方の学校に生徒を集めるのは難しい。そこで、国が関与して不自然な獣医学の割り当てをすると、最終的には儲からない学校を国や地方自治体が助成し続け、育成した獣医が都市に戻るという不公平が生まれる。かといって、獣医を地方都市に縛り付けておくわけにはいかない。
学校問題の背景にある地方の衰退とその具体例
学校の誘致問題の裏には地方の衰退という辛い事情がある。衰退した地域は政治力を駆使して新産業を誘致しようとするのだが、地方に誘致するのは容易ではない。そこで比較的コントロールしやすい学校に目がゆくことになる。「地方を支える人を育てる」という美しいお題目を否定できる人は誰もいないので、こうした学校に補助金が注ぎ込まれてしまうのだ。
がこれが悲劇を招くことがある。
千葉県の東端にある銚子市は人口減が進んでいる。産業といえば漁業・キャベツ栽培・醤油製造くらいしかない。利根川を挟んだ茨城県の神栖市や鹿嶋市に人口が流れている。神栖、鹿嶋には立派な港湾設備と大きな工場がいくつもあり、税収に差がある。つまり銚子市は地域間競争に負けてしまったのだ。
そこで銚子市は千葉科学大学を誘致し初期投資として土地などを含めて77億円を支出した。学校が誘致されると生徒や先生が銚子市に住むようになり、地方交付税が2億円以上増収になり元が取れるという説明だったようだ。だが、無理をして大学を誘致したものの思った様な効果は得られなかった。銚子市が大学誘致にかけた金のうち回収できていない借金が2016年5月時点で44億円もあり、さらに財政危機が進んでしまった。
さらに大学には中学校や高校レベルの教育も理解していない様な生徒が集まっているという噂もある。生徒数を確保する必要があり、まともな入試が行われていない。優秀な生徒は都市部に出てしまうだろう。学生時代ならではの経験も(たぶんアルバイト先すらない)できないし、就職にも不利だからだ。
千葉科学大学も「アベトモ」の加計学園の事業なので「最初から政治力を使って地域を騙そうとした」といううがった見方もできるのだが、そもそも最初から事業として無理があった可能性が高い。いずれにせよ「過ち」の代償はとても大きい。頼みの綱だった新しい企業誘致が結果的に市民生活に大打撃を与えるということが実際に起こるのだ。
だが、安倍政権が銚子の問題を反省している気配は感じられない。特区に関する朝日新聞のリーク文書には「千葉は時間がかかりすぎた」という文言が入っていた。誘致させるまでが政権の仕事であとは野となれ山となれという刹那的な意識が強いのだろう。
最後に
実はかなり複雑で根が深い問題がたくさんあるのだが、これらが整理されて議論されているとはとても言い難い状況だ。多分、最初から全てを把握するのは難しいだろうから、一つひとつを取り出して考えてみるのがいいと思う。